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第五十七話


 ユイナが魔道具を壊したのと同時にトリトンが動きを止めたのを確認したヤマトは大きく息を切らしていた。

「はあはあ……やったか?」

 それほどにトリトンの攻撃は強く、そしてひたすら受け流され、攻撃がとおらないということは彼の疲労を増すのに十分な要素だった。


「う、うううう……」

 しかし、トリトンはこれまでのぼんやりした表情から一変、苦しげに身体を折り曲げ、うめき声を上げ始める。

「まだか!」

 何かくると直感で感じ取ったヤマトは再び剣を構え直し、トリトンと対峙する。


「……ううううう、うああああああああああっ!」

 身体をめいっぱいのけぞらせ、思わず耳を塞ぎたくなるほどの大きな声をトリトンが発する。

 それと同時に彼の身体から黒いモヤが弾き飛ばされるようにぶわりと出ていく。


「――これは!?」

 モンスターを活性化させる魔道具の力、それがトリトンの身体の中に入っていたようだ。驚愕しながらもヤマトはその光景から目を離さない。


「あああああううううううう……」

 そして、トリトンの声は徐々に弱まっていく。のけ反っていた身体もゆっくりと元に戻りつつあった。


 全てのモヤが出きったと思われたところで、トリトンは力なくその場にドサリと倒れる。その彼の口から何かの欠片がぽとりと零れ落ちる。

「これは……魔道具の欠片かな?」

 警戒しながらもゆっくりとヤマトは近づいてそれを拾う。それはヤマトが以前壊した魔道具と同種の魔道具の欠片だった。


 遠くの方で戦っていたエクリプスは目の前のモンスターが次々と消滅していくことに驚き固まっている。


「――ヤマトおおおっ!」

 その時、ユイナがものすごい勢いで走って戻ってきた。魔族が持っていた魔道具を壊し、魔族を倒したため、急いでヤマトのもとへ駆けつけたのだ。

 彼女はただ戻ってきただけでなく、そのままの勢いでヤマトに抱き着いた。


「ヤマト! 大丈夫? 無事? 手も足もある? 怪我は?」

 ぎゅっと抱きしめたあと、ユイナはヤマトからばっと少し離れると、ぺたぺたと彼の身体の状態を隅々まで確認していく。あれほどの化け物の相手をしていて無事で済むとは思えなかったためだ。


「あ、あぁ、大丈夫だよ。ちょっと細かい傷はあるけど、ダメージは少ないから」

「“ヒール”!」

 彼女の心配ぶりに苦笑しつつヤマトが頬や腕の小さな傷を見せると、間髪入れずにすぐさまユイナは回復魔法を使う。通常の回復魔法よりも力が強く込められていることにヤマトは戸惑った。


「だ、大丈夫だって。これくらい騒ぐほどのものじゃないから」

「いいから、ヤマトは黙って回復されなさい!」

 キッと強く睨み付けるユイナの剣幕に気圧されたヤマトは、抵抗をやめてされるがままにすることにした。彼女にこれほどまでに心配されるほど大事に思われていることは嫌じゃなかったからだ。


 実際にヤマトが受けたダメージは小さく、あっという間にユイナの魔法で回復されていく。


「――ふう、これで完璧!」

「ありがとうね」

 全ての傷を治したユイナは充足感のある顔でにっこりとほほ笑むと、愛しいものを見る優しい笑顔でヤマトが礼を言う。

 彼のその表情を見たユイナの頬は照れからかうっすらと紅色に染まっていた。





「――さて、トリトンをどうしようか?」

「うーん、連れて行ってもいいけど途中で目が覚めて暴れたら困るよねえ」

 倒れるトリトンを見つめつつのヤマトの問いかけにユイナは腕を組んで考え込んでいた。


「そういえば……晴れたね」

 ふとヤマトは空を見上げ、先ほどまでの嵐がどこかに消え、穏やかな空がそこにあることを確認する。あれほど荒れていた海も静けさを取り戻し、晴れ渡った空から降り注ぐ太陽をキラキラと反射していた。

