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第六十六話



「――おかしいな……」

「敵がいないねー」

 ヤマトとユイナは声の主が対応したことにすぐに気づいていた。エクリプスも周囲の状況変化に警戒している。


 先ほどまで見える範囲にたくさんいたはずのモンスターはちょうど先ほど倒したのを最後に新しいのは出現していない。彼らが歩く足音だけが通路に響いている。


「これは見たことがないから……もしかしたら、さっきの声の主が何かしたのかもしれない」

 ヤマトは声の主に心当たりはあったが、その声すらもゲームでは存在しないものだった。


 それでも先に進んだ二人が次の開けたエリアに入った瞬間、ヤマトが何かに気づく。


「ユイナ、下がって!」

 その声が聞こえる前にユイナもエクリプスも危険を察知して後方に飛びのいていた。


 カキーン! と金属同士がぶつかった音が周囲に響きわたる。


「……お前は!」

 ヤマトは見覚えのない相手に怪訝な表情になる。反射的に構えたその手に握られた剣で、目の前の巨漢の男の斧による一撃を防いでいた。巨漢の男は表情の読めない顔で力強く更に斧を押し込めてくる。


「――ヤマト!」

 ユイナもすぐに状況を把握して、走り出すと同時に矢を次々に巨漢の男に向かって放っていく。

 だがその見た目に似合わず巨漢の男の動きは素早く、すぐに後方へ移動して回避していた。


「ありがと……それで、あなたが一体だれなんですか?」

 少し離れたところで巨漢の男と対峙した彼ら。見覚えのない相手に武器を構えたままヤマトが質問する。


 相手の男の身体は筋骨隆々で身体がかなり大きい、ジャイズ族のような見た目をしている。身体にあわせた大きなバトルアクスを手に戦闘態勢をとっていた。


「……そういう貴様たちこそ一体何者だ。目的は一体なんなんだ」

 斧を構えたまま、巨漢の男は野太い声で二人へと質問をする。冷静な口ぶりだが雰囲気で敵意をむき出しにしていた。


「――俺たちはここにあるものを取りにやってきた。それだけです。別にあなたたちに敵対するつもりもないし、モンスターにしても襲ってきたから倒しただけです」

 努めて冷静に、しかし戦闘態勢は崩さずにヤマトが答えた。


「親父殿が答えたはずだが、ここにあるものを持っていこうというのは我々に敵対していると判断するが……構わないか?」

 そう言うと同時に男は目を細めてヤマトを射抜くように睨み付ける。その覇気はかなりのもので、衝撃波のようにヤマトたちに吹き付けてきた。


「構わないかと聞かれると、できれば勘弁願いたいです。――あなた、結構強そうなので」

 入り口での問答とは異なり、苦笑交じりのヤマトは答えを変えた。ヤマトの一歩後ろでこっそり調べるを発動したユイナは彼の実力を見て好戦的に微笑む。


「……何を求めている? 例えば、そのへんに転がっている石が欲しいというのであれば拾って出て行ってもらえるなら構わない。しかし、ここの宝を狙っているというのであればそれは敵対対象になる」

 こちらも入り口での問答とは異なり、ヤマトの話を聞くつもりがあったようだ。探りを入れるような警戒に変わってきた。


「俺たちが求めているのは、ここにあるはずの【太陽の宝玉】――それを取りに来ました」

 そのアイテムの名を聞いて、巨漢の男は細めた目を大きく見開いていた。


「ど、どこでそれのことを聞いたんだ!」

 先ほどまでの冷静さを失い、慌てた様子で巨漢の男が質問をしてくるが、なぜそこまで驚いているのかヤマトにはわからなかった。


 そもそも【太陽の宝玉】と言うのは果物の名前であり、これから向かう場所での差し入れに使いたいと思ってとりにきていただけなのだ。そこまで慌てるほどの話ではないはずだとヤマトもユイナも首を傾げる。


