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第六十二話


 ガズルの家を飛び出したヤマトたちは、持っていた素材をギルドで売ることで購入資金を用意していく。

 彼らが予想していた以上に持っていた素材の数が多すぎるため、全ては出さずに街で買い物するのに十分な程度におさまるようにしていく。


 まだ街は慌ただしさに包まれ、それに伴い市場もにぎわっていたが、忙しそうな街の人々の表情はとても明るく、ヤマトたちは楽しく買い物をすることができた。


 そうして資金準備から買い物まで終えて、アイテムボックスに全部収納して手ぶらの二人はガズルの家へと雑談しながら戻っていた。


「――結局、この街では依頼を受けなかったよねー。ちょこっと貼ってあるの見たけど、面白そうなのいくつかあったよ!」

 ヒューリアには長く滞在することにならなかったため、思い出したようにユイナは話し出す。

 彼女が面白そうと思った依頼は、強力なモンスターの素材をとってくるものであったが、二人のレベルであれば余裕でこなせるものであった。


「あー、まあここはいいかな。次の街ではまた依頼を受けてみようか」

 クエストや依頼をこまめにやる彼女の性格を思い、ヤマトはこの先で望みを叶えてあげられればと考えた。

 既にガズルが船の準備をしていることを考えると、ここで何か依頼を受けては出発が遅くなってしまうだけだったためだ。


「だねっ、もっと簡単な移動手段が手に入ったら色々な街で受けて回るのも面白いかも!」

 ぴょんと機嫌よく一歩前に踏み出しつつ振り返ったユイナの移動手段という言葉を聞いてヤマトはにやりと笑っていた。

「ふふっ……そのためのフリージアナだよ。あそこに何があるか覚えてる?」

 悪だくみをするようなヤマトの言葉を聞いてユイナはハッとしていた。


「――ひ!……むぐぐっっ」

 ぱあっと表情を明るくした彼女が一文字目を口にしたところで、ふわりとほほ笑むヤマトにその口をふさがれた。


「ユイナ、誰が聞いているかわからないから外でそういうのは言わないでね。あと、この世界でもあるのかはわからないからさ」

 笑顔でしっかり言い聞かせるヤマトに、口をふさがれたまま、ユイナは何度も首を縦に振っていた。

 ヤマトは彼女が理解したであろうことがわかると口を塞いでいた状態を解く。


「他にもいくつか気になってることはあるんだよね……家とか」

 懐かしさを感じさせるようにぽつりとヤマトは呟く。

 二人はゲームの世界に家を持っていた。最強プレイヤーと名高い彼らのそれはある程度の広さのものであり、家具などにヤマトたちはかなりの金をかけて自分たちの理想の家を作り上げていた。


「……あー、どうなんだろう……。あればいいけど……お金かけてつくったおっきくてきれいなお風呂にー、ふかふかのベッドでしょ? それにがんばってコレクションした小物……全部あればいいなあ」

 エンピリアルオンライン時のマイホームを思い出したユイナは指折り数えて懐かしさに浸る。


 この世界の時間軸、状況がどのあたりになるのかわからないが、ポセイドンの記憶に自分たちがいたことを考えると、二人の家がこの世界にあってもおかしくはなかった。


「なんか色々楽しみになってきたなあ。ここまでゲームの世界との違いを見つけることばかりしてきたから、ゲームと同じ部分を見つけるのもいいね」

 穏やかに微笑むヤマトの言葉にユイナは同意するように笑顔で大きく頷いた。


「いいね! 確かに、街の並びとかは似てる部分があっても店が違ったりするから、同じ部分を探すっていうのは確かに楽しいかも!」

 そこからユイナの足取りは軽くなり、並ぶ街並みをキョロキョロと眺めながら記憶と一致するものを探し始めていた。


「……まあ、街の雰囲気はわかるけどさすがに並びとか細かい装飾になるとわからないよなあ」

 後をついていくヤマトは楽しそうに街を見て回るユイナを見てぼそりと呟いた。いくら彼女の記憶能力が高いといってもそこまで細かいところまでは覚えていないのではないかとヤマトは思っていた。


「ふっふっふーん、おっなじいえー♪ ならぶまちなみー♪ 見つからない、えー♪ 転ぶともだちー♪ って、転んじゃだめでしょ!」

 スキップまでしだしたユイナは謎の歌をつくり、謎の韻を踏み、自分でツッコミを入れていた。街を歩く奥様方にニコニコと微笑ましい笑顔を向けられ、恥ずかしそうに照れ笑いをしている。


