第八十三話
翌日
装備を整えたヤマト、ユイナ、ルクスの三人は家の前に立っていた。
荷物はほとんどアイテムボックスに収納されているため、新しい装備と共に旅装束になっている程度だった。
「さて、それじゃあ行こうか」
「ゴーゴー!」
意気揚々とヤマトとユイナは先を歩くが、困ったような表情のルクスはその場で足を止めていた。
「……あれ? ルクスどうかした?」
きょとんとした表情のユイナの質問に、ルクスは思案顔になっていた。
「いえ、我々はどこに向かうのでしょうか……?」
ユイナとルクスの作った食事をみんなでとったあと、ルクスは長く家を空けるための用意をしていたため、予定を聞いていなかったことを思い出す。
二人も一緒に掃除や荷造りを手伝ったりしたが、先に旅の支度を終えたヤマトとユイナは夫婦の寝室で相談していた。――次に自分たちがどこに向かうのかを。
「あぁ、ルクスには言ってなかったね。昨日決めておいたんだけど、まずは森林都市に向かうつもりだよ。せっかくだからあの街を散策しておこうと思う」
ごめんね、と申し訳なさそうに苦笑しながらのヤマトの言葉に、ルクスは落ち着いた表情で頷いたが、自分が提案した森林都市から向かってくれることを内心で喜んでいた。細く長い尻尾を弾むように揺らして歩く様子からも嬉しさが伝わってくる。
「わかりました! ちなみに、そのあとの予定は決まっているのですか?」
森林都市に向かう道を歩きながら、ルクスが質問をする。
「あぁ、倉庫にあったものの中にいくつか面白いものがあったから、それをフリージアナの近くにいるミノスのもとへ届けるつもりだよ。それも終わったら次はレベル上げに行こうと思ってるかな」
その質問にヤマトがふわりと笑って答える。レベル上げと聞いてユイナはご機嫌そうなにこーっとした笑みを浮かべている。
「ユイナ様はレベル上げがお好きなんですねっ」
「もっちろん! MMOプレイヤーは総じて――なんていうと大げさかな? まあ、結構レベル上げが好きな人は多いと思うよー。一番わかりやすい強化だからね! レベルが上がることで確実に強くなれるから」
うずうずしている雰囲気のユイナは早くレベル上げに向かいたいようだった。
「付け加えると、レベルが上がると目に見えて数値が大きくなるのは楽しいから、かな。単純明快な数字ってすごく目標にしやすいし。レベルも経験値も努力した分、必ず増える。そして、今まで倒せなかったモンスターが倒せるようになったり、挑戦できなかったクエストに挑戦することができるようになる――つまりレベルが上がることでやれることの幅が広がるんだよ」
ユイナの言葉に便乗するように付け足したヤマトも、例漏れずレベル上げが好きなタイプだった。
「なるほど、今は私もレベルがあるようです。――えっと、槍士、レベル三十とありますね……。恐らくこれはとても弱いのでしょうね……」
二人の話を聞いたルクスは納得したように頷くと、自分のステータスを確認して分析していた。思っていたよりも少ない数字にしょんぼりと肩を落としている。
「……えっ!?」
「……本当に!?」
その一方で、それを聞いたヤマトとユイナは驚くこととなる。
「そ、そんなに低いでしょうか……?」
驚かれるほどに悪い数値であるのかと、ルクスは少しショックを受けていた。心なしか足取りは遅くなり、尻尾や耳もだらんと垂れ下がっている。
「いやいやいやいや!」
「そこじゃないよ!?」
二人はルクスが気にしている部分とは別の部分に驚いていた。
「――ルクス、ステータスみえるのかい?」
「そうそう、それそれ!」
この世界でステータスを見ることができるのはこれまでヤマトとユイナだけだった。しかし、ここにきてルクスというもう一人の存在を確認できたための驚きだった。
「えっ、えっとステータス画面のことですよね? 一応見ることができますが……これは、特殊なことなのですか?」
戸惑うルクスの質問に二人は真剣な表情で大きく頷く。
その後、三人は足を止めて、状況を詳しく確認していった。
「なるほど、つまりルクスはメニュー画面を使うことはできないけど、ステータスは確認できるということか。ちなみに、相手のステータスが見えたりはするかい?」
考え込むように顎に手をやったヤマトの質問を受けて、ルクスは目を細めてヤマトのことをじっと見る。小さく唸りながらしばし彼をじっと見つめているルクスのことを、ユイナは可愛いものを見る時の幸せそうな表情で見ていた。
「……ダメですね。見えないみたいです。相手がお二人だからなのか、それともそもそも見ることができないのかわかりませんが」
大きく息を吐いてがっくりとした様子のルクス。どうやらヤマトに向けたステータス確認――調べる、という能力は全く発動していないようで、力なく首を横に振る。
「なるほど、でもステータスが見られるだけでも便利だね。自分の力がどんなものかわかるってのは重要なことだよ」
励ますようにルクスの頭を撫でながら、うんうんとヤマトは頷き、にっこりと見惚れるような笑顔を見せたユイナもそれに同意する。
「あぁ、そうそうレベルが三十って言ったっけ。確かに高くはないけど、レベルは上げればすむから気にすることはないよ? 俺たちと一緒に戦っていけばすぐに上がるはずだ。実はエクリプスもその方法でかなりレベル高くなったからさ」
自信たっぷりのヤマトの言葉に、きょとんとした表情のルクスは首を傾げる。
「えくりぷす、さんですか?」
エクリプスはこの世界に来てから仲間になった馬であり、ルクスの記憶にはなかった。昨日のヤマトの話の際にも名前が出てきたことはルクスの記憶にあったが、ずっと姿が見えないため、きょろきょろと周囲を見渡している。
「あぁ、説明してなかったね。紹介がてら呼ぼうか」
思い出したようにヤマトはそう言うと、エクリプスの呼び笛を吹いた。高らかな笛の音が周囲に響く。
何をしたのかわからないルクスは再び首を傾げるが、ヤマトとユイナは答えずにニコニコと笑顔でただただ待つことにする。
時間にして数十秒経過したところで、蹄が力強く大地を蹴る音が近づいてくる。
「――ヒヒーン!」
そして、勇ましい鳴き声も聞こえてきた。
「あれは……」
音を頼りにルクスは声の方向に目をこらす。
「来たね……本当にどこにでも来るもんだなぁ」
ヤマトはもしかしたら、このエリアには来ないのではないかと思っていたが、エクリプスはすぐにヤマトのもとへと到着した。呼び出されたことを嬉しそうにしているエクリプスは息荒くヤマトの顔にすり寄る。
「おー、どうどう。来てくれてありがとう。――エクリプス、紹介するね。俺の使い魔で新しい仲間のルクスだよ」
「あなたがエクリプス殿ですか。私の名前はルクスと申します。よろしくお願いします」
ヤマトに紹介を受けてエクリプスと目が合ったルクスが深々と頭を下げた。エクリプスの強さは動物の勘でわかるようで、しっかりと敬意を払っている。
「ヒヒーン!」
じっとルクスをしばらく見ていたエクリプスも、新しい仲間と聞いて喜び、ルクスに顔を擦り付けていた。
大きく身長差のあるエクリプスとルクス。
嬉しそうに鼻を鳴らすエクリプスに力強く顔を寄せられて、押され気味なルクスだったが、互いを認め合っているのがわかり、ヤマトとユイナはその様子を温かく見守っていた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:槍士LV30
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新連載始めました。
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「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」