「いや、ここの一番奥に生えているっていうのは割と知られている話じゃ……?」

 ゲーム時代も希少なアイテムではなかったため、どういうことだろうかと問いかける。

「あのー、もしかして太陽の宝玉って、今はあんまりないんですか?」

 状況からそう判断したユイナがそっと会話に入って質問を付け加える。


「あ、あぁ、いや、その……」

 肯定してしまってはないことがバレる、しかし否定してはなぜ大きな反応をしたのかが矛盾してしまうため、しどろもどろになってしまう巨漢の男。


「どうしてもわけてもわらうわけにはいかないですか? それを一つだけでももらえれば、すぐに出ていきますが……」

 遠慮がちに願い出るヤマトの言葉に巨漢の男は腕を組んで考え込んでしまう。

 声の主もこの状況を見ていたが、頼んだといった手前、しばらくは黙ってことにしている。






「……分けてやらないこともないが、力を示してからだ。俺がここにやってきたのは、お前たちを排除するためだ。しかし、お前たちが求めているものが宝ではなく太陽の宝玉であるならば、力さえ示せば譲ってやってもいい」

 しばらく沈黙したのち出たその結論は巨漢の男が考えた末の妥協案だった。


「わかりました……」

 男の態度に困ったように笑いつつ、ヤマトはその提案を了承する。

「なんかそれって、何も変わってないような気が……」

 結局戦うことになったため、ユイナが楽できないことに肩を落としてぽつりと呟く。エクリプスは戦いになると分かると再び戦闘態勢に入っていた。


 しかし、ヤマトは状況が好転していることをわかっていた。


 先ほどまで巨漢の男はヤマトたちを排除対象、殺してもいい相手――そう考えていただろう。

 だが、今は力を示せばという言葉のとおり、力量を確認する相手という認識に変わっている。


 相手の実力は調べるを見て少し理解している。ならば全力で戦って自分たちの力を認めさせるだけだ。


「それでは……行くぞ!」

 斧を構え直した巨漢の男は駆けだすとヤマトとの距離をぐんっと詰めていく。

 先ほどの一撃は不意を突かれたため驚いてしまったが、今回は心の準備ができていたため、強力な一撃ではあったが、ヤマトはそれをなんなく受けることができる。


「――ちっ! 俺の力は岩をも砕くんだぞ、それをこうも簡単に……」

「いや、強いですよ。……でも負けませんけどね!」

 戦いを楽しむようにニッと好戦的に薄く笑ったヤマトは反撃だといわんばかりに受け止めた斧ごと相手を弾き飛ばし、そのまま追撃して胴に突きをいれようとする。


「させん!」

 攻撃が来ることがわかっていた巨漢の男は気合で弾き飛ばされた腕を無理やり引き戻し、ヤマトの突きを斧の腹で受けることに成功する。

「……うお!」

 次の瞬間、ユイナの矢が男の頭部を狙ったが、間一髪のところで回避に成功していた。


 だが、そちらに意識が向くとヤマトの攻撃が容赦なく胴を、首を、頭部を、足を狙ってくる。


「くっ、いい連携だ」

 互いの邪魔にならないように、かつ相手に反撃を許さないと次々に繰り出されるヤマトたちの攻撃。

 男はなんとかそれらを防ぐ、もしくは避けるが完全に防戦一方だった。


 そして次の瞬間、防御の隙間を突いたヤマトの剣が男の肩にあたる。

「――だが、軽いわ!」

 だが剣は皮膚に触れたところで止まってしまった。男のは自らの魔力で、身体を硬化させていたのだ。


 跳ね返されたのを感じたと同時にすぐに次の攻撃体勢へ移行するヤマト。

 入った攻撃は本気でなかったためにあっさり止められたが、彼の顔には笑顔が浮かんでいた。


「ありがとうございます。俺とユイナに本気であたってくれて」

 何故戦って感謝されているのかと考えた次の瞬間、その言葉に男はハッとするが、既に攻撃態勢に入っているソレを避けることは叶わない。


「――ヒヒーン!」

 迫りくる何かに気づいて振り返ろうとしたその時、エクリプスの蹄が男の背中に直撃し、勢いよく吹き飛ばされていった。


「ナイスエクリプス!」

「格好いいよーっ!」

 笑顔でエクリプスの攻撃を称える二人は攻撃を連続で繰り出すことで、連携攻撃に重きをおいていると見せかけ、エクリプスの存在を隠していたのだ。




ヤマト:剣聖LV201、大魔導士LV196

ユイナ:弓聖LV198、聖女LV187、聖強化士LV49

エクリプス:聖馬LV116


太陽の宝玉

 太陽のような赤色の実をしており、スイカほどの大きさ。栄養価が高く、食べれば三日三晩不眠不休で生活できるほどの効力を持っている。臭いが強いが、その臭いに病みつきになる者もおり、好きなものはいくら払ってでも食べたいと思うほどのもの。


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」

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