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第五十二話



 翌日


 二人と一頭の姿はガズルの家にあった。


「……なんか、増えてないか? 人じゃないやつが」

 困惑するようなガズルの視線はエクリプスで止まっていた。普通の馬に比べてがっしりとした大きな身体を持つエクリプスは彼の目に物珍しく見えたようだ。


「あぁ、気にしないで下さい。こいつはエクリプスっていうんですけど、かなりの戦力なので」

「うんうん、そんじょそこらの人よりも何倍も強いよね!」

 ヤマトたちがエクリプスのことを認めているようなので、ガズルも少し考えたのちそういうものなのだろうと納得することにした。彼の持つ船にもエクリプスを乗せることも可能なため、これ以上言うことは止めたようだ。


「それで、水の祠まででいいんだよな? 今の天気だったら多分行けると思うが、いかんせん海上の天気は変わりやすいから、続けばいいんだが……」

 今日の天気は雲がところどころにあるが快晴といっていいほど晴れていた。だが最近の海の天候は変化しやすく、ガズルもその点を心配していた。


「その時は、俺がなんとかします」

「……わかった、その時は任せた」

 ガズルはヤマトの自信のある表情を見て、なぜか信じられると思えていた。彼の隣にいるユイナも馬のエクリプスにも不安な様子が一切ないのもガズルを信じさせた一因かもしれない。


「――それじゃあ、早速行くぞ」

 そんなガズルの言葉に一同は頷き、港まで向かうことになった。





 まだ、朝早いため街には人通りがほとんどない。ガズルの家は港にすぐ迎える配置にあることもあってか港まで誰に会うこともなく到着する。

 最近の事情が影響してか、港に到着しても人はまばらだった。船を出すにも、あまり遠くまでいけないため、わざわざ朝早くから出発する必要がないようだった。


「おう、こっちが俺の船だ」

 慣れた足取りで真っすぐ進むガズルの案内に従っていくと、そこには木造のやや大きめの船が繋がれていた。使い込まれた感じはあるが、そこはしっかりとしたつくりとメンテナンスがいいのか自慢の船であることが伝わってくる。


「これなら、そっちの馬も一緒に乗れるだろ……それより、本当に水の祠に行くんだな? ここに来て不安になったんだが、あそこは小さい祭壇があるだけで他には何もないぞ?」

 ガズルが再度確認するように尋ねてくるが、もちろんこのことはヤマトもユイナも知っている。頷いて返事とした。


「えぇ、もちろんです。――でも、あの場所がきっと打開策に繋がるはず……」

 ヤマトは朝の静謐な海の水の祠がある方向に視線を向ける。

「ふーむ、あんたがそういうならきっとそうなんだろう。俺はとにかく案内するだけだ、あとのことはあんたたちに任せた」

 腕組みをして聞いていたガズルはそう言うと一足先に船にのり、停泊用のロープを外す準備にとりかかる。


 一行も慌てて船に乗り込み、それを確認するとさっそくガズルは船を出した。

 木造の船であるため、もしかしたら手漕ぎの船かとも思ったがこれはこれで最新式の船だった。


「魔道具に少量の魔力を込めると自動で進んでくれるんだ。いい値段だったが、それだけにいい買い物だった」

 自慢げに舵をとるガズル。船はかなりの速度で走り、滑るように海を進んでいく。


 ヒューリアの海にもモンスターが出ることはあるが、ここまで特にモンスターが出ることはなかった。

「――モンスターは出ないんですか?」

 ゲーム時代との違いもあるため、ヤマトが確認の意味でガズルに質問する。


「あぁ、港から近い近海は安全だよ。まだ海神様の守護が効いているみたいだ。だが、時化のあるほうはまずいな、天候が悪いだけじゃなくモンスターも多いって話だ。天候とモンスターを何とかできたとしても方向感覚が狂うって話も聞いてる」

