第八十一話
ヤマトの職業――剣聖と大魔導士。
ユイナの職業――弓聖と聖女、そして聖強化士。
彼らのメイン職業である剣聖と弓聖が装備できるものの中で、秘蔵していた最上級のものを探して身に着ける。
ゲーム時代、レベル1000まで上げた彼らが集めた品はそれこそ多岐にわたり、中にはもう二度と手に入らないであろうレアリティの高いものが職種ごとに全て揃っていると言っても過言ではなかった。
だからこそそれらを装備しただけで、レベルが百以上上がったのと同じだけの効果をもたらすことになることは明らかだ。
「昔の自分たちに感謝だね。同じ装備をこれから手に入れようとしたらいくら時間があっても足りないくらいだよ」
「だねえ。これだったら、この先も全力で進めそうだね!」
実際に取り出したものを装備してみると、動きを邪魔することなくそれぞれの身体にフィットし、また力が漲ってくることも感じられた。
それぞれ今まで装備していたのは剣聖と弓聖の初期装備より少し強い程度のものであったため、それを装備していた頃との違いをはっきりと感じ取っていた。
ヤマトが装備したのは【轟天シリーズ】と呼ばれるもので、剣、兜、鎧、籠手、足、脚のそれぞれに轟天の名にふさわしい輝きに満ちた爽やかなデザインが施されているのが特徴だ。
ユイナが装備したのは【風雷シリーズ】と呼ばれるもので、弓、兜、鎧、籠手、足、脚のそれぞれに風雷の名にふさわしいスッキリとした綺麗なデザインが施されているのが特徴だ。
アクセサリ系はまだ確認できていないが、潤沢な品揃えがあるため、二人に不安はない。
「んふふ、今ならトリトンともまともにやりあえそうだねっ」
「うん、これならまだまだ先に進める」
二人は自分たちのステータスをみて、それぞれの力を確認していた。レベルや能力もそうだが、強い装備を身に着けることでより実力を発揮できそうだと嬉しそうにしている。
「失礼しま……おぉ! お二人ともとても良くお似合いですね!」
ルクスは部屋に入ってくると、二人の姿を見て、感激したように手を合わせ、まずは褒めることから入る。
しかし、これはルクスにとってお世辞でもなんでもなく、それぞれの装備自体が恰好良いものであり、見目麗しいヤマトとユイナ自身の容姿もあいまってとても似合っていたからだった。
「……そ、そう? そう言ってくれると嬉しいな。装備自体も強いし、これなら次に行けるはずだ」
「ありがと、ルクス! 今は武器と防具だけだけど、アクセサリ系も確認すれば、かなりの底上げになるから楽しみっ」
照れ交じりのヤマトとにっこりと笑顔のユイナ。そんな二人を見てルクスは疑問が一つ頭に浮かぶ。
「あの……お二人はどこに行こうとされているんですか……?」
次に行ける――そのユイナの言葉がルクスは気になっていた。不安そうに彼らに尋ねる。
なんとなくではあったが、ルクスもここが以前とは違う状況にあることは感じていた。
「――ルクスは今がどんな状況になっているかわかるかい?」
視線を合わせるようにしゃがんだヤマトは穏やかな表情でルクスの質問に質問で返す。
尋ねられたルクスは嫌な顔一つせず、その質問に答えようと考え始めた。
「そう、ですね……つい数時間前に目覚めたばかりですので、わかるというほどではありません。それを前提としてですが、私がご主人様にお仕えしていた場所とは似て非なる場所であるような気がします。なんといいますか、あの時はこのように自我がなく、お二人に自分の考えを話すことができませんでした。……その、言い方が合っているかわかりませんが、自分がシステムの一部だったというような……」
どう話したらいいか悩みながらもルクスは自身の考えを一生懸命言葉にする。
その話を聞いてルクスの状態も、ポセイドンやミノスと同じような状況であると理解できる。
「理解できるかわからないが、どうやらルクスは頭がいいようだから話しておいたほうがいいかもしれないね」
立ち上がってユイナの方を向き、そう言ったヤマトに彼女は笑顔で頷いた。
「――ルクス、俺たちはこの世界をゲームで遊んでいたんだ……」
そこから、ゲームとはどんなもので、どう遊んでいたか。
そして、自分たちがこの世界に来た時の話。ここまでどんな戦いをしてきたのか。それをヤマトは順番に話していく。
静かに話に聞き入っているルクスはヤマトの話を彼なりに理解していった。
「……なるほど、それではお二人はそのゲームの中に飛ばされてしまったということですね。そして、ここは世界として存在しているため、私や他のキャラクターがお二人とお話ができると」
納得がいったように結論を出したルクス。彼の理解度の高さにヤマトとユイナは驚いていた。
「ルクス、頭いいんだね……初めて聞くような言葉もあったのに」
自分だったら、まず疑うことから入るため、ここまですんなりと理解できなかっただろうとユイナは思っていた。理解できたルクスを褒めるようにその艶やかな毛並みを優しく撫でる。
「ふふっ、お二人が私に嘘をつくはずがありませんからね! その点で素直に聞くことができました。聞きなれない単語はとりあえず別の言葉に置き換えながら聞いていましたっ」
くすぐったそうに微笑むルクスはなんでもないことのように言うが、それすらも二人には驚くべきことだった。
「とりあえず今の状況に関して理解してもらえたみたいだから話を戻そう。俺たちがどこに向かうのか、だけど……正直なところ、よくわかっていない。ポセイドンに会ったのも、ミノスに会ったのも、森林の民の長老に会ったのも――結局全て成り行きだったからね」
そこまで話してお茶を一口含む。少し冷えたお茶はヤマトの気持ちをスッキリさせた。
「海から別の街に行きたい、封じられた森に行くために、そしてここに来るために、その目的のために向かっていたらたまたま彼らに会っただけで……だから、自分たちから動くとなると何を優先すべきなのか、少し困ってるんだ」
それがヤマトの素直な気持ちだった。悩んでいるようだったが、苦笑交じりに話すヤマトの雰囲気に暗さはない。
ちなみにその隣で難しい顔で頷いているユイナは、適当に色々な街を巡ってみようとだけ考えていた。
「なるほど……それでは、少し現在の世界の状況を確認していきましょう! 確か地図があるはずです。それも、変化があれば最新版に更新されるものが確かあそこに……少々お待ち下さいませ!」
彼らの助けになればとルクスは自分の部屋に急いで戻って行った。
「……なんかルクス頼もしいね」
「うんっ! 可愛いし、頭いいし、頼りになるねー!」
二人ともふにゃりと目を細めてルクスが出て行った扉を見ながら、彼のことを称賛していた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
轟天シリーズ
剣聖が装備できる最上級の装備。
突き抜けるような蒼天をイメージした青と白を基調としたデザイン。
シリーズが全て揃うと《轟天覇王》というコンビネーションが発動し、全ステータスが底上げされる。
風雷シリーズ
弓聖が装備できる最上級のもの。
吹き抜ける爽やかな風ととどろく雷鳴をイメージした緑と黄色を基調としたデザイン。
シリーズが全て揃うと《疾風迅雷》というコンビネーションが発動し、全ステータスが底上げされる。
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「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」