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第六十話



「――やれやれ、あっという間に出て行ったな」

 去っていくヤマトたちの背を見ながらのポセイドンの口ぶりは呆れているものだったが、表情は穏やかな笑顔だった。現在の生としての記憶の中で、自らが認めようと思った相手は今回のヤマトたちが初めてであるためだった。


「……父さん、あの人たちは一体……それに父さんが持っているという記憶は」

 戸惑うようなトリトンの質問にポセイドンは緩く首を横に振っていた。

「わからん。しかしやつらが力ある者だということは事実だ。そして暴走したお前を止めてくれた恩人である。ならば、我々ができうる限りの助力はしていこう」

 力強く響くポセイドンの言葉にトリトンは真剣な表情で首を縦に振った。








 一方でヤマトとユイナは遠慮なく神殿内のアイテムを回収していた。ヤマトたちが楽しそうにアイテム回収しているのをずっとエクリプスは見守っている。 

 ポセイドンからの通達があったのか、神殿内の精霊たちはただ見守るだけでこちらへ何かを仕掛けてくるようなことはない。


「ねえ、ヤマト。これも持ってくー?」

 ユイナが手にしたのそれは今のヤマトたちに必要とは思えないレアリティの低い回復アイテムだった。

「全部持っていこう。どれを使うとかはあとで確認すればいいよ」

 にっこりと頷いてそう答えたヤマトは次々にアイテムをアイテムボックスに収納していく。

 

 好きに持っていけばいいと言われたこと、そして二人にはアイテムボックスがあるため、大量に持ち運びできることから、あるだけの宝箱を全てあけて持っていくことにしていた。


「装備はこれでかなり強化できるはずだから、この先がだいぶ楽になるね」

 その時開けた宝箱から入手した剣士装備や魔法使い装備を手にしたヤマトは今の装備と性能を比較していく。剣聖、大魔導士になった際に最初に手に入った装備と比較しても格段にランクの高い装備ばかりだった。


「うんっ、海もこれで渡れるようになって行ける場所が色々増えるし、選択肢がかなり広がったね!」

 弾けるような笑顔でユイナも自分用の装備を確認していたが、ヤマト同様かなりのランクアップが見込めた。それと同時に彼女のコレクション欲も満たされてとても幸せそうな笑顔だ。


「これで大体の宝箱は開け終わったから、あとはポセイドンたちに挨拶をして街に戻ろうか」

 一通り神殿内のアイテムを回収したヤマトは満足げな表情でユイナたちに声をかける。ユイナとエクリプスは大きく頷いて返事とした。


 彼らは海底神殿へ水の祠を経由してやってきていた。

 しかし、嵐のエリアが近かったため、ガズルの船には戻ってもらっている。


「……帰りも転送してもらえるかな?」

 そのため、挨拶をしに戻る道中、ポセイドンの転送に二人は淡い期待を抱いていた。








「――ふむ、かなり遠慮なく持っていったみたいだな」

 戻って来たヤマトたちを見るポセイドンの言葉は責めるようなものではあったが、表情は不敵な笑顔であり、彼らが遠慮なくアイテムを持っていったことをむしろ清々しいとすら思っているようだった。隣りにいるトリトンもニコニコ笑顔だ。


「あー、すいません。ついつい……でも色々と活用させてもらいますよ!」

 苦笑交じりに謝罪するヤマトの言葉の“色々”の中には販売も含まれているが、あえてそれは口にしない。

「はっはっは、まあ構わん。持っていっていいと言ったのは私だ。そして、既にそれらは全てお前たちのものだから煮るなり焼くなり好きにするといい」

 神であるポセイドンはヤマトの言葉の意味をしっかり察しつつも細かいことを気にしていないようだった。


「あの、たくさんもらったばかりでこう言うのも恐縮なんですが……」

「元いた街に転送してもらうなんてことは……」

 ヤマトに続き、ユイナは言いづらそうにポセイドンにお願いをする。


 しかし、ポセイドンの反応は後光がさすほど爽快な笑顔であった。

「そんなことを気にしていたのか。構わん、大した労力でもあるまい。……そうだ、何か困ったことがあったらこのアイテムを使うといい。我々とコンタクトをとることができる」

 そう話すポセイドンから二人が渡されたのは【海神の呼び笛】という小さな笛だった。現実世界でいうホイッスルような形をしていたが、綺麗な海水を切り取ったように薄く青く輝いているそれは水の魔力が強く濃く込められていた。


「できれば本当に困った時に使ってくれると助かる。雑魚が数匹出てきたから助けてほしい――などというのは少々もったいない使い方であるからな」

 そうすることはないだろうが、という前置きを感じさせつつニヤリとポセイドンがヤマトたちを見る。

 ヤマトが呼び笛を鑑定すると“一度使うと壊れてしまう”という注意書きが記されていた。


「わかりました。もしかしたら、強力な敵と戦っている時に力を借りたいと思うかもしれませんが、それはご容赦して下さい」

 ふわりと笑ったヤマトの口調は丁寧だったが、どこかポセイドンを挑発するような口ぶりでもあった。


「はっはっは! それも構わん。お前たちが必要とした場面であり、我々の力が届きさえすればいくらでも力を貸そう。仮にその相手が別の神であったとしてもな」

 ポセイドンはわかっていた。ヤマトたちは恐らく今後色々な神と対峙する場面が出てくる。その神々の全てがポセイドンのように好意的な対応をしてくれるとは限らないことを。


「ありがとうございます」

「ありがとー!」

 深く頭を下げるヤマトの礼の言葉に、元気よくユイナも続く。


「――それではそろそろ転送をしよう。恐らく地上や海上はちょっとした騒ぎになっているであろうからな。ちなみにだが、何があったかを話すかどうかはお前たちの裁量に任せよう。……トリトンが原因だった、魔道具が原因だった、魔族が原因だった。どれもが真実だが、どれか一つを話してもいい、全てを話しても構わない。全て任せよう」

 転送用に光る三又の鉾をヤマトたちに向けつつ、ポセイドンはそうは言ったものの、彼らなら悪いようにはしないだろうという謎の確信も持っていた。


「わかりました。多分真実は話さないと思いますけどね、色々聞かれても証拠を出せないし……何より面倒くさいです」

 カラカラ笑ったヤマトはさらっと切り捨てた。隣りにいるユイナが同意するようにニヤリと笑っている。


「はっはっは、面倒くさいか。うむ、確かにそうだな。まあそのへんは好きにするといいだろう。――とりあえず転送をするぞ」

「お願いします」

 話がついたことを理解したエクリプスもヤマトたちの傍にやってきており、転送の準備が完了している。


「僕の力もいつでも使ってもらって構わないよ。それくらいしか罪滅ぼしできないからね。好きな時に呼んでくれていいからね、君たちにまた会えたらいいな」

 ポセイドン以上にトリトンは二人と一頭に助けられたという気持ちが強いようで、穏やかに微笑みつつヤマトたちの力になることを確約してくれた。


 そんな彼に感謝の気持ちを込めて頷いて返し、ポセイドンの鉾から放たれた光に包まれた一行は転送されていく。


ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195

ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37

エクリプス:聖馬LV113


海神の呼び笛

 ポセイドンたちを一度だけという制約付きだがどこでも呼び出せる、水の魔力が強く濃い、青く輝く美しい見た目のホイッスル。

 

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