 店で話していたように近海での漁はできるが、遠出はできないというのはこのあたりが理由らしく、ガズルが硬い表情で答えた。


「なるほど……あぁ、あのあたりが」

 ふとヤマトが視線を前方に向けると、遠くにある一定のラインから急に天候が悪くなっているのが目に入った。

 まるでそこからは侵入を拒むようにはっきりと変わっているため、異様な光景に見えた。


「変な感じだね、線に沿って綺麗に雨が降ってる。こっち側は穏やかで晴れているのに、あっちは大嵐だよ……」

 ヤマトの側にいたユイナもその異常性に怪訝な表情で前方を見つめていた。


「あぁ、だから街の漁師は誰も遠くに船を出したがらない。命知らずのやつが何人か挑戦してみたんだが、結果は命を失うか二度と漁にできない身体で帰って来るかだった」

 その異様な景色を横目にしながらもガズルはしっかりと前を向いていたため、ヤマトたちからは表情は伺いしれなかったが、声からは寂しさ、辛さ、絶望が感じとれた。


「――そんなことが二度と起きないようにしないとだね」

「うんっ」

 見つめ合ったヤマトとユイナは強い決意を秘めていた。


「ヒヒーン!」

 それは彼らの後ろでいななくエクリプスも同様だった。





「さて、そろそろ水の祠が見えるはずだ」

 少しずつ船のスピードを抑えながらガズルは水の祠の方向へと向かっていく。

 そちらには小さな小島が見えており、事前に言っていたとおり大雨と晴天のはざまに位置していた。


「手前はこっちの範囲だから、なんとか近くまでは寄せることはできるんだが、島まで近づくとなると波が強くてな」

 これまで揺れの少なかった船も揺れ出すほど、奥の大雨と風の影響から付近は波が強かった。


「了解です、それじゃあ近づけるギリギリまで船を寄せて下さい。そこからはなんとかするので」

「なんとかって……」

 この海上で一体何ができるのかと首を傾げながらも約束した以上、ガズルは言われた通りにする。


 ガズルの技術は高かったが、それでも小島までの距離はまだ二十メートルほどはあるところまでしか近づくことができなかった。


「――すまん、ここが限界だ」

「ガズルさん、ありがとうございます。ここまでこられれば十分です、さあ二人ともいくよ」

 申し訳なさそうにするガズルに感謝の気持ちを伝えつつ振り返ったヤマトにユイナとエクリプスは頷いて返した。


 それを確認したヤマトは再度海のほうを見ると、船のへりに足をかけ、腕を前に伸ばすと魔法を放つ。

「“フリージングライナー”!」

 ふわりと冷たい空気がヤマトの周囲に集まったかと思うと、船から少し間を開け、氷が太い直線を描いて小島へと一気に走っていく。瞬く間に氷の道ができあがった。


「お、おおおおぉ……」

 なんとか船をその場に維持しつつ、ガズルはそれを見て大きく驚いていた。普段のいかつい顔が驚きに染まっている。


「それじゃガズルさん、帰りは自分たちでなんとかするのでここまでで大丈夫です。ありがとうございました」

「ガズルさん、ありがとねー!」

「ヒヒーン」

 少し振り返ってそう言い残し、氷の上に飛び出したヤマトに続いて、ユイナとエクリプスも飛び出していく。


 三人の中で一番体重の重いエクリプスが乗っても、びくともしない程度には厚い氷をヤマトは作り出していた。

 氷はヤマトたちが小島に到着すると、パリーンと砕け散って波立つ海にかえっていく。


 ヤマトたちが小島に無事到着したのを見届けたガズルは彼らの無事を願いつつ、ヒューリアの街へ帰って行った。





「――到着っと、それじゃあユイナ頼んだよ」

「任せてー!」

 彼女だけが目的の場所を知っているため、ここからはユイナを先頭にして、祠の中へと入っていく。


 小島にぽつんとある祠は下の方に背の低い小さな洞窟があり、その中に祭壇がある。

 ひんやりとした空気と水たまりがあるのを横目に彼らはすぐに祭壇前に辿り着く。


「えーっと、確かこの辺に……」

 ユイナは中に入ると祭壇の裏のあたりをごそごそと探っていく。


 この祠はゲーム時代、足の悪い老婆の代わりに花とお祈りをささげるというクエストのためにしか来ることはない。

 しかも、そのクエストの報酬は別段目を見張るものではなく、金が少々もらえるだけだった。


 それゆえに、このクエストを受けないプレイヤーも多く、しかもここまで入念に調べるプレイヤーもいなかった。

 だがユイナはこういう小さなクエストもマメにやる性格で、しかも何度もくりかえしやっていたのだ。


「あったあった、ここがちょっとへこんでてー、尖ったもので押すと……」

 ユイナがちょんと狙いの場所を押すと、パカッと祭壇の裏が開いた。ヤマトは感心したようにその様子を見守っている。


「それでもって、このボタンを押すと何かが起こるはず、なんだけどー……」

 この仕掛けをゲーム時代に見つけていたユイナだったが、これを押すのは初めてだった。彼女はドキドキしながらも思い切ってそのボタンを押す。


 すると祭壇はゴゴゴゴと大きな音をたてながら横にずれていく。


「――やっぱりね!」

 嬉しそうにその先を見るユイナ。そこには祠の地下部分へと続く階段があった。

「なるほど、これはすごいね。新発見だ!」

 この先はヤマトも初めての場所であるため、興奮しているのが言葉尻から感じられていた。



ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189

ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178、聖強化士LV1

エクリプス:聖馬LV42


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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