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第五十四話


「――トリトンがいる場所は、海上の嵐の中心だ」

 ポセイドンは面白そうな声色で息子の居場所を教える。


 それを聞いたヤマトは頷く。これは予想していたとおりだった。

 話の中にあったモンスターを活性化する何か、恐らくはそれとトリトンが海を荒れ狂わせているのと繋がっているというのがヤマトの予想だった。


「どうやって行けばいいんだろうねー?」

 うーんと首を傾げたユイナはそこに辿りつく方法について考えていた。あの天候ではフライングバードで向かうという方法は難しい。そのため他に方法を考えなければならなかった。


「そこは、ほら、ね?」

 にっこりと笑顔でヤマトはポセイドンを見ていた。

「ふむ、あやつをなんとかしてくれるのであれば、あやつのいる島まで転移させてやってもいいだろう」

 一瞬きょとんとしながらも頷いたポセイドンのその言葉をヤマトは待っていた。


「お願いします」

 即答しながらびしっと頭を下げたヤマトにユイナもぺこりと頭を下げてお願いをした。いつの間にかエクリプスも側に来ている。


「――わかった。一応転移先の状況を教えておくが、あちらの天候は嵐だ。その中心にトリトンがいる。あいつがいるのは小さな小島だ、そうだな……ちょっとした広間程度の大きさだろう。そして、あいつの周りにはモンスターがいる。それもかなりの数だ」

 ここまで全てヤマトとユイナの予想通り。恐らくそのモンスターたちは闇のオーラを纏っているであろうことも想定できる。


「そして……トリトンと同程度の力を持つ者がいる。人……ではないな、魔族というやつだろう」

 魔族とはこの世界に生きている種族であり、邪なる心を持つ種族であると言われている。時に世界を騒がすために暗躍し、時に街を襲撃し人々を苦しめる。

 それが彼ら魔族の生きる意味だった。


「魔族か、つまり……」

 これまでに何度かあったモンスターの大量発生に関連する魔道具を設置したのが魔族である可能性が高い。


「うん、これでまた一歩真相に近づけるね!」

 ヤマトが何を考えているかわかっているユイナが笑顔で言葉を続ける。


「なんのことかわからんが、飛ばして構わんか?」

 無表情で問いかけるポセイドンは槍をヤマトたちに向けていた。

「お願いします。ちなみにトリトンさんですが……倒してもいいですか?」

 ヤマトの挑戦的とも思える発言を聞いたポセイドンはにやりと笑っていた。


「あぁ、構わん。あのような馬鹿なことをしでかす息子、一度死ぬくらいでちょうどいいだろう。はっはっは!」

 自らの息子であるのに死ぬことを気にせず大きく笑うポセイドン。


 その時ヤマトは内心で思う。

 ――俺たちでは倒せないと思っているのかな? それとも、息子が倒されることを喜んでいる? それとも……。


「ふっ、色々と考えているようだな。人というのは面倒なものだ。トリトンに関しては不甲斐ないところもあるが一応あれでも強い。そして万が一お前たちに負けることがあれば、それはあやつの実力不足が招いたことだ。お前たちが気にすることではない」

 あっけらかんとしたポセイドンのそれを聞いてヤマトはどこかスッキリとしていた。


「――それじゃあ、お願いします」

 黙って頷いたポセイドンは槍をヤマトたちの頭上に振りかざし、光を纏わせると、転移先をトリトンのもとに設定する。

「あの馬鹿のことを……たのんだ」

 最後にポセイドンが言った言葉は静かな響きだったが息子に対する気遣いが見られた。彼はさきほど大笑いしていたがこちらが本心だったのかもしれない――そう思わせるような真剣な表情だった。






