第四十六話
リーガイアから少し離れたところでフライングバードを降りたヤマトとユイナは報告のためにまっすぐ冒険者ギルドへ向かう。するとすぐに領主と騎士隊長を招集するとのことで、領主の館に案内されることとなった。
この場に集まったのは、ヤマトとユイナ。更には冒険者ギルドのマスターであるグタール、領主、騎士隊長の合計五名だった。
「――それで、依頼の結果はどうなったか報告をしてくれ」
二人は冒険者ギルドの依頼で動いていたため、司会進行はギルドマスターが行っている。グタールは腕組みしながらそう促す。無事に帰ってきたヤマトたちから早く話が聞きたいという様子だ。
「えっと、それじゃあまずどんな状況だったかというところから話しますね」
ヤマトは街まで続く道、そして街の手前にある大平原に大量にモンスターがいたことを話しだす。
「聞いていた情報と大体同じだな、思っていたより悪化しているみたいだが……それで、その状況の原因はつかめたのか?」
厳しい表情の領主も独自の情報網で状況を掴んでいたようだ。
「はい、街の人の話を聞いていくと大平原の西の方からモンスターが増えだしたという情報を元にそちらからあたることにしました。そして、その場所には大きな魔法陣が一つ、それと魔物を誘引する魔道具が設置してありました。これがそれになります」
ヤマトは街に戻る道中でアイテムボックスに入れておいた五つの内の一つ、壊しておいた魔道具の一部を取り出す。
魔道具はいまだ完全な形でアイテムボックスに四つ取っておいてあるが、ザイガの街ではすべて破壊した――と報告しており、ここに出したのはその時の一部を持ち帰っていたということにしようというのが二人の考えだった。
「誰がいつ、なんのために設置したのかはわかりませんが、それらを壊したらモンスターの発生がおさまったので原因は恐らくそれかと。その魔道具に関しては大部分はあちらのギルドマスターと領主が調べたいとのことで置いてきました……が、欠片だけは内緒で抜いておきました」
なるほどと頷いた領主たちは少し不満げだったが、テーブルに置かれた魔道具の一部に全員の視線が集中する。
「ユイナ」
ヤマトに名前を呼ばれたユイナはひとつ頷き、その魔道具の欠片を一番近い席にいたギルドマスターに渡す。
ひとしきりグタールはそれを確認すると、今度は隣りにいる騎士隊長へと渡して順番に回していく。
破壊された魔道具の一部はもう力を持っていないため、領主たちにとってはただの破片にしか見えないようだった。
「それで、この魔道具が壊れているということは大平原は本来の状態に戻ったということか?」
ここが肝心だと言わんばかりに真剣な表情でグタールが質問してくる。
「はい、確か依頼の内容はモンスターの大量発生の原因究明、もしくは原因を取り除くことだったと思います。なので、原因を取り除いてきました」
ヤマトが淡々と説明するが、お偉方の三人はすんなり納得というわけにはいかないようだった。
「――にわかには信じがたい」
これはふんと鼻を鳴らす領主の言葉。適当な魔道具を壊して持ってきただけではないのかと疑う眼差しを二人に向けている。
「……確かに、この報告だけで納得はできませんね」
静かに首を振った騎士隊長も難しい顔をしている。原因と思われる魔道具の全てが見られなかったことが彼に不信感を抱かせた。
「……念のためもう一度聞くが、本当にお前たちが解決したのか?」
依頼したはずのグタールですら二人のことを疑ってかかっていた。力があるとは思っていたが、被害状況を聞く限り、二人に解決までできるとは到底思えなかったのだ。
「……ねえねえヤマト、あれだそうよっ」
ちょんちょんと服の裾を引くユイナに言われて、彼は大事なことを思い出した。
「そうだった、えっと……これこれ」
アイテムボックスからヤマトは二つの書状を取り出すとユイナに渡し、ニコニコと笑顔の彼女がそれをグタールへと渡す。
「これは……ザイガの街の領主とギルドマスターの書状か」
なんだというように書状を見たグタールは差出人の名前を確認すると、ちらりとヤマトの表情をうかがう。
それに対するヤマトの答えはだまって頷くことだった。
なるほどとグタールも頷き、この場の他の面々を代表して書状の封を開ける。
「…………」
急ぎながらもしっかりと領主の書状を読み終えると、次はギルドマスターのものを読み始める。
読み終えたそれは、隣に渡され、回し読みされていた。
先ほどまでは微妙な雰囲気だった部屋は沈黙に包まれ、紙が擦れる音だけが響く。全員が読み終わったところで、三人の視線が一斉にヤマトたちへ集まる。
