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第六十五話



 ヤマトが雪をかき分けた大きな木のふもとには小さな洞窟のような入り口があり、そこから入ることで大木の中に広がる空間へと移動することができる。


 記憶にあるものと変わりないことにほっとしながらヤマトたちは中へ足を踏み入れた。


「ここの中に入ってと……エクリプスも入れるかな?」

 少し入り口が小さめだったため、ヤマトが心配するが、ヤマトとユイナに続いてエクリプスも問題なく入ることができた。エクリプスは初めての場所に警戒する様子もなく、器用に進んでいた。


 三人が足を踏み入れてすぐ、エントランスのような場所に出る。

 外から見るとそれなりに大きな大木だったが、中に入ると見た目と一致しない巨大な屋敷のような空間が広がっていた。


 木目調の広い吹き抜けの空間は外の雪景色を忘れさせる温かさがあった。


「中はあったかいねえ!」

 身軽になれることを嬉しそうに微笑んだユイナは首にしていたマフラーをしゅるんと外してアイテムボックスへ格納する。

「あの入り口が別の空間に繋がっているみたいだね」

 ヤマトも手袋を外して、アイテムボックスにしまっていた。エクリプスは身体についた雪を軽く身震いして払う。


 エントランスを通過して、見える一本道に入ろうとすると重低音の声が響き渡る。

『何者だ』

 その声にはやや不快そうな感情がこめられていた。


「冒険者のヤマトとユイナと言います。それから、仲間のエクリプス」

 姿の見えぬその声の主に聞こえるように話し始めたヤマトに紹介されて、ユイナはぺこりと頭を下げてそれにエクリプスも続く。


「どうもでーすっ」

「ヒヒーン」


 それを聞いた声の主が更に質問を続ける。

『その冒険者が一体なんの用でこの場所に立ち入った? 人避けの結界が張ってあったはずだが』

 顔が見えていたら間違いなく訝しげな表情であることが想像できる声音だ。


 これに対してヤマトたちも明確な答えを持ち合わせているため、堂々と返事をする。


「ここには必要なものを取りきました」

「そう、私たちの住んでいた場所に行くのに必要なものを」


 声の主にとってその返事は意外なものであった。

『……ここは我の住処だ。そこにあるものを持っていくというのであれば、お前たちは我の敵ということになる。先ほどの言葉に相違ないか?』

 一瞬驚きつつもすぐに元の調子に戻った声の主は自身の語気を強めるだけでなく、そこに威圧を込めている。すっかりヤマトたちを侵入者として警戒しているようだった。


「あー、会うことができたら色々説明をしたいところですけど……まあ、当面はそう思ってもらって構いません」

「うん!」

 だよねとヤマトに振られたユイナも笑顔で大きく頷いている。ここでどう説明しても納得してもらえるとは思えなかったための行動だった。


『――ならば、全力で排除しよう』

 淡々と、しかし苛立ちを感じる声で声の主はそう告げると、その後は通信が途絶えるようにぱたりと声が聞こえなくなった。


「さあ、それじゃあいこうか」

「りょーかい!」

「ヒヒーン!」

 自分たちにできることは、これから課される声の主からの試練を突破していくこと。そう決まっているため、三人はシンプルに戦い抜けようと考えることができている。


 先陣を切るようにヤマトが走り出すと、二人もそれに続いていく。






「――早速でてきたか」

 エントランスを抜けて通路に入ると、そこには多くのモンスターがひしめき合っていた。先ほどの声の主に命じられたのかは定かではないが、明らかに道を塞ぐように存在している。


