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第七十話



 ヤマトたちが急いで街に向かうと、徐々に被害のほどが明らかになっていく。

 街から離れた場所では点々とモンスターや衛兵の死体が転がっている。どうやら、このあたりが一番外側の戦闘区域だったようだ。


「これは、なんでこんなことに!」

 表情をぐっと硬くしたヤマトはあまりの状況に驚き、声をあげる。

 しかし現在の騒ぎの中心が街の中央であるため、飛び出したい気持ちを抑えて未だエクリプスの背に乗ったまま進んでいく。


「――えい!」

 街を憂い、悲しげな表情のユイナも同様にエクリプスにまたがったままだったが、矢を放ち、残っているモンスターを倒していく。

 それがどれだけ有効なのかはわからないが、少しでも被害を減らそうとユイナは攻撃を続けていた。


「……そろそろだ」

 エクリプスは瓦礫などの障害をものともせず進むため、あっという間に街の中央へとたどり着くことができた。



 そこはまさに阿鼻叫喚といった様子で、モンスターと街の兵士と冒険者が入り乱れていた。


 

 戦えるものは誰もが必死に武器を振るい、襲いくるモンスターと全力で戦っている。煙が見えていたように、モンスターたちの攻撃によって街の建物は雪を融かされ、無残にも燃え盛っていた。

 力のないものは戸惑い逃げながら泣き叫んでいる。どこからか怯えたように泣く子どもの声とそれをなだめる母親の声が聞こえてきた。


「なんでこんなことに……」

 呆然と立ち尽くしたヤマトのその呟きに、近くにいた冒険者が答える。

「なんだかわからんが、モンスターが大量に街に襲いかかってきたんだ! 冒険者と街の兵士が協力してなんとかしのいでいたんだが、いかんせん数が多すぎる!」

 話している間もモンスターは近くにいる人間に襲い掛かっていた。たまたま近くにいた兵士がギリギリのところで間に入り、難を逃れていた。


「そうですか……わかりました、俺たちがなんとかします」

 表情を消したヤマトはひらりとエクリプスから降りると剣を抜く。いつもの穏やかな笑顔とは違う、静かな怒りを感じさせる雰囲気だ。

 ユイナも彼と同様に降り立って、表情を引き締めると弓を構えていた。


「手伝ってくれるのは助かるが、お前さんたちだけでなんとかって、おっと、無理だろ!」

 彼はモンスターの攻撃を避けながらヤマトたちに忠告する。


「助言ありがとうございます――でも大丈夫です」

 ヤマトはゆっくりと、しかし最小限の動きで滑らかに歩を進めていく。愉快犯のように暴れまわるモンスターの集団に向かって。

 ユイナもエクリプスも彼の背を追うようについていく。

 

 彼らは戦地に飛び込むことに何の抵抗も見せない。


「お、おい!」

 そんな彼らに危険だと、慌てて止めようとするが、ヤマトとモンスターが交錯したところ一瞬で新しい死体ができあがったのをみて、口をあんぐりと開けていた。


 何が起こったのか目で捕らえられないほどの瞬殺だった。


「これくらいなら問題ない、ユイナさっさと終わらせよう」

 既に街への被害は大きかったが、少しでも早い解決が望ましいだろうと、ヤマトたちは素早く行動に移っていく。彼に声をかけられたユイナはもちろんだと力強く頷いて走り出す。


「エクリプスも自由に動いてくれ。最優先は人命、次にモンスター討伐だ! ――散開!」

 ヤマトの指示を受けて駆け出して行ったエクリプスを視界の端に捉えながら、モンスターの集団に分け入るように走り出した彼は目につく範囲のモンスターを次々に真っ二つに斬り落としていく。

 彼の勢いを止めないようにとユイナは、ヤマトの少し離れた後ろにつき、遠くで暴れているモンスターの頭部を射抜いていく。


 この二人が加わっただけで、あっという間に状況は好転し始めていた。


 更にエクリプスが遊撃部隊として走り回り、モンスターを次々と蹴とばしたり、踏みつぶしていったりすることで、散発的に数が減っていくことも状況を変える一助になっている。


 ヤマトたちが間に入ったことで、余裕ができた者たちが避難の誘導や逃げ遅れた者たちの救助に回ることができるようになった。





「――さて、元凶はどこにある?」

 何もなくて、モンスターが街を襲うとは考えづらい。となれば、獣人の街の大平原や例の橋のようにどこかに魔道具があるのではないか? それがヤマトの予想だった。


「あ、あんたらすごいな」

 そこへ声をかけてきたのは先ほどの冒険者。彼はヤマトのあとをついて来ていた。

「ついてくるのは構いませんが、少し離れていて下さい。巻き込んでしまうのは嫌ですから……」

 振り返って彼に忠告すると、ヤマトは再びモンスターを倒していく。その目は一匹たりとも見落としがないように、周囲を見ていた。


「……あの、モンスターが襲撃してくる前に何かありませんでしたか? 見慣れない怪しい人物がいたとか、何か光が見えたとか」

 ヤマトの質問に申し訳なさそうな表情の冒険者は首を横に振った。


「見ていないんじゃない、わからないんだ。……俺は食堂で仲間と夕食を食べていた。そこへ突然舞い込んだモンスターの襲来の知らせを聞いて、慌てて飛び出したんだ。そこからはすぐに戦闘に巻き込まれたから何もわからないんだ」

 冒険者は悔しそうな顔で現在にいたるまでの状況を説明している。


「その、仲間の人は……?」

「わからない……あまりにも急だったし、大量のモンスターが来ていたから統率がとれなくて、あっという間に散り散りに……」

 その状況にあっても、彼はなんとか状況を変えるために仲間探しよりもモンスター退治を優先していた。自分の仲間ならばきっと無事に戦い生き延びるだろうと信じているのだろう。


「だったら、さっさとこの件を片付けてお仲間を探しましょう。さて、そのためには……」

 冒険者を励ましつつ、彼にばれないようにミニマップをさっと確認すると、周囲に彼ら以外の人がいる様子はなかった。


「――少し、下がって下さい」

 ヤマトはそういうと、魔法の準備を始める。大魔法を予感させるような魔力の強いうねりが彼を中心に発生し、魔力が高まっていくと同時に彼の足元に魔法陣がぶわりと展開された。


「あ、あんた魔法も!?」

 剣を使っていることから、冒険者はヤマトのことを剣士だと判断していた。しかし、彼が魔法を、それも恐らくは強力な魔法を使おうとしている。


「――ターゲッティング」

 驚く冒険者をよそに冷たい表情をしたヤマトの頭上に、めらめらと燃え盛る炎の矢が何本、何十本と浮かんでいく。

「いけ、“ホーミングフレア”!」

 それらの矢は合計で128本にまでなり、彼の命令のまま周囲のモンスターへとすさまじい勢いで向かって行った。


「う、うおおおお!」

 それを見た冒険者はただただ、口を開けて驚きの声をあげているだけだった。


 モンスターたちは訳も分からないまま急所を炎の矢で撃ち抜かれ、そのまま絶命していく。

 一度の魔法で周囲のモンスター、127体が倒された。 

 それと同時にヤマトの足元の魔法陣は消える。


「――どうやら強いやつが一体混ざっているみたいですね」

 ヤマトが強く睨み付けた先で立つ、その一体は燃え盛る炎の矢を手でつかんでいた。


ヤマト:剣聖LV201、大魔導士LV196

ユイナ:弓聖LV198、聖女LV187、聖強化士LV49

エクリプス:聖馬LV116


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」

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