 眩い光に包まれた三人が次に目を開くと、そこは嵐の真っただ中だった。

 ビュービュー、ゴーゴーと音をたてて大きく風が渦を巻くように吹いている。そして、土砂降りの強い雨が大地にたたきつけられていた。


「俺たちが濡れてないのは、ポセイドンの力がまだ漂っているからかな」

 その中、ヤマトたちは風の影響も、雨の影響も受けていない。雨を確認するように手を伸ばすが、風雨はヤマトたちを避けるように弾かれていた。

 わかりやすくいえば、この状況は転移後の無敵時間だった。


「これって、すぐに効果消えちゃうよね? 早く動かないと……まずはこれかな、“敏捷強化”」

 祈るように詠唱したユイナが三人にすばやさをあげる強化魔法をかける。効果時間は十五分。


「嵐の中心はあっちか」

 ありがとうと一度彼女に微笑んだヤマトが嵐の方に目を向ける。


 ヤマトたちはトリトンがいる島に飛ばされたが、それはトリトンの目の前ではなく、ある程度の距離があった。

 

「エクリプス、俺とユイナは恐らくトリトンと魔族を相手にすることになると思う。だから……」

 そこまで言うとエクリプスは首を横に振る。みなまで言うなと。


「そうか、わかっているんだな……頼んだぞ。まずは道を作らないと、“エアホール”!」

 真剣な表情に切り替わったヤマトは風の道を作り出して外の影響を受けないように進んでいく。

 その道は真っすぐにトリトンのいる場所へと向かっていた。


 三人がしばらく走って進んでいくと、嵐の中心であろう場所に辿りつく。

 そこは周囲が大嵐であるにも関わらず、ぽっかりと雨風の影響を受けていない場所だった。

 トリトンを中心に半径五十メートル程度の距離で地面が濡れてすらいないエリアができあがっている。


「台風の目、か」

 まさにヤマトが言ったとおりであった。先ほどまでの嵐のうるささはここにはない。どんよりとした曇り空の下にいるような暗さがあった。


「――あん? 誰か来たのか? この嵐のど真ん中に」

 それはトリトンの言葉ではなく、すぐ近くにいる魔族の言葉だった。あり得ないという響きが籠っている。


 魔族――彼らは皮膚の色は青みがかっており、角が額のあたりから生えている。

 それに加えて背中に大きな翼がある以外は人と同じような構造をしているように見えるのが特徴だ。


「お前たちがこの嵐の元凶か。悪いが、嵐は止めさせてもらうぞ」

 ゆったりと趣味の悪いソファのようなものに腰かけているトリトンと魔族を見たヤマトは強く睨み付けつつ剣聖の剣を引き抜き、切っ先を彼らへと向ける。


 すると魔族はばかばかしいとヤマトの言葉を笑い飛ばした。トリトンの表情に変化はない。


「はっはっは、笑わせてくれる。たかだが人ふぜいが何をできる? こっちはポセイドンの息子と魔族だぞ? ……まあ笑わせてくれたから命だけは見逃してやってもいいぞ。くっ、くはははっ!」

 にたりと笑みを浮かべた魔族の言葉が本気でないことはヤマトにもユイナにもわかっている。


「……エクリプス、周りのやつらを倒しておいてくれ」

 台風の目のエリアには多くの闇のオーラを背負うモンスターがいるため、それらがこれから始まる戦いに乱入してこないようにエクリプスに指示を出す。こくりと頷いた彼は勇ましくモンスターに向かって行った。


「ねえヤマト、魔族じゃなくトリトン……あれ、やばいよね」

 ユイナはトリトンから表情が消えていることに危険信号を感じていた。

「あぁ、意識があれば、正気であれば対話もできるだろうけど、あれはそういう状態じゃないみたいだ」


「ふっ、ははははっ! よく状況がわかっているようじゃないか、しかし……見通しが甘い!」

 愉快だというように大笑いした魔族は身軽な動きで立ち上がり、ぐっと一歩踏み込むと、ものすごい勢いでヤマトたちへと向かっていた。



ヤマト:剣聖LV198、大魔導士LV192

ユイナ:弓聖LV195、聖女LV181、聖強化士LV30

エクリプス:聖馬LV55


お読みいただきありがとうございます。

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