第五十九話
「……俺たちと会ったことがある!? ゲ、ゲームの時の記憶があるということですか?」
記憶があるというポセイドンの言葉にヤマトは動揺するほど驚き、思わず食い気味の大きな声で質問する。
「わからん、お前たちと会ったのがお前が言うゲームとやらのことなのか、それともこの世界でのことなのか、はたまたあるのだとしたら前世というものなのか……」
難しい顔で悩むポセイドンはうまく答えられる言葉を見つけられず、口ごもる。
神もどこからか生まれいづるものであれば、前世というものが存在するのかもしれない。
「そもそも、記憶があるのは真実だが本当に私自身が経験した記憶なのか、それとも誰かに植え付けられたものなのかわからぬ」
神であるポセイドンですら自分自身の記憶についてわかっていないようだった。
「なるほど……でも、やっぱり俺たちがこの世界に来たのには何か意味があるんだと思います。あなたの記憶にあるということは、他にも覚えている人がいるかもしれないし、もしかしたらほかにも……」
思っていた以上に問い詰めるような口調になっていたのかもしれないと反省したヤマトは冷静さを取り戻す。そこからは色々な予想が頭に浮かび、その可能性について考えていた。
「ふむ、お前たちが何をもってこの世界に来たのかはわからんが意味もなく、ということもないだろう。何かあれば私も力を貸そう、馬鹿息子のことをなんとかしてもらったからにはそれくらいはさせてもらわないとな」
不敵な笑みを浮かべたポセイドンはヤマトとユイナのことを認めていた。
「僕も何かあれば君たちの力になるよ!」
ずいっと身体を動かして笑顔で話に入ってきたのはトリトン。父であるポセイドンからはじろりと睨まれていたが、それでもヤマトたちに感謝をしていたための気持ちの表れだった。
「神である二人の力添えがあるとなれば心強いです。正直、この世界には俺たちがわかることもありますが、わからないことの方が多いので……」
感謝の気持ちを伝えるように深く頭を下げたヤマトだったが、下に向けた表情には不安が浮かんでいた。隣りにいたユイナも揃って頭を下げ、彼の不安な気持ちを感じ取ったのか、気遣うような表情を見せている。
「はっはっは、あれだけの戦いを見せておいてそう不安になることもないだろう。トリトンとレベル差がありながらも一歩も引くことなく、ほとんど怪我をすることもなく戦い抜いたではないか」
ヤマトの不安を笑い飛ばしたポセイドンはトリトンと彼らの戦いをこの場所から見ていた。その戦い振りから二人と一頭のことを大変気にいっていたようだ。
「ヤマトはトリトンと真っ向から戦い、注意を引くことに成功していた。ユイナはヤマトが注意を引いている間に魔道具の場所を把握して、魔族の持つそれを破壊した。エクリプスは二人にモンスターが近づかないように次々に倒していった――見事な三人のチームワークだ」
楽しそうに目を細めてポセイドンが褒めてくれたことにヤマトたち三人はほっとする。神に認められるというのはとても心強いものだった。
「……この世界に来て、初めて本当のことを話して、そして初めて自分たちより強い人に力を認めてもらいました。――だから、うん、なんかまだやれるなって思うことができます」
ヤマトは握った自分の拳を見ながらふにゃりと笑顔でポセイドンに自分の気持ちを伝える。先ほどまでの不安な表情はそこにはない。
「うんうん! こんなにおっきくて強い人、じゃないか……神様が認めてくれるんだから私たちも捨てたもんじゃないよね!」
「ヒヒーン!」
吹っ切れたように元気になるユイナとエクリプスもヤマト同様にポセイドンの言葉に背中を押された気分だった。
「私の言葉なんぞで喜んでくれるのは嬉しいものだな。……それなら詫びの意味を込めてこの神殿のものを好きに持っていくといい。おそらくだが、本来は私を倒した際に手にはいるものであろうが、それを好きに使って構わん」
そう語るポセイドンの頭の中では、記憶のどこかでプレイヤーが自分を倒し、そしてこの神殿にあるアイテムを持っていく姿が見えていた。
「やっぱり……どこかでその記憶があるんですね。……クエスト【海神の力】で海神ポセイドンに力を認められて、クエストをクリアしたプレイヤーだけが手に入れることができる海底神殿に眠る数々のアイテム」
ゲーム時代の記憶、それをヤマトは鮮明に、ポセイドンは記憶の引き出しのどこかしらに覚えていた。
「……どういうことなんだろうね?」
悩むように腕組みをしたユイナが疑問を口にする。
ポセイドンにはなぜそんな記憶があるのかわからず、トリトンは一体なんのことなのかわからないようだった。
「……これもやっぱり確定じゃないけど、俺たちのプレイしていたエンピリアルオンラインとこの世界は酷似している世界じゃなく、同一、もしくはパラレルな世界なのかもしれないね」
苦笑交じりのヤマトのその答えを聞いてもユイナはうーんと唸りながら首をひねっていた。
「うーん、まあよくわからないけど、もしかしたらゲームのポセイドンとー、目の前にいるポセイドンさんにはなんらかのつながりがあるかもしれないってことだよね!」
自分の中で結論が出たのかびしっと指を立てて話すユイナは、理屈はよくわからないものの、それでも何かを感じ取っているようだった。
「そうだね、他にも俺たちとの記憶を持っている人がいるかもしれない。だから、俺たちは色々な人に会っていく必要があるね」
ヤマトはこれから先を見ていた。視線をはるか遠くへ向けるその表情は前向きで決意に満ちていた。
「お前たちがなぜここに来たのか、それはわからないままだったな? ならば、私以外の神に会うのもいいかもしれないな。他の世界から人を呼び入れる、などということができるのは恐らく神クラスでないとできないであろうからな」
ポセイドンの言葉にヤマトとユイナは大きく頷く。彼らの頭の中では目当ての神たちの姿が浮かんでいた。
「よし、それじゃあユイナ……神殿のアイテム回収に行こう!」
「おー!」
クエスト【海神の力】の難易度は高く、それだけに手に入るアイテムもレアリティの高いものが多かった。
そのため、プレイヤーの頃に戻ったかのような無邪気さで二人はアイテムの回収に走って行った。
ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195
ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37
エクリプス:聖馬LV115
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