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第六十七話



「――それで、まだやりますか?」

 倒れた男との距離を一気に詰めたヤマトが彼の首元に剣先を向けたまま質問する。


「……いや、辞めておこう。どうやらお前たちは相応の実力を持っているようだ。……親父殿、構わんな?」

 武器から手を離した巨漢の男が確認すると、奥へと繋がる通路を閉じていた扉がゆっくりと開かれていく。


「――だそうだ、ついて来てくれ」

 扉が開いたことで、親父殿と呼ばれる人物がヤマトたちのことを受け入れるつもりがあるという意思表示があると示された。それを確認したヤマトたちは武器をしまい、立ち上がった巨漢の男が先導するように歩き出す。


「行こう」

 ヤマトの言葉にユイナとエクリプスは黙って頷いて、巨漢の男のあとをついていく。

 通路を進む間、全員が無言なため、沈黙がその場を支配する。


 その間、ヤマトは周囲の壁を見ていた。

 以前来た時はゲームであったためか、もっと壁が綺麗だったように思える。しかし、今現在目の前にある壁にはあちこちに蔦が張っていたり、汚れや傷などもついていた。


「……何か気になるのか?」

 その様子に気づいた巨漢の男がヤマトにチラリと視線を向けて質問する。

「いえ、その思ったより壁に劣化がみられるなあと」

 愛想よくふわりとほほ笑みつつ、ヤマトは前に来たことを口に出さないよう、それでいて壁のことを気にしていると伝える。


「ここも長いこと存在するからな。それゆえのことだろう。お前たち以外にもここにやってくるものはいる。その時に戦闘になることもあれば、血が飛んでそれがしみこむこともある」

 ヤマトの言葉に気を悪くした様子もなく、劣化の理由について巨漢の男なりの答えを出す。壁の綺麗さといったことにあまり気を配る性格じゃないのだろう。


「なるほど、ここで数多くの戦いが……」

 起きたからこれだけの劣化が起きている――ヤマトはここに来て一つの推測をしていたが、確証がないためそこで言葉を止めた。


「モンスターや、おっきいお兄さんしかいないなら掃除も大変だろうしねー」

 何の気なしにいったユイナの言葉に、巨漢の男はギュンッという効果音がつくかのように勢いよく彼女の方へと振り返った。

「……おっきいお兄さん?」

 ユイナの言葉にひっかかった巨漢の男がぐっと強面になりながら聞き返す。


「うん、だって名前知らないし、見た感じ大きいからそう呼んでみましたー」

 のんきにユイナがにっこりと笑顔で答えると、巨漢の男はうっと気圧される。美人の笑顔は時に威圧感を与えるようだ。


「……俺の名前は、アスターだ。そのおっきいお兄さんというのはやめてくれ」

 彼のことをそんな風に可愛らしく呼んだものはこれまでおらず、むず痒くなったアスターはもごもごと言いにくそうに自分の名前を告げる。


「りょーかい!」

 明るいユイナの返事を聞いてほっとしたのか、アスターは再び前を向いて通路を進んでいく。その背中はどこか満足感が感じられるものになっていた。

 ヤマトはそのやりとりを見て苦笑していたが、これまでもこんな風にユイナの無邪気さでほだされる人を見てきたため、いつものことだと見守るだけだった。





 しばらく進んでいくと、大きな扉の前に辿りついた。

「親父殿入るぞ」

 返事を待たずにアスターが扉を開けて入っていく。大きさからしてかなりの重量があるように見えるが、普通の扉と同じように軽々と開けていく様子を見て、ヤマトとユイナは感心していた。


「来たか……お前たちの戦いは映像で見させてもらっていた」

 そこにいたのはアスターよりも大きな身体を持つ、髭が蓄えられた男だった。雰囲気でいえばポセイドンを老けさせて荒々しくしたかのようなイメージだった。


「あなたは……ミノス」

 見覚えのある姿そのままだったことに呆然とその姿を見たヤマトが、その人物が名乗る前に名前を呼んだ。

「……なんだ? 我の名を知っているのか?」

 訝しげな表情になったミノスが当然のごとくヤマトに質問をしてくる。アスターもミノスの近くで驚いた表情を見せている。


「あぁ、えぇ、ちょっと、以前に」

 無意識化の行動にハッとしたように我に返ったヤマトはしどろもどろになりながら答えるが、ミノスは目を細めてなにかを見定めるようにヤマトのことを見ていた。そして、その隣にいるユイナのことも。


「お前たち……どこかで見たことがある気が……いや、気のせいか?」

 記憶を探って首を傾げたミノスはポセイドンと同じようなことを口にする。もやのかかったような記憶を思い出す時のようにもどかしさに顔をしかめていた。


「やっぱり見覚えがありますか?」

「やっぱり?」

 ミノスがヤマトのことを覚えているだろうと予想できていたことに驚き、食い気味で質問を返す。


「えぇ、ポセイドンが同じようなことを言ってたので、ミノスも同じようなことをいうのではないかと」

 冷静さを取り戻し、真剣な表情でそう語るヤマトに、ミノスは怪訝な表情になる。

「……ポセイドンに会ったのか? あいつが同じようなことを……? お前たちは我とポセイドンに会ったことがあるのか?」

 驚きながら質問を返すミノスにヤマトは困ったような表情になる。

 

「一度……いや数度会ったことがありますが、それが今のあなたなのか、別のあなたなのかわかりません。わかりませんが、自分と彼女はポセイドンと名乗る神に、そしてミノスと名乗る神に会ったことがあります」

 伝わるように言葉を選びながらヤマトが話すその言葉にミノスは興味深そうな表情になる。


「――会ったことがある。しかし、それは曖昧なものであると。なるほどなるほど、これは我の予想だが、お前たちは我の息子のアスターに会ったことはないのだな?」

 少し考え込んだのち、なにか自身の中で納得がいったミノスは満足げに何度か頷いた。ヤマトたちが息子の名前を名乗られるまでわからなかったことから、ミノスはそう予想したようだ。


「はい」

 ヤマトの返事を聞くや否や、次の質問をたたみかけるようにしてくる。

「ということは、ポセイドンの息子のトリトンのこともそこで会うまでは会ったことがなかった――そういうことだな?」


「えっと、はい」

 まさかそのような質問が来ると思っていなかったヤマトは、一瞬答えに悩み、やはり肯定した。神であるミノスを前に取り繕う必要はないと判断したためだ。


「ふむふむ、お前たちは恐らくだがこう思っているな。……“私たちは別の世界からここにやってきた”のだと」

 その言葉にヤマトとユイナは言葉を失う。互いに顔を見合わせるとそれぞれ興奮に心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。


「そこまで驚く顔もできるんだな。まあ答えを急ぐのは止めよう。どれ、まずはお前たちがどうやってここに来たのか自分たちにわかる範囲で我に話して見よ」

 ニヤリと笑うミノスに、二人は手がかりへの一歩だと考えて話を始めることにする。


ヤマト:剣聖LV201、大魔導士LV196

ユイナ:弓聖LV198、聖女LV187、聖強化士LV49

エクリプス:聖馬LV116


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」

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