「あぁ、いつものユイナだ……」

 照れを誤魔化すようにユイナはヤマトに向かって早く来るように急かす。

 そんな彼女を見てヤマトは心から癒やされ、追いつくように駆け出していた。






 そうしてガズルの家に到着すると、彼は既に準備を終えているようだった。一息ついてヤマトたちを出迎える。

「おう、戻ったか。こっちは準備できたぞ、フリージアナまでは船で一週間ほどかかるから食い物の準備もしておいたぞ」

 満足げな表情のガズルが指し示した先には、樽がいくつか並んでいた。


 ヤマトはそれに近づくと、見てもいいかとガズルに確認をとってからふたを開けて中身を見ていく。

「――水、果物、干し肉ですかね? あとは、燻製した魚……」

 水は重要なものであるとして、その他はお世辞にも美味しいとは思えないものだった。特に食べ物の好き嫌いが多いユイナが食べられそうにないものばかりで思わずヤマトは苦笑する。


「うーん、美味しくなさそう」

 ひょこっと樽の中身を覗いたユイナはがっかりしたようにヤマトが飲み込んだ言葉をさらりと口にする。


「……ばっ! ばっか! 何言ってるんだ、船旅と言えばこういうものに相場が決まってるんだぞ! しかも、今回はわりといいものを用意したんだからな!」

 まるでどこかでご飯を食べるかのようなヤマトとユイナの反応にガズルは顔を赤くして怒っていた。一応彼なりに気遣いのが失敗したことに思わず声を荒げる。


「いや、まあわかります。保存がきくもので、なおかつ大量に運べるもの、この人数で食べても十分足りるだけの量を確保するとなると、こういうものにいきつくんだろうな、と」

 困ったように微笑みつつ、ヤマトは理解を示しているような口調だったが、それでもこれを船で食べることには納得していないようだった。


「……だろう? だから、これでいいんだ。――それとも、お前たちがこれよりも保存がきくものを用意できるとでもいうのか? 無理だろう?」

 長年船乗りとして生きている自分の意見が間違っているわけがないという自負から、腕組みをしたガズルはやや挑戦的な物言いになっていた。


「……あー、なんかごめんなさい。怒らせちゃったみたいになっちゃって……私、そんなつもりはなかったんだけど……」

 つい文句を言った形になってしまったことを反省したユイナの言葉は弱くなっていた。しょんぼりと肩を落としつつ、悲しげな表情になっている。


「まず、せっかく用意してくれたものを馬鹿にするような言い方をしたのは謝ります。ごめんなさい」

「お、おう、わかればいいんだ」

 彼女の気持ちを察しつつ、真剣な表情になったヤマトは早い段階で頭を下げることで、ガズルの気勢を削ぐことに成功する。


「――その上で、これを見て下さい」

 人好きのする笑顔を浮かべたヤマトは自分のカバンから、肉まんを取り出した。これは先ほど街で買ってきたものだった。

「なんだ? さっき買って来たのか……――って、あつっ!」

 彼らが買い物をしに行ってからかなり経っているため、どうせ冷めているんだろうと雑に受け取ったガズルだったが、まるで作り立てのものであるかのように熱々な肉まんだったため、思わず落としそうになってしまう。


「おっと、せっかく買ったものなんだから台無しにしないで下さいね」

 ヤマトは落ちそうになったそれを見事にキャッチした。それにユイナがぱくりと食らいつく。食べた部分からほかほかと湯気が立ち上る。


「お、お前、それ……」

「はい、こんなものがたくさん入ってます」

 困惑するガズルにぽんぽんとカバンを軽く叩きながらニヤリと笑うヤマト、肉まんを咀嚼しながらもユイナもどうだと胸を張っていた。


「……は、はは、はは、すげーな。あんたたち、やっぱり他のやつらとは違うんだな! ――よおし、わかった、この食料は俺が帰りに食うから、行きは俺の分も出してくれると助かる!」

「もちろんです!」

 困惑から一転、家に響き渡るほど大きく笑ったガズルは彼らとの船旅が楽しくなるなと期待を持つ。

 彼の申し出に、最初からそのつもりだったヤマトは笑顔で頷いていた。


ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195

ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37

エクリプス:聖馬LV113


お読みいただきありがとうございます。

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