 境界のようなものも一切なく、ヒューリアの街が遠くに見える。


「あー、だねえ。戦いに集中して忘れてたよ。……うーん、気持ちいいねー!」

 空には温かな太陽が輝き、気持ちのいい海風が吹いてくるため、大きく伸びをしながらユイナは目を細めていた。


『――海底神殿へと一度転送しよう』

「わあっ!」

「きゃっ!」

 急にどこからともなく声が聞こえてきたため、二人は驚いてその場から飛びのく。


『私だ、ポセイドンだ』

 今度もどこから聞こえてくるのかは謎だったが、聞き覚えのあるその声に正体がわかったため、ヤマトたちが落ち着きを取り戻す。


『嵐が晴れたことで、そちらからの転送も安全に行えるようになった。だから、一度戻って来るといいだろう。そこの馬鹿息子も一緒にな』

 馬鹿息子という部分にポセイドンの怒りが込められているのが感じられた。


「それじゃあ、お願いします」

「しまーす!」

 返事を聞くと通信の向こうのポセイドンは頷いて、槍を頭上にかざして転送を開始した。


 光に包まれたヤマトたちは一瞬でポセイドンのもとへと瞬間移動する。それは周囲でモンスターと戦っていたエクリプスも同様だった。

「ヒヒーン!」

 モンスターが目の前で消え、困惑している中、急に転送されたためエクリプスは動揺しているようだった。


「どうどう、エクリプス。大丈夫だ、ポセイドンが転送してくれただけだから。落ち着いて」

 暴れるエクリプスを見て優しくヤマトが声をかけると彼は落ち着きを取り戻していく。背中をゆっくりと撫でると安堵したようにエクリプスはヤマトに顔を擦りよせる。


「なんか、エクリプスでかくなったか? 力強さを感じる気がする……」

 すり寄って来る彼の顔から成長を感じ取ったヤマトはエクリプスのステータスを確認する。

「うわあ! エクリプス強くなってるー!」

 ユイナも同時にステータスを確認したらしく、その成長ぶりに声を上げて驚いていた。


「レベル……115……。すごいな……」

 元々の倍以上のレベルになっていることにヤマトも驚いていた。それとともに彼がそれだけレベルアップする間、モンスターたちを倒し、せき止めていてくれたことに感謝した。

「ヒヒーン!」

 どうだと、エクリプスが胸を張る。ヤマトたちの役に立てて嬉しいといった気持ちが伝わってくる。


「……う、ううん! ごほんごほん!」

 自分のことを忘れていないか、とポセイドンがわざとらしい咳払いをする。

「――ポセイドン様、転送ありがとうございます。それと、息子さんはどうしますか?」

 内心すっかりポセイドンのことを忘れていたヤマトは彼に気遣いつつ、トリトンの処遇について確認する。


「うーむ、とりあえずこの馬鹿が目を覚ましてからになるな。あれだけのことをやらかしたからには、それ相応の責任をとってもらうことにはなるだろう」

 ポセイドンはそもそもトリトンのことを気のすむまで放置するつもりだったが、完全に魔族に操られていたのを見て、あまりの不甲斐なさに何もなしで済ますつもりはないようだった。


「……あの、これがトリトンの身体から出てきたんですけど」

 少し考えたのち、ヤマトはトリトンの口から出てきた魔道具の欠片をポセイドンに渡す。

「これは……何かわからんが、良くない力を感じるな」

 すっと目を細めたポセイドンは魔道具から闇の力を感じ取っていた。


「それが身体の中に入ったら、正気を失うこともあるのかと」 

 ヤマトはトリトンをフォローするつもりではなく、ただ事実を伝える。そして、実際にこの魔道具にそういった影響があるのか、神である彼ならば何かわかるのではないかという確認のつもりだった。


「ふむ……少し調べてみよう」

 ヤマトの言葉で興味がわいたのか、ポセイドンは魔道具の欠片を右手に乗せて、左手でそれを鑑定し始めていた。



ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195

ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37

エクリプス:聖馬LV115


お読みいただきありがとうございます。

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