第六十八話
それからヤマトたちは今いる世界と同じような世界がゲームの舞台になっていたこと、そして自分たちがそのゲームのプレイヤーであったこと、いま自分たちにはゲームの時のような機能が一部制限付きではあるが使えることなどを話していく。
「ふむふむなるほどな」
一通り話を聞いたミノスはヤマトの言葉に納得しているようだった。
「親父殿、こいつらは一体何を言っているのだ? げえむ? しすてむ? 一体何を……」
隣りで聞いていたアスターはそれらの言葉について首を傾げるしかなかった。わからない言葉ゆえに片言になっている。
「お前はわからなくていい。……ヤマトとユイナといったな。お前たちがゲームとして遊んでいた世界が、ここであることは間違いないようだ。何せお前たちの記憶を持つものがいるのだからな」
あまりにもミノスが自信満々にいうため、ヤマトとユイナは反対に困惑してしまう。
「でも、この世界の人は俺たちと違って人の能力やアイテムの詳細をみれないのでは? レベルのこともわからないみたいですし……それにゲームと違うことも色々あります。……その、アスターさんの存在とか」
困ったような表情のままヤマトはアスターにチラリと視線を送る。ユイナもヤマトの隣でこくこくと何度もうなずく。
「む?」
なぜそこで自分の名が出てくるのかわからないとアスターの顔には疑問符が浮かんでいた。
「ふむふむ、疑問に思うのは当然だな。……この世界では、誰しもが特別な力を持っている。例えば炎の魔法が得意。水の魔法が得意。剣技が優れている。そして――ゲームだった頃のシステムを使える」
自分たちがゲームの世界に飛び込んだために、ゲームでの機能が使える。ヤマトとユイナはそう思っていた。しかし、ミノスの言葉の通りだとすると色々が得心がいく。
「なるほど、ゲームのシステムのような力が俺たちの特別な力というですか。正確にはゲームのシステムによく似たものだから、色々とアレンジされているのも納得ですね……」
ミノスの説明で、ヤマトは自分たちの能力について、理解し始めていた。色々悩んでいた部分、複雑に絡んだ糸がするりととけるような感覚にすっきりとした表情だ。
「そして、我もポセイドンもお前のことを記憶しているが、その記憶は明確ではない。となると、ここはそのゲームの世界と同じか、その元となった世界がここになる」
ミノスはとんとんと自身の頭を指でつつきつつ、最後に床の部分を軽く小突いた。
その言葉に考え込んだ表情のユイナが首をかしげていた。
「でもでも、トリトンやアスターに覚えはないし、それにいくつかの街に立ち寄ったけど知ってる人はいなかったよ?」
この世界の住人がゲームでいうNPCだとして、そしてゲームにいなかった人物がいるとしても、トリトンやアスターなどの強烈な印象を持つ相手に見覚えがないことはいくらなんでもつじつまが合わない。
反対に、街の住人の誰にも覚えがないというものおかしなことだった。
「それに関して、我は一つの仮説をたててみた」
「あっ……」
そこでヤマトは一つの考えに至っていた。
「……トリトンとアスターはそれぞれポセイドンとミノスの子ども。二人は神だから、見た目が大きく変化していない」
ヤマトは何かに気づいて少し俯くとぶつぶつと呟いていた。彼が何か考えをまとめる時の癖のようなものだった。
「ヤ、ヤマト、どうしたの……?」
突如のヤマトの変化にユイナは驚いている。
「――ユイナ、港町ヒューリアで美味しいお店がなかったこと、近所の人に聞いても全く覚えていなかったことを覚えているかい?」
真剣な表情で顔を上げたヤマトのその質問に、戸惑いながらもユイナは頷く。
「二人の神の息子の存在、それから街の変化、地形が変化している場所もあったね。そして、この世界がゲームと同じ、もしくは類似する世界、ということは――」
ここまで言うとミノスはにやりと笑っていた。少し助言しただけでそこまで考えられるヤマトに嬉しそうに目を細める。
「理解が早いようだな。我の言葉からそこまでたどり着くとはそれなりに頭が回るようだ。そう、お前たちがいるのは――ゲームの頃より未来の世界だ」
これで全てに得心が行く。
職業によっては不人気であったり、店がなくなっていたり、見たことのないクエストが発生していたり。
それら全てが未来であると結論付けることで結びついていく。
「なるほど、未来だというなら全てスッキリしますね」
「ええっ、未来!? な、なんか突拍子もない話というかなんというか……」
すっきりとした表情のヤマトとは裏腹に、ユイナは思ってもみなかったことに驚いているようだった。
「ということは、太陽の宝玉が少ないのも時間の流れが原因ということですか?」
ここでやっとこの場所にヤマトたちがやってきた本来の目的についての話に戻る。
「そういえば太陽の宝玉が欲しくてやって来たのだったな。……一体アレを何に使うつもりなのだ?」
ミノスの興味は太陽の宝玉の使い道だった。珍味的なそれをどうして彼らが求めるのかがよくわからなかったようだ。
「封じられた森――あそこに行こうと思っています」
ヤマトは使い道ではなく、行き先を口にしたが、それだけでミノスには全て伝わっていた。
「……森林の民か」
それは封じられた森に唯一住むことを許可された一族。彼らが封じられた森の管理をしており、彼らの許可がなければ通行することはできない。
「えぇ、彼らへの手土産に太陽の宝玉を持っていきたいんです」
森林の民は粗食をモットーにしており、普段から豆類を食べている。しかし、太陽の宝玉だけは違い、森林の民は一人の例外もなく太陽の宝玉を好物としていた。
しかし、世の中の流通量は極端に少ないため、値段も高騰している。
ヤマトはそれがわかっているからこそ、この場所に直接採集に来ていた。
「あの場所に立ちいるなら確かに太陽の宝玉が必要であろう。それもここで採れる太陽の宝玉――ランクSともなればいうことを聞かない者はいないであろうからな」
ここで採れる太陽の宝玉は特別性であり、ランクEから始まる果物の質を表すスケールの中で最上位のSを冠していた。ミノスにとってそれは自慢なことであり、誇らしげに語る。
「えぇ、だからぜひ譲ってほしいのです」
にっこりとほほ笑んだヤマトの言葉に、ミノスはしばらく考え込んでいる。
アスターは父親の判断に任せることにしたようで、腕を組んで壁に寄りかかり瞑想するように静かに目を瞑っていた。
ヤマト:剣聖LV201、大魔導士LV196
ユイナ:弓聖LV198、聖女LV187、聖強化士LV49
エクリプス:聖馬LV116
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ありがとうございます。
新連載始めました。
https://ncode.syosetu.com/n6248ek/
「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」