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第四十四話


 翌朝


 宿で一晩ゆっくり休んだヤマトとユイナは、約束のとおり手紙を受け取るために冒険者ギルドへとやってきた。大平原のモンスター討伐から一夜明け、冒険者ギルドは少し慌ただしそうにしていたが、皆の顔には街にモンスターが来るのではないかと不安そうにしていたことなど見る影もない。


「あの、すいません。ヤマトと言いますが、ギルドマスターと領主様の手紙を受け取りに来ました」

 ヤマトが代表してカードを出して、受付の女性職員に用件を告げる。


「……あっ! 昨日の! しょ、少々お待ち下さい!」

 ヤマトのカードと顔を見て慌てたように女性職員がバタバタと走り出し、不注意で近くにあった椅子に足をぶつけ、それを倒しながらもなんとか転ばずによろけつつ上の階へと走っていく。


「なんか、おっちょこちょいな感じだね」

 その一部始終を見たユイナは女性職員のことを可愛いと思い、ふふっとほほ笑んでいる。

「あぁ、別にゆっくりでいいんだけどね……」

 大丈夫かとハラハラしつつ、ヤマトは彼女の動きを見て苦笑していた。


 しばらく待っていると女性職員が再びドタドタと走って戻ってきた。

「はあはあ……お、はあっ、はぁ……お待たせしました。こちらに……はあはあ、なります……っ」

 彼女は肩を大きく揺らして息を切らしながら、それでもなんとか腕を伸ばして手紙を持ってきたことをヤマトたちに伝える。


「あ、ありがとうございます……」

 汗だくの女性職員を見たヤマトはそんなに急がなくてもよかったのに、大丈夫かな、と思いつつ困ったように笑顔を浮かべて礼を言う。

「い、いえっ、はああああ、ふうううううう」

 大丈夫だと手ぶりしつつ、彼女は大きく深呼吸をしている。

 だが去ろうとしていたヤマトたちに気づくと、右手を前に出して、待ってくれとヤマトたちに合図を出していた。


 まだなにかあっただろうかと顔を見合わせて立ち止まったヤマトたちに向かって女性職員はようやく顔を上げてにっこりと笑った。


「あの、街を救って下さって……ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

 事前に示し合わせていたかのように女性職員の礼の言葉に合わせて、他の職員も一緒に頭を下げ、大きな声で礼の言葉を口にする。


「おおう」

「わあ!」

 ギルド中に響くほどの勢いのある礼の言葉に驚いた思わずヤマトは一歩後ずさりし、ユイナは感動で目を輝かせていた。


 二人にとっては、一つのクエストだったが、この街の住人にしてみれば街の危機を排除してくれたヤマトたちは英雄だった。


「ほーら、ヤマト!」

 よく見てみればギルド内にいた他の冒険者たちもありがとうと言うように手を挙げたり頭を軽く下げており、そんな人たちにユイナが何か返事を返せとヤマトに声をかける。


「――仕方ないなあ」

 みんなから寄せられる何かを期待するような視線に苦笑しながら、ヤマトは一歩前にでる。

 職員だけでなく、フロアにいた冒険者たちもヤマトの言葉に注目しているようだった。


「……感謝の言葉ありがとうございます。今回の一件――つまり大平原のモンスター大量発生ですが、他の街でも大変な状況であると認識していたため、我々が派遣されました」

 他の街の情報が全く入ってこなかったため、それを聞いて、過ぎたこととはいえ、みんな見捨てられていなかったことに安堵する。


「今回、原因を取り払うという最善の結果を残すことができました。それは、この街の皆さんが情報をくれたおかげだと思っています。だから、これは二人の勝利ではなく、この街の勝利です……もう一度言います、この街の勝利です!」