「エクリプス、私を乗せてくれるかな?」

「ヒヒーン!」

 どうぞとやや首を下げるエクリプスに優しくほほ笑んだユイナはひらりと飛び乗った。


「これで、矢が撃ちやすくなったよー!」

 移動をエクリプスに任せたことで、ユイナは攻撃に集中して次々に矢を放っていく。

 ヤマトが接敵する前にユイナの矢がモンスターを倒していくため、すっかりヤマトは倒されたモンスターの回収役になっていた。


「ユイナすごいなあ」

 前をひた走りながらヤマトはその矢による攻撃の正確さに感心していた。

「ふふーん! 任せて!」

 道が塞がっては進行速度が遅くなってしまうため、現状この方法がスムーズに先に進める一番の方法だった。




 連携技で全く足を止めることなく進んでいくヤマトたち。



 あっという間に通路のモンスターを全て倒して、次の部屋へと到着する。ヤマトたちの到着にあわせて大きく扉が開いた。


「さて、ここは何がでるんだ?」

 楽しみにさえ感じているようなヤマトの言葉に合わせたかのように、部屋の奥からどすんどすんと荒々しく足音を立てて勇ましくゴーレムが現れる。

 ダンジョンの守護者としては、定番のものである。


「ここは俺が」

 武器に手をかけたヤマトが足に力を込めて、一気にゴーレムとの距離を詰める。それは目にもとまらぬレベルで、あまりの早さにゴーレムは急いで拳を振り下ろすが、その時には既にヤマトはゴーレムの後方にいた。


「悪いね」

 身体をひねってゴーレムがヤマトに向かって振り向こうとすると、すでに上半身が斜めに切られており、そのままズズズと音をたててその場に落ちる。

 斬られたところから崩れ落ちるようにゴーレムは物言わぬ瓦礫の山となって地に伏せた。


「ユイナ、エクリプス行こう」

 剣をしまってくるりと振り返ったヤマトは一度声をかけると、涼しい顔で奥に走っていく。


 その背中を追いかけながらユイナは強固なモンスターであるゴーレムを一刀両断にしたヤマトを見て、格好いいと心の中で思っている。その表情はとろけるような笑顔だった。

 エクリプスは自慢の主であることを誇らしく思いながらついて行った。



「この調子でいけば、一時間かからずにいけるはずだね」

 この先にある部屋の数や、モンスターを思い出しながらヤマトが口にする。またちらほら出始めたモンスターは走りぬきざまに切り伏せていく。


「さっきの感じだとそんなにかからないかも。ずっと走っていけるならその半分くらいでいけるんじゃないかなー」

 ミニマップをちらりと横目に見つつ、ユイナは通路にいるモンスターを倒しながらヤマトの言葉に答える。


 それはフロアボスを圧倒的な強さで倒したヤマトを見たための判断だった。


「かなあ? ……でも、この先がどうなってるか」

 通路のモンスター、そしてさきほどのゴーレムはゲームと同じ配置だったが、これまでのことを考えるともっと強力なモンスターがいてもおかしくない、それがヤマトの予想だった。


「あー確かに」

 またエクリプスに騎乗したユイナは道を切り開くべく弓を構えてのんびりと答えた。




 そんな二人のやりとりを声の主が見ていた。

 予想以上のスピードで進行する彼らを見て苛立ちに声を荒げて立ち上がる。


「――こ、この二人は一体何者だ!? モンスターがなんの障害にもなっていないではないか!」


 一定の強さを持っていないと入り口が見えないはずのこの大木のダンジョン。

 それでも、これまでも何人かの侵入者はあった。


「これまでは少し脅かせばみんな逃げたというのに、こやつらは……くそ、また!」

 少し目を離した隙に、ゴーレムに続いて次のフロアボスもあっさりと倒されたことに声の主は苛立ち、驚いていた。


「親父殿、これではただ防衛用のモンスターを食いつぶすだけだ。全て引かせてくれ……俺がでよう」

「お前……わかった、頼んだぞ!」

 すっと現れた存在を見た声の主は期待を胸に道中のモンスターを全て引かせ、彼を親父殿と呼ぶ巨漢の男性はヤマトたちと戦うために意気込んだ表情で部屋を出ていった。


「――これ以上進むことは認めぬ……頼んだぞ」

 ようやく落ち着きを取り戻した声の主はそう呟くと、再び席についてヤマトたちの動向に視線を向けていた。




ヤマト:剣聖LV201、大魔導士LV196

ユイナ:弓聖LV198、聖女LV187、聖強化士LV49

エクリプス:聖馬LV116


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


新連載始めました。

https://ncode.syosetu.com/n6248ek/

「記憶を取り戻した中年賢者は三つ目の人生を謳歌する」

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