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第五十一話



 一方でヤマトは、森でエクリプスのレベル上げに付き合っていた。


「そこだ、いけ、エクリプス!」

 ヤマトは周囲を見渡せるほどよく大きな木に登り、太い枝に座った状態でエクリプスの戦いを確認していた。


久々に戦えることを喜ぶように森を駆け回るエクリプス。

まるで水を得た魚、空を飛ぶ鳥、ガソリンの入った車のごとく、エクリプスは現れるモンスターを次々に倒していた。


「――馬なのに、すごい強いなあ……」

 レベル上げ開始時のエクリプスのレベルは十五レベル。この森のモンスターの平均レベルは四十。

 通常であればエクリプスは圧倒的なレベル差の前に太刀打ちができない、はずだった。


「なんか、エクリプスって強すぎるような」

 最初のうちはヤマトが補助しながら戦っていこう――そう考えていたが、レベル上げをすると伝えた時、エクリプスはヤマトが手伝おうとするのを首を振って止めた。


 危ないとは思ったが、エクリプスの意見を尊重し、ヤマトはいざという危険時だけ魔法で援護しようと考えていた。

「その必要が全くないもんなあ」

 だが苦笑交じりでヤマトの目線の先で戦うエクリプスは危険事態に陥ることが全くなかったのだ。


 モンスターのレベルに関係なく、エクリプスは蹄による鋭い攻撃をする。狙いすましたように絶妙なタイミングでモンスターを踏みつけ、攻撃を加えるとすぐにひらりと身をかわして距離をとる。

 その戦い方で次々にモンスターたちを倒していた。


「戦いの申し子か……」

 まさにその言葉がピッタリな戦いぶりにヤマトは感心していた。十五レベルで開始していたエクリプスは今やレベル三十を超えている。


「――ヒヒーン!」

 戦いを楽しむようにエクリプスは機嫌のよい声をあげてモンスターを攻撃していた。

「ガ、ガルルル!?」

 まさか、普通の馬であるエクリプスがこれほどの力を持っていると思わないモンスターたちは、最初に侮り、次にその動きに動揺し、状況を理解し始めた時には踏みつぶされている。


「あの蹄……普通の蹄じゃない?」

 てっきり一般的な蹄鉄が装着されているものだとヤマトは思っていたが、どうやら戦えば戦うほどに力を増しているように見えた。

 よく見てみると一般的な蹄鉄とは見た目が違うように感じられた。


 実際にエクリプスが装着している蹄鉄は『進化の蹄鉄』という名前だった。

 その効果は装着者のレベルが上がるほどに、モンスターを倒せば倒すほどにその身に強化を付与していくもの。


「あれがエクリプスの強さの秘密か」

 橋での闘いでもエクリプスは強さを見せていたが、あの時はヤマト自身は戦いに集中していたため、その戦いをしっかりとは見ていなかった。

 ようやく彼の強さに納得がいったが、それでもエクリプス自身が戦おうという意思を持たねばこうはならなかっただろう。


 そして、今回その戦い振りを見たヤマトは戦力になればいいな程度に思っていた考えを改めることになる。


「――これは、大事な戦力になるな」

 ぽつりとつぶやくヤマトの声が聞こえたのか、ふいにエクリプスは視線を向けて、声をあげる。

「ヒヒーン!」

 その様子はニヤリと笑ったように見えた。自分は他のマウントとは違うんだぞ、とアピールしているようだった。


「ようし、このままやれるだけやっておこう。ここなら、レベル四十くらいまであげることはできるだろうしね」

 エクリプスの頼もしさに破顔したヤマトはエクリプスのステータスを確認しながら、そう呟いた。

「ヒヒーン」

 だがもっといけるぜ? とでも言いたいかのような表情でエクリプスは戦い続けていた。まるでこの辺りのモンスターたちを一掃するような戦い振りだ。


 それから数時間の間、エクリプスは休みなく戦い続けていき、目標だった四十レベルを超えて四十二レベルにまで達していた。






「ヤッマトー!」

 丁度そのタイミングで空を飛んで戻って来たユイナがヤマトに合流する。

「ユイナ、おかえり!」

 上空から勢いよくフライングバードを飛び降りたユイナはマウントを帰しながらそのままヤマトに抱き着いた。


「おっとっと」

 枝にいたヤマトに抱き着いたため、勢いあまって落ちるかと思われたが、ヤマトの風魔法の応用とユイナの支援魔法によって二人は太い枝の上でしっかりと立てていた。

 

「エクリプス、強くなったみたいだね!」

 しっかり受け止めてもらえたことを嬉しそうに笑ったユイナは同じパーティに登録しているため、エクリプスのステータスを確認している。さすがにヤマトとユイナほどのレベルまでには至っていなかったが、十分戦力に数えられる力を持っていた。


「……あれ? ユイナ、なんだろこれ?」

 彼女と一緒にステータス画面を見ていたヤマトが不思議そうな顔で指差した部分はエクリプスのステータスの職業の欄だった。

「えっと、せいば……聖馬?」

 ゲーム時代にも二人は馬などを育てたことはあったが、馬に職業がつくというのは初めての経験だった。


「聞いたことないよね……俺たちの職業に影響されたのかな?」

 木を降りたヤマトは腕組みをしながら考えていた。

「かもしれないね、どっちにしろ悪いものじゃないだろうから、きっといい変化だよ。なんせ、聖なる馬なんだからね!」

 ぴょんと地面に降り立ったユイナは弾けるような笑顔できっぱりと言い切る。字面だけを見て彼女は判断していたが、彼の戦い振りを間近でずっと見ていたヤマトも確かにと納得させられていた。


「ヒヒーン!」

 ユイナの帰還に気づいたエクリプスが近づいてきたことで、ヤマトは更に装備も確認しておこうと思い、装備欄を見ていく。

 ゲーム時代ではマウントに見た目を変える装備はあったが、蹄鉄は能力に関係する装備だった。

 ならば、他にも装備があるのかと気になっていた。


「えっと、進化の蹄鉄。それと、知識のたてがみ……って装備じゃなく髪じゃないか。……いや、これがエクリプスが俺の言うことをハッキリと理解する能力に繋がっているのかな?」

 手綱を使って方向を指示することや止まれと伝えることは他のマウントモンスターでも行えることだったが、エクリプスの知力はそれにとどまらず、ヤマトたちの言っている言葉の意味まで理解しているようだった。


「へー、すっごいじゃん! これならモンスターがいる場所に一緒に向かっても大丈夫そうだね! 肉体もかなり強いみたいだから、多少のことじゃびくともしなそうだし」

 ユイナが感心したように装備欄をヤマトと一緒に見ている。


 実際、エクリプスはこの森での戦いで攻撃を受けることもあったが、どれも軽傷止まりで目立ったダメージは見られなかった。


「うん、頼りになるね。俺たちは水の祠に向かうことになるけど、エクリプスもがんばってくれよ!」

「ヒヒーン!」

 ヤマトに頼られていることに喜びを感じたエクリプスはこれまでで一番嬉しそうで大きな鳴き声をあげていた。


ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189

ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178、聖強化士LV1

エクリプス:聖馬LV42


進化の蹄鉄

 装着者のレベルが上がるほどに、モンスターを倒せば倒すほどにその身に強化を付与していく。

 馬専用装備。


知識のたてがみ

 生まれつき生えているものであり、高い知力を持つことができる。

 数万頭に一頭の割合でこのたてがみが生えることがあると言われている。


お読みいただきありがとうございます。

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