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第六十三話



 準備を終えたヤマトたちが港に向かうと、他の船も次々に出航していた。街に負けず港も活気に包まれている。


「やっぱり、みんな海に出てるみたいだね」

 ヤマトが活気づいている港を見て嬉しそうに呟く。

「だねっ、やっぱり港町はこうでないとねー!」

 潮風に吹かれながらユイナも嬉しそうに笑った。


 この大陸の海の玄関であるこの場所にこれほど活気が戻れば、大陸全体で人の行き来が生まれ、全体的に経済が活性化されていく。


「あぁ、最近のヒューリアはどんよりとしていたからな。俺につっかかってきた貴族だって、普段だったらあんな風に人前で怒鳴ってきたりはしなかっただろうさ」

 つっかかってきた貴族、ゴーダマル――ヤマトたちが海の時化を止めることになるきっかけを作った人物のことであった。


「あぁ、いたいた。でも、あの人がいなかったら海底神殿に行ってなかったかもしれないね」

 ふわりと笑うユイナは結果としてあの貴族のことを悪く思っていなかった。それほどまでにあの海の状況は街の人々を苦しめていたことを理解したからだ。


「あぁ、そうかもね。俺たちを動かす力があるってことは、よほどの人物なのかも……?」

 ヤマトは本気なのか冗談なのかわかりづらいことを言っているが、ユイナにはそれは本気で言ってることだとわかっている。

「ふふふっ、ヤマトらしい言葉だね。――でも、うん、あの人も何か事情があったみたいだし、悪い人じゃないよ。何人にも断られてたみたいだったし、かつ何か急ぎの理由があった感じじゃん? 結局何も力になれなかったけどうまくいっているといいねっ」


 二人が貴族の男のことを悪く言わないのを聞いていると、ガズルも悪いことをしたかな? と頭を掻いていた。


「うん、そうだね。この先、俺たちと道が交わることがあればあの人ともまた出会うことがあるよ。その時には険悪な雰囲気にならないようにしたいね」

 優しい表情でそう言う彼の言葉にユイナは満面の笑みで頷く。愛しいものを見るようにふにゃりと目を細めてヤマトを見つめるユイナは、彼のこういった部分を好きになったことを改めて感じていた。


「……な、なんか、空気がむず痒いな。出発するぞ!」

 甘い空気を出しつつヤマトとユイナが見つめ合っているのを見て、落ち着きなくなったガズルが強引に空気を変えていく。

「――そうだった。ユイナ、乗ろうか」

 思い出したようにヤマトが彼女の手を優しくとって、船へとエスコートする。こういったところもユイナがヤマトを好きになった部分であった。


「ええい! ここでもいちゃつきやがって! けっ……さっさと出発だ!」

 二人が乗り込んだのを確認すると、ガズルはすぐに船を出航させた。




 水の祠に向かった時と異なり、旅のために船に乗っているため、二人は潮風を感じる余裕もあり、体いっぱいに気持ちよさを感じていた。

「――やっぱり海はいいな。俺はこの海とともに生き、ともに成長してきた。だから……あんたちには感謝している。ありがとうな」

 何の気兼ねもなく船を出せることに幸せを感じたガズルは前を見たまま二人に礼を言う。


 普段、素直に礼を言うことなどないガズルだったが、今回ばかりはかなりの大ごとであり、船で遠出できなかったストレス、閉塞感が強かったこともあってか、その言葉は自然と口から出ていた。


「いいんです、ガズルさんには俺たちの正体を明かさないまま、それでも水の祠まで送ってくれましたからね。あの場所に行くだけでリスクはあったし、何より俺たちは対価を支払ってませんからね」

 ヤマトは他の船乗りなら断っていたかもしれないことをガズルがすんなりと受けてくれたことを今でも感謝していた。突然現れた自分たちを信じてくれた嬉しさもあった。


「っ……ふ、ふん。俺はお前たちなら何かやらかすと思っていたからな。俺の人を見る目が優れてたってことだ」

 照れ隠しなのか、吐き捨てるようにそんなことを言うが、つまりヤマトとユイナのことを認めてくれているという口ぶりに自然と二人も笑顔になっていた。







 数日後


「――思っていたよりも早くつくことができたな」

 そう言うガズルの口からは真っ白い息が出ている。防寒具に身を包んだ彼らは雪の都フリージアナの港に入り、あとは接岸するだけというところまでたどり着いていた。


 通常一週間はかかるところだったが、ヤマトが魔法で風をおこして速度をあげたため、予定よりも早い五日で到着することとなった。


「さっむいねえ!」

 ぷるぷると寒さに震えるユイナはコートを着て、マフラーを首に巻き、手袋を身に着けていたが、それでもこのあたりの気温が低く、雪もちらついているため、寒いと思わず口から出てしまった。


「はあ、リアルだと雪国なんて来たことなかったからなあ……やっぱりこの景色は壮観だよ」

 防寒具を身に着け、ゲーム自体には感じられなかった肌寒さを感じながらヤマトはしっかりと風景を目に焼き付けていた。白く吐き出される息すら、彼に感動をもたらす。


 彼らが到着したのは雪の都フリージアナ――氷の大陸と呼ばれるここはこの地の海の玄関口となっている。

 そして、はるか向こうに見える山は全て雪に覆われており、巨大な威圧感があった。


「さて、俺も今日はここに泊まって明日帰るか。お前たちとはここまでになる。……色々と世話になったな」

「いや、こちらこそ。おかげで目的の街に到着することができました。これはお礼の品だから取っておいてください」

 深く頭を下げて感謝の気持ち伝えたヤマトは顔を上げると小さな袋を渡す、というよりも押し付けるとすぐさま船から岸へとジャンプした。


「じゃあね! ガズルさんも気をつけて戻ってね!」

 それに続くように飛び出したユイナも大きく手を振って別れの挨拶をすると、ヤマトのあとを追いかける。


 別れ際まで慌ただしい彼らに苦笑しながらも、彼らの活躍を願ってそのまま見送った。


「……ったく、仕方ないやつらだ。ちゃんと接岸してないと危ないんだぞ……ってこれ、すごっ!」

 呆れながらゆっくりと接岸作業を始めたガズルはその中身がちょっと気になって、ちらっと小さな袋をのぞき見する。 


 思わずぎょっとするくらい驚いたガズルだったが、それも無理はなかった。

 実はヤマトたちは旅支度の買い物をしたあと、ギルドとは別の店で持っていた素材を売りに出していた。そして、その金でいくつかの宝石を買ってお礼の品物としたのだ。


 これを売ればしばらく遊んで暮らせるほどの宝石たちにガズルはこみ上げる気持ちをぐっと抑えるように舵を切る。


「――なにからなにまで、ありがたい……」

 近海以外に船を出せずにいた期間、ガズルは貯金を切り崩しながら使っていたため、ヤマトたちの心遣いはとてもありがたいものだった。

 



ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195

ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37

エクリプス:聖馬LV113


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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