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第四十五話


 思う存分ユイナに愛でられてぐったりとしていたキャティとラパンに別れを告げた二人は、フライングバードを呼んでリーガイアへと戻ることにする。

「――んじゃ、帰る前に、アレをやっておかないとね!」

 心なしかつやのあるユイナが笑顔でアレと言ったのを聞いて、一つ頷いたヤマトはフライングバードを上昇させる。


 昨晩、寝る前にユイナが提案したのは、ヤマトが燃やしに燃やしつくした大平原の草についてだった。恐らく時間をかければ、草はそのうち全て生えそろうだろう。

 しかし、街の人にとってこの大平原は聖地とも呼ばれる大事な場所である。


 それをなんとか回復する方法はないかと話し合って結果、思いついた方法。

「“大地の祝福”」

 聖女の杖片手にユイナが最初に使ったのは、聖女が使えるスキルの一つで、大地に住まう精霊の力を借り、次に使う魔法の効果範囲を広げるものだった。蛍のように淡い光の玉が次々に浮かび上がると、ある一点で彼女の周囲をぐるりと囲むように一帯が大きく光を放つ。


「“マジックブースト”」

 それに続くようにヤマトが次に使ったのは、対象者が次に発動する魔法の効果を高めるスキルで使用対象者はもちろんユイナ。魔法が付与されて淡い光で包まれた彼女は自身の魔力の高まりを感じている。


「ん、これならいけそう! “女神の癒やし”」

 大きく手を広げて祈るように目を閉じたユイナは上空で範囲回復魔法を唱える。


 ユイナが対象としたのは大地そのもの。今は焼け野原と化している大平原――そこにユイナが回復魔法をかけるとどうなるのか?


 彼女の呪文に応えるように雲間から差し込むように空から神々しい光が大地へと降り注いでいく。聖地と呼ばれたその場所はまるでなにかが降臨したかのように神聖な雰囲気に包まれた。


 いまはまだ朝早いため、その光景を見ている者は少なかった。

 ヤマトたちを見送りにきたキャティ、ラパン、街の入り口にいる衛兵、そしてたまたま早起きした住民がいくらか。

 彼女らは空から温かな光が降り注ぐのを見て、何が起こっているのかと口をあけ、呆然とその光景を見ていた。


「ユイナ、いい感じだ!」

 ユイナの魔法の光が降り注いだ箇所の地面はぱあっと光を放っている。

 ヤマトが燃やしつくした大草原の大地――そこからはっきりと命の芽吹きが感じ取れる。つまり、草が生えてきていた。


 ぴょこん、ぴょこん、と次々に新芽が地面から顔を出し、それらは聖地の持つ力をさらに引き出すようでもあり、気づけば大平原は元の姿を取り戻しつつあった。


 それを上空から確認したヤマトはフライングバードを、更に西へと移動させる。街の正面に見えるあたりはかなりの回復がみられたため、次に被害が大きい場所の回復に向かう。


 先ほどの女神の癒やしの使用によってマジックブーストの効果は切れている。

「“マジックブースト”」

 そのためヤマトは再度、スキルを使用した。ありがとうという気持ちを込めてユイナが優しく微笑む。


「ようっし、いっくよー! “女神の癒やし”」

 先ほどのように再び使用した魔法。それは再度聖地に奇跡を起こし、焼け野原はみるみるうちに青々とした草原へと戻っていく。


 実は昨日のうちに二人は魔法を使うことで、大平原の回復に役立つか試していた。夜中に宿を抜け出した二人は、焼け野原になっている地面の一部に回復魔法をかける。

 すると、そこから草が生えてきたのを確認することができた。大地も生命力のようなものがあるようで、回復魔法が効いたのだ。


 それならば、明るいうちに地面の状態を確認しながら広範囲に魔法をかけることができれば、大平原の復旧をすることができるのではないか? それが二人の考えだった。


「――成功だね!」

「うん、やってよかったよ!」

 昨日の時点でも調査は入っていたと思うが、聖地と呼んで大事にしていたザイガの人たちは恐らくこの惨状にかなりのショックを受けたであろうことは予想できる。

 しかし、昨日の集まりで誰も指摘しなかったのはキャティたちがあらかじめ説明をしてくれていたためだった。


「……これで、少しは思いに報いることができたかな?」

 あの説明の時、あれだけの被害を出しておいて、ヤマトたちを責めるものは一人もいなかった。だが中には怒りを抑えていた者もいるかもしれない。

 ならば、少しでもその怒りを解消できればと思っていた。


「きっと大丈夫だよ! だってほら、キャティたちが手を振ってるもん!」

 嬉しそうに笑うユイナが示す地上に目を向けると、二人は笑顔で大きく手を振っていた。上空にいるヤマトたちに声は届かなかったが、精一杯の大きな声で感謝の言葉を口にしているようだった。


 しかし、手を振っているのはキャティたちだけではなかった。


 街の方に視線を向ければ、衛兵、街の住人、そして冒険者ギルドの職員たちも街の外まで出てきていた。最初はただ光の正体はなんだったのかを調べるために出てきていたようだ。

 そして、キャティたちの声でその正体がなんなのかわかり、上空にいるヤマトとユイナへの感謝の言葉を届けるために声をだしている。


「救世主だ!」

「女神さまー!」

「やっぱり彼らはヒーローだ!」

 嬉しそうな表情でみんな口々にヤマトとユイナのことを褒めたたえている。彼らにとって今やヤマトとユイナは英雄になりつつあった。



 だが残念ながらはるか上空にいるヤマトたちにはその声が届いていないため、二人は軽く別れの挨拶として手を振って、その事実を知らないままリーガイアへと進路をとる。


「さあ、リーガイアに戻って報告だ」

「うん! お金たくさんもらえるといいねー!」

 達成感に満ちた二人は調査だけでなく、解決までしたからには報酬に色をつけてもらえるのではないかとふんでいた。


 しかし、実は今回の戦いでかなりのモンスターを倒した二人のアイテムボックスの中には、多種多様なかなりの量の素材が入っていた。

 事態の解決に集中していたために改めて確認していない二人は、それのことに気づいていない様子だったが、それらを全て売却すれば一財気づくこともできる。それだけのアイテム量だった。


「でもでも、もし少なかったとしても実績ができるから、ランクも上がって色々受注できるようになるかもしれないね!」

 ニコニコと眩しい笑顔を浮かべるユイナは冒険者ギルドの仕事から始めていたため、ランクが上がることが嬉しいようだった。


「――それなんだけどさ、もっと大きく稼いでいかない? レベルもガッツリ上げたいし」

 にやりと笑うヤマトの提案を聞いて、彼が何を考えているのかユイナは理解していた。

「いいね! もっと色々やれることあるもんね……うん、なんだかワクワクしてきたー!」

 ユイナは、ヤマトの考えに加えて自分がやりたいことも思いついており、飛びきりの笑顔になっていた。


 今後の活動について話し合う二人は、時間を忘れて語りあい、あっという間にリーガイアに到着することとなる。



ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189

ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

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