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第六話



 時は少しさかのぼり、ヤマトがダンジョン『ガルバの口』に挑戦しているのと同じタイミングで、ユイナは別の方法でレベル上げをしていた。


 ヤマトに宣言したとおり、ルフィナの街で冒険者ギルドに登録したユイナはギルドで受注した依頼をこなしている。




「――んしょ、んしょっと!」

 彼女が受けた依頼は荷物運び。

 ルフィナの街の西にある森で切り出している材木を、街の資材置き場に運んでほしいというものだった。


 最初、この依頼を受注しようとするユイナを冒険者ギルドの職員は何度も止めた。ギルドとしては男性の冒険者が何人か集まって運ぶのを想定していた依頼だったのだ。


「大丈夫大丈夫! まっかせて下さい!」

 ふんっと力こぶを作って眩いまでの笑顔で言うユイナを職員たちは止めきれず、受注を了承することとなった。


 当のユイナはこんな簡単な依頼でお金をもらっていいのかなあ? と思いつつ、楽しそうに木材運びを行っていた。

「んふふ~、はっやくまっちにもっどりたい~♪」

 軽い足取りで走りながらのんきな歌を歌っているユイナ。実は彼女、手ぶらだった。


 森で切り出した木材を受け取ったユイナは、大量にあったそれら全てをアイテムボックスに格納し、走って街へと戻って行っていたのだ。

「重さもないから、ほんと楽だよねえ」

 鼻歌交じりで機嫌よく走っているとほどなくして街が見えてきて、そのまま目的地の資材置き場へと向かっていく。




「こんにちはー!」

 元気よくユイナが資材置き場にいた職員に声をかける。

「ん? 嬢ちゃんなんかようかい?」

 振り返った男性職員は木材の数を数えて記録する手を止めてユイナの対応をする。どこにでもいそうな普通の中年男性だ。


 突如現れたユイナは細身で誰から見ても美人といえるほどの愛らしさを内包した女性。そんな彼女が資材置き場に何の用があるのか職員はいまいちわかっていない表情だ。


「ギルドで依頼を受けてきたんですけど、木材ってどこに置けばいいですか?」

「え、じょ、嬢ちゃんが受けたのかい? ――全くギルドも受ける相手をもうちょっと考えてくれればいいものを……」

 職員はユイナの見た目から、どれだけ時間をかけるつもりなんだと内心で不満に思っていた。


「えっと……それでどこに置けばいいですか?」

 ぶつぶつと職員は不満の声が漏れ出ていたが、きょとんと首を傾げたユイナはそれを気にせずに質問を繰り返す。


「あ、あぁ、そこの空いてるところに置いてもらえればいいんだが」

「りょーかいでっす!」

 びしっと手を挙げたユイナは小走りで空きスペースまで移動すると、アイテムボックスから木材を取り出す。取り出したばかりのアイテムは重さがないため、次々に木材が空きスペースを埋めていった。


