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第七十四話



「――ねえヤマト、なんか落ち着かないね」

「うん……さすがにこれは……」

 いま、二人はギーガーが用意してくれた宿にいた。宿が確保できたにもかかわらず、二人の表情は困惑交じりである。


 その理由は、ギーガーの用意してくれた宿にあった。


「ここは俺の別荘だ。掃除はメイドにやらせておいたから、あとは好きに使ってくれ。飯も決まった時間に用意するから、宿と同じようなものだろ」

 宿と同じ――あっさりと軽いノリでギーガーはそう説明するが、彼が用意したものは豪邸という言葉がしっくりとくる別荘だった。使用人やメイドもこの応接室に案内されるまでの間、軽く十人はその姿を確認することができた。


 ここは街から少し離れた位置にあったため、襲撃の被害には合わなかったようだ。


「あ、あの、ありがたいんですけど……その、いいんですか? こんなお屋敷を……」

 予想外の展開に戸惑うヤマトは遠慮気味に質問をする。ユイナは控えめにだが興味深そうに周囲をきょろきょろと見回している。


「ははっ、いいんだよ。お屋敷なんて大層なもんじゃない、普段はほとんど使わない別荘だからな。たまに使ってやらないと家っていうのは悪くなる一方だから、お前たちが使ってくれるのはいい機会だ」

 ヤマトの心配を笑い飛ばしたギーガー。彼にとってはいくつかある別荘の一つであり、サイズも本宅に比べたらかなりサイズダウンするものだった。


「は、はあ、それじゃあ遠慮なく使わせてもらいます」

 ちらりと見回すもちょっと見ただけで高いと分かる家具を目にしたヤマトは未だにどうしたものかといった表情だったが、ユイナは既に切り替えている様子だった。

「ようっし、ヤマト! おうちの中を探索しよー!」

 許可が下りたと判断したユイナは新しいおもちゃをもらった子供のようにきらきらと目を輝かせて、走り出し際にヤマトの手を引くと、そのまま応接室を飛び出していった。





 その後ろ姿を見送ったギーガーは近くにあったソファにどさりと座り込み、体重を預ける。


「――ああいうところを見ると、見た目より年齢が若いように見えるんだがなあ。あの二人にあれだけの力があるとは……」

 誰に言うでもなく、ギーガーはぼんやりと呟く。彼らの戦闘の様子はある冒険者が詳細に報告してくれた。それを聞く限り、彼らの力は本物であり、かつ圧倒的だったという話だった。


 ギルドマスターが話を信じるその冒険者。

 彼はBランク冒険者であり、実力と誠実さに定評があり、ギルドでも一定以上の評価を得ている人物だった。


「ま、少し口は軽いが、嘘はつかないやつだからな。信じるしかないだろう」

 深く考えても仕方ないとギーガーはそう呟くと、あとは屋敷の使用人たちに任せることにしてソファから立ち上がると、冒険者ギルドへと戻って行った。






 一方、いつしか走るのをやめ、手を繋いで歩き始めたヤマトとユイナは別荘の中を思う存分、散策していく。

 大きなお屋敷に目を輝かせて興奮している二人。すれ違う使用人たちはそう思って、微笑ましく二人を見守っていた。

 まるでデートをするように屋敷を見て回っているだけであり、屋敷にある高級な物品に手を出そうとする様子もないため、すっかり安心していた。


「……ヤマト、ヤマトっ、なんかこの辺りにありそうな気がするんだけど」

「確かに――でも周囲にそれらしいものは見当たらないね」

 こそこそと愛をささやき合うように顔を寄せた二人が真剣な表情で語り合う、それらしいもの。

 

 それは価値のある何か、高価な何か――ではなく、隠し部屋に通じる仕掛けのスイッチのことであった。


 実は二人がギーガーに案内された別荘とはゲームの頃から存在した建物であり、中がどうなっているのかはその頃、見ることができなかった。

 だから、中に入れることになり、好きに使っていいと許可を得た今だからこそ、隅々まで散策しようと二人は考えていた。


 ユイナの直感、そしてヤマトの冷静な分析力は屋敷の全貌を次々に暴いていく。

 それは屋敷の主であるギーガーですら知らない様々な秘密だった。


 咎める者もいないため、二人は夜になるまで好きなだけ屋敷散策を続け、これでもう十分だろうと判断したところで、屋敷の夕食に舌鼓を打つこととなった。

 ギーガーが手配してくれた料理人の腕は確かなもので、二人は幸せいっぱいの表情でそれらを味わった。


 彼らが暴き出した屋敷の秘密は誰にも知らされることなく、二人の中の秘密となっていた。







 ――翌日、昼過ぎ 冒険者ギルドにて


「おぉ、来たか。船と魔道具の準備はできているぞ。早速出発するか?」

 屋敷でゆっくり体を休め、ヤマトたちがすっきりとした気持ちでギルドマスタールームに向かうと、ギーガーとランドが二人を迎えてくれる。


「昨日の宿、それから船と魔道具、色々ありがとうございます。どこで何が起こっているかわからないので、すぐにでも出発したいと思います」

「ありがとー! とても助かったよっ!」

 感謝の気持ちをそれぞれ表した二人の言葉に、ギーガーも笑顔になっていた。


「それでは船への案内は私がします」

 船などの用意を担当していたランドがすっと前に出る。どうやら彼が案内をしてくれるとのことだった。


「それでは失礼します。ランドさんお願いします」

「レッツゴー!」

 一礼したヤマトと腕を突き上げて出発を促すユイナ。それをギーガーは微笑ましく見送った。

 ランドに続いて部屋を出て行こうとする二人を見ていたギーガーだったが、自然と扉が閉まる前、思い出したようにヤマトが再び中に入って来る。


「……ん? どうかしたか?」

 ギーガーは何か忘れたものでもあったのだろうかと不思議そうな顔をする。

「……あの別荘、色々あるので調べたほうがいいですよ」

 それだけぼそりと呟いて、ヤマトは質問を受け付けないように急いで扉を閉めると、ユイナとランドのあとを急ぎ足で追っていった。






 ギルドマスタールームに一人残されたギーガー。

 最初は呆然としていたが、次第に冷静になり、ヤマトの言葉を理解した彼は一体別荘で何があったのか、何があるのか、気になって仕方ない。


「……くっそおおお! あいつ、性格悪いだろ! うおおおお、気になり過ぎる!」

 仕事に手を付け始めたものの、やけくそ気味に書類の山に手を伸ばす。全て払いのけてしまいたい気持ちをぐっとこらえて叫んでいた。

 

 それもこれも昨日はヤマトたちの件で色々と動いてしまったため、仕事が山盛りの本日はすぐには帰れそうにないのが原因だ。仕事を放り投げて抜け出そうものなら、あとでランドにこっぴどく叱られるのが目に見えているため、悶々とした気持ちで仕事をこなすしかなかった。


 当のヤマトはいじわるで言ったつもりはなく、ただの忠告のつもりだったわけだが、どこに何があるのか伝えないあたり、意地悪と言われても仕方のないことでもあった。





 こうして、ヤマトとユイナは新たな場所へ旅立つ。

 強力な風の障壁の中にある西の大陸に向けて。


ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203

ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67

エクリプス:聖馬LV133


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」

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