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第七十一話


「かなりの数のモンスターがやられたな……貴様何者だ!」

 ヤマトの魔法を止めた男――いや人型をしているがその頭部には立派な二本の角が生えている。

「俺は冒険者のヤマトです……そういうあなたは――魔族ですね」

「まぞくううううううううう!?」

 ヤマトの声が聞こえたため、背に隠れていた冒険者の男は大きな声を出してしまった。


「……すいません、声が大きいです。周りにも聞こえてしまいます」

 周囲に人がいないからいいものの、知られてしまえば大騒ぎになってしまうため、ヤマトが彼を窘める。

 しかし、その視線は魔族からそらさないまま。


「っ……あ、あぁ、悪い……」

 冒険者の男も自分がしたことに気づいて謝罪し、二人から距離をとっていく。

 魔族相手ならば、自分がこの場所にいてはただの足手まといになってしまうと判断したためだった。


 魔族の男はその冒険者には興味の欠片もないようで、逃げ去る彼を追いかけることはしなかった。


「――話を続けましょう。さっきも言った通り、俺はただの冒険者です。他の方よりもほんの少し強いかもしれませんが」

 それは他者が聞けば謙遜以外のなにものでもなかったが、ヤマトにしてみれば本心だった。まだまだ自分は強くなれると、200レベルを超えてもさらに上を目指しているからだ。


「あれだけのことをやっておいて、ほんの少しか……いいだろう、俺が相手をしてやる!」

 ふんと鼻を鳴らした魔族がその言葉を口にした時には、既にヤマトは懐に入り込んでいた。

「“スラッシュ”!」

 一瞬目を見開いて驚く魔族をよそに、彼はスキル名を口にし、すぐに技を発動させる。


 完全に油断している今、発動時間、そして硬直時間の短いこのシンプルなスキルで確実にダメージを与えるのがヤマトの狙いだった。


「ぐはああっ!」

 その狙いは見事命中して、魔族の肩から腹部にかけて一閃する。

 最初期の技ではあったが、武器とレベルが強力なヤマトの一撃は大ダメージを与えるに十分なものだった。


「き、貴様……っ!」

 ぐらりと腹を押さえてふらつき、後ろに数歩下がる魔族。その目は不意をつかれた苛立ちがにじんでおり、ヤマトを睨み付けようとしたその瞬間、既に次の攻撃に移ろうとしているヤマトの姿があった。


「“ソードスタブ”!」

 追撃のそれは突きによる攻撃。

 こちらもシンプルな技ではあったが、突きに特化しているためスピードの重きをおいたものであり、魔族は避けられず身体を貫かれ、そのまま地面に縫い付けられた。


「あんまり、おしゃべりしないで戦闘に集中したほうがいいと思いますよ。……もう遅いかもしれませんがね」

 剣を突き立てたまま、氷のような冷たさを感じさせるほどの雰囲気でヤマトは魔族を見下ろすと、そう忠告した。


「ぐ、ぐう……貴様は一体何者なんだ……」

 痛みに顔を歪ませながら、再度同じ質問をヤマトに投げかける魔族だった。彼を少し侮っていたことを後悔していた。

「それは俺の質問です。――あなたは一体何者で、なぜこんなことを、そしてどんな方法でやったんですか?」

 そして、質問には答えず反対にヤマトが質問を返す。相手から少しでも情報を聞き出そうと冷酷さを露わにしていた。


「……俺は見てのとおり魔族だ。なぜこんなことを、と言われれば、上から命令されたからだ。方法は……言えん」

 口元から血を垂らしながら魔族は状況を見て、自分の分が悪いと判断したためか、抵抗せずに回答する。


「うーん、なんとも当たり障りのない回答をしますね……それじゃあ、これを見たらどうですか?」

 相手の回答に困ったような表情のヤマトが空いている手に持っていたのは、例の魔物を引き寄せ、活性化させる魔道具。


「――なっ! 貴様、それは!」

 明らかな動揺を見せる魔族に対して、ヤマトは薄くにやりと笑っていた。


「やっぱりこれですよね」

 

 魔族は身体を刺されているにも関わらず、じたばたと両手をなんとか動かし、自分の身体を探っていく。

「……あ、あった! 貴様、それは偽物だな!」

 自らが持つ魔道具を奪われたのではあせって取り出した魔族だったが、次の瞬間にはヤマトの手の内にあった。


「ありがとうございます、っと」

 ヤマトは魔族が手にした魔道具をあっさりと奪うと、自分が持っていたものと合わせてアイテムボックスにしまいこんだ。


「ああああああああ!?」

 まんまと魔道具をヤマトに回収された魔族。哀れというよりも間抜けだなと、ヤマトは思っていた。


「さっき見せたのは別のやつで、あなたの持っているのを回収するために出しました。これで、モンスターの動きも収まりますよね?」

 にっこりと笑うヤマトの言葉に魔族は歯をギリギリと鳴らし、怨念のこもった視線を向けていた。


「ヤマトー!」

「ヒヒーン!」

 すると、大きく手を振ったユイナを乗せたエクリプスがヤマトのもとへとやってきた。


「やっぱりヤマトが倒したんだね! この人は……魔族?」

 ひらりとエクリプスから降り立つと、彼の活躍に嬉しそうに笑って見せるユイナ。彼の下で剣を突き立てられている魔族の男の頭部の特徴を見て、きょとんとした表情で質問する。


「そうみたいだね。この人が今回魔道具を持ち込んだみたいだよ。やっぱり、各地の異変は魔族が関与しているとみて間違いないみたいだね」

 二人は魔族そっちのけで分析を始めていた。


「……ということは、やっぱり魔王が動いているのかなぁ?」

 魔王というのはヤマトとユイナがエンピリアルオンラインでついに討伐した相手のことを指している。

 ヤマトたち以外に倒すことができたものはいない。


「あー、もしかしてソレなのかな?」

 ユイナが思いついたように口にした言葉。何がソレなのか具体的には何も言っていないが、ヤマトも同じことを考えていたため、その言葉に頷く。


「そうなんじゃないかと俺も思ってたとこだよ。となると、やっぱりもう一度がんばらないとダメかもしれないね……そのためには、早く森に入らないと」

 西にある森に向かうことで、一歩、二歩……いや、三歩進むことができるとヤマトは確信していた。


ヤマト:剣聖LV203、大魔導士LV199

ユイナ:弓聖LV200、聖女LV189、聖強化士LV55

エクリプス:聖馬LV121


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」

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