 気づけば大量の木材が資材置き場に並べられ、男性だとしても数回に分けてやるはずの依頼が一度で済んでしまった。


「お、おいおい……」

 口をあんぐりと開けた職員はその光景を呆然として見ていた。先ほどまでの不満を一蹴する状況に戸惑いを隠せないようだ。

「これで、最後っと! 終わりました、数の確認と終了証へのサインをお願いしまーすっ」


 ニコニコと笑顔でユイナが取り出した用紙に、やっとのことで男性職員はサインをしていくが、未だ驚きが抜けきっていないようだった。

「嬢ちゃん、アイテムボックス持ちか……初めて見たぞ」

 ユイナは楽なものはどんどん使っていこうと考えていたため、気にせずにアイテムボックスに木材を格納していたが、彼の言葉で一つの確信を得る。


 ――この世界に、レアではあるもののアイテムボックスを使える者がいるということ。


「ふっふーん、すっごく便利ですよ。あ、でも……あんまり言いふらさないでね」

 口元に人差し指をあてて柔らかく微笑んだユイナは男性職員にしーっと秘密だよというポーズをとって見せる。

 実際のところ別にばれても構わないと思っていたが、別段言いふらすことでもないのでこういった対応をとることにする。


「あ、あぁ、わかった……」

 美人にそんなポーズをされ、思わず見惚れてしまった男性職員は頬を赤くしながら頷く。


「それじゃ失礼しますねっ。――さー、次の依頼にゴー!」

 惚けている男性職員に手を振って別れを告げたユイナはそれから木材運びだけでなく、石材運び、引っ越しの荷物運び、薬草の採取の依頼を同時に受け、次々にそれらをこなしていく。


 どの依頼も数人規模でやるものだったが、ユイナはたった一人で全てを期待以上の成果を出して終わらせていた。

 依頼者は誰もがその成果に驚き、それを成し遂げたのが可愛らしい女性であることに更に驚いた。

 


 昼休憩を挟んで、更にいくつかの依頼を追加で受けたが、全ての依頼を終えたのは三時過ぎで、まだ日も高かった。


「ふー、結構依頼こなせたかなぁ?」

 今日受注した依頼をすべて終えた一息ついたユイナは広場のベンチに座りながら、メニュー画面から自分が受けた依頼の一覧を確認している。

 

 冒険者ギルドで受けた依頼は、自動で依頼一覧が作成されて依頼主、依頼内容、報酬が記録されていた。


「街からあまり離れないから安全だし、結構お金も貯まったなあ。――それに……」

 ユイナが次に確認したのは自分のステータス画面。そこに表示されたレベルは8。


「ふふっ、依頼達成した瞬間にレベルアップメッセージが流れてくるんだもん、最初変な声がでちゃったよね」

 何枚もの依頼終了証を持って冒険者ギルドで達成報告をし、それが認められた瞬間、システムメッセージがユイナの頭に響いたため、思わず驚いて声を出してしまっていたのだ。


 突然驚いたユイナにギルド職員も驚いていたが、なんとか誤魔化したという事件があった。


 ゲーム時代にもモンスターを倒すだけでなく、依頼をクリアすることで報酬と経験値を取得することができ、取得経験値が一定以上たまるとレベルアップする。


「まずはこれでどんどんレベルとお金を稼いで、装備を揃えたら討伐系のクエストにも挑戦しようかなっ」

 元々ユイナはゲーム時代も世界観を味わうことができる、雑用系のクエストを好んで受けており、今回はそれを選びつつも一度に大量の依頼をこなすことで、急ぎ足でのレベル上げを狙っていた。


 普通の人ならばメンバーで一つ二つこなすところを倍以上一人で稼いだため、経験値も報酬もかなりうまみのあるものとなった。


「それじゃ、とりあえず今日は宿に泊まって明日早くから討伐クエに行こうかなー」

 ぴょんとベンチから立ち上がったユイナは早めに宿に向かうことにした。早くヤマトと通話したい気持ちが強かったからだ。宿であれば、周囲を気にせずに通話できるため、自然と宿に向かう足も速くなっていた。


 しかし、宿で部屋をとり、ベッドに腰かけ、胸元にある指輪をなぞりながら通話をかけようとした瞬間、信じられないメッセージが返ってきた。



《現在ヤマトは通話圏外にいます》



「……えっ? ええええええ!? ど、どういうこと!!」

 どうして通話に出られない状況に彼がいるのかと動揺したユイナは焦って大きな声を出してしまう。幸い一人部屋でそこそこ防音性のある宿屋を選んだこともあって、誰かが駆けつけるということはなかった。


「――ヤマト、ねえヤマト!」

 それから彼女は結婚指輪を強く握り、どうか無事でいてと願いながらヤマトが通話に出るまで何度も呼びかけた。


ヤマト:剣士LV19

ユイナ:弓士LV8


 依頼終了証

  冒険者が受注した依頼に関する詳細が書かれた書類。

  これに依頼者からのサインがないと依頼を達成したことにならない。

  色々と不正ができないように特別な仕様となっている。


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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