「疑ってすまなかった」
「申し訳ない……」
「悪かったな、ちゃんと報酬は払うから安心してくれ」
三者三様な謝り方だったが、先ほどまでの強気な態度が嘘だと思えるほどの急な態度の変わりようにヤマトとユイナは首をかしげるが、これ以上報告することもないので、信じてもらえたことに納得しておくことにする。
「ではこれで報告は終わりでいいですか?」
ヤマトの確認に反対する者はおらず、この場は解散となった。
ただし、お偉方三人はまだ何か話があるとのことで残って話を続けるようだった。
領主の館を出たヤマトは急ぎ足で冒険者ギルドへと向かっていた。
「ど、どうしたの? 何か急ぐことあったっけ?」
ユイナは驚いて少し出遅れつつ、小走りでついて行きながらヤマトへと質問する。
「……いや、杞憂にすめばいいんだけど、厄介ごとに巻き込まれそうな気がするから早く報酬をもらって、次の街に移動したいんだよね」
焦るヤマトの表情を見てユイナにも焦りが伝播する。こういう時のヤマトの勘は外れたことがないからだ。
「――もしかして、領主さんたち?」
「うん」
そこからは言葉少なに、冒険者ギルドへと二人は急いだ。
彼らがギルドに到着すると、空いているカウンターへと移動して職員へと声をかけ、冒険者ギルドカードを提出する。
「ギルドマスターから受けた依頼の報酬をもらいに来たんですが……」
「少々お待ち下さい」
職員はカードを確認して、その内容がわかるとすぐに奥から報酬を持ってきた。
「えっと、こちらが報酬になります。全てマネーカードに入れていいでしょうか?なんか……すごく多いんですけど、何かあったんですか……?」
思っていた以上に報酬の額が多いことで、職員が反対に二人へと質問をする。マネーカードを改めて受け取り、金額計算の魔道具を見た職員の手は驚きで止まっていた。
「はい、よろしくお願いします。それなりに高難易度の依頼だったので……」
コクリと頷いて返したヤマトは大平原での戦いを思い出しながら、これくらいもらって当然だとまで思っていた。
「そ、そうですか……。ではこれで依頼完了報告とさせて頂きます。カードと報酬をお渡ししますね」
深く事情を聞こうとしてしまったことを詫びるように頭を下げた職員は二つのカードを返す。
二人は手続きが済んだそれらをばっと受け取り、挨拶もそこそこに冒険者ギルドをあとにする。
どうやら姿の見えないグタールはまだ領主の館で話し合いをしているらしく、戻ってくる気配はない。
「よし、ユイナ行こう!」
「うん!」
急ぎながらも大きく目立たないように意識したヤマトは念のため領主の館から離れている西門に移動して、そこから街を出ることにする。
「……よし、これなら大丈夫そうだ」
ヤマトはそう言うと、すぐにフライングバードを呼び出し、ユイナの手を引いて飛び乗る。ぶわりと大きな羽を広げたフライングバードは二人を乗せて悠然と空へと飛び立った。
「いざ、次の街へ!」
「おー!」
心地よい風に吹かれながら上空を移動する二人の頭にはこの世界の地図が浮かんでおり、次はどこに行こうかなと旅に思いを巡らせていた。
「――な、なんだとおおお!」
二人がこの街をあとにしてしばらくして、リーガイアの冒険者ギルドに大きく響き渡ったこの叫びはグタールのものだった。
あれだけのことを成し遂げたのだからこの街でのんびり過ごすだろうと思っていたヤマトたちが既に急ぎ足で報酬を受け取ったことに驚きを隠せなかった。
そしてこの街を飛び立つフライングバードの姿を目撃したという話から彼らはもうこの街にはいないだろうと予想がつく。フライングバードは人気のないマウントなだけに印象に残る人がいたようだ。
領主の館で話し合っていたお偉方三人は、ヤマトたちが強力な力を持っているということを手紙から知り得たため、この街に定住してもらい、どんどん活躍してもらうという算段をたてていたところだった。
それが一瞬で崩れ去ったための嘆きの叫びだった。
あの時のヤマトの厄介ごとに巻き込まれそうという予想はあたっており、見事回避することに成功していた。
ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189
ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178
エクリプス:馬LV15
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