 明るく盛り上がる口調を意識したヤマトは二度目を強く強調し、手を挙げて宣言する。


 すると、ギルド内はわあっと歓声があがった。大きな拍手も上がり、それらは全て彼らを称えるものだった。


「――ヤマト、格好良かったよっ」

 いたずらっぽく微笑んだユイナに言われて、ヤマトは少し顔が赤くなっていた。

「さ、さあ、今のうちにギルドを出るよ!」

 火照った顔を見せないようにヤマトはユイナの手を引いて、急いでギルドを出ていった。二人がギルドをあとにしても、いまだ歓声が聞こえていた。


「ふう、あんなことになるとは思わなかったよ……ユイナがやればよかったのに」

「ふふーっ、だーめ。私が格好いいヤマトを見たかったんだから!」

 好意の感情いっぱいの彼女の笑顔を見ては、ヤマトは降参するしかなかった。なんだかんだと彼女の笑顔を守るために頑張ってきたところがあるからだろう。


「さて、良いものが見られたところでリーガイアにもどろー!」

「了解」

 腕を大きく上げて宣言したユイナはヤマトの先を歩いて、街の門へと向かっていく。もう彼らの気持ちはリーガイアに向いていた。




 ヤマトたちが街の出口である門のところへあと少しでつこうというその時。 


「おー、来たね。いつ来るか賭けてたんだけど……へへっ、あたしの勝ちだね!」

「はいはい、私の負けですよ」

 街の門のところには嬉しそうに笑うキャティとため息交じりのラパンが待っていた。

 

「あれ? 二人ともどうしたの?」

 先を歩いていたユイナが二人を見つけ、きょとんとした表情で首を傾げながら質問する。


「どうしたって、お前たちこのままリーガイアに戻るつもりだったんだろ?」

「えっ? うん、だって依頼の完了報告しないとだし……」

 何を聞いているのか全く分かっていない様子のユイナの答えを聞いたキャティはやれやれと首を振っている。


「水臭いじゃないか。昨日もさっさと帰っちまうし、最初にあんたたちを助けてやったのはあたしたちなんだから、去り際の挨拶くらいしてくれたっていいだろ?」

 たわわな胸の下で腕を組んだキャティは彼らが何も言わずに出て行こうとすることに不満そうな表情で、つい二人を責めるような口調になっていた。


「もう……ごめんなさいね、ただ寂しかっただけなんです。キャティは助けてやった、なんて言ってますけど、お二人が今回の件を解決したこと、酒場でもうそれはそれは自慢げにずっとみんなに話してたんですよ。終始、お二人のことをべた褒めだっただんですから!」

 クスクスと上品に笑うラパンがキャティが照れくさくて言えない気持ちを代弁する。まさかばらされるとは思っていなかったキャティは驚いてラパンの肩を掴む。


「い、言うなって! は、恥ずかしいじゃないか!」

 言葉のとおりキャティは照れて顔が真っ赤になっていた。ラパンになんで言ったんだと迫るも、彼女はただ微笑むばかりだ。


「……可愛い」

 ぷるぷると震えていたユイナはぼそりと呟くと、一瞬姿が消える。

「「!?」」

 目の前から突如として消えたことに驚いたのはキャティとラパン。ヤマトは、あ、あれかというように苦笑する。


「ああああああっ! モフモフだああっ!」

 瞬間移動したかのようにキャティとラパンの方にダッシュしたユイナは飛びつくようにキャティに抱き着くと、自分より背の高い彼女の頭を恍惚とした表情で撫でまわしていた。牛の獣人である彼女だったが、野性的にカットされた髪がふさふさでユイナのモフり対象になったようだ。


「きゃ、きゃああああ!」

 急なことで驚いたキャティは女の子らしい悲鳴をあげてしまう。尻尾をピンと立てて固まってしまっている。もうユイナの成すがままだ。

「ちょ、ちょっとユイナさん!」

 それを慌てて阻止しようとするラパン。キャティがこんな悲鳴を上げるのはめったに見ないため、彼女も混乱していたようだ。


「――あっ」

 それを見たヤマトはこのあと起こる光景を既にイメージしていた。そしてため息をつきながら、内心キャティとラパンにごめんなさいと合掌していた。


「ウサ耳モッフモフー! えへへー!」

 完全にモフモフモードに入ったユイナは、今度はラパンを標的にしてモフり始めていた。ふにゃふにゃととろけるようなユイナの表情はずっとこらえていた感情を爆発させたようで、キャティとラパンはぐったりするほどに撫でまわされていた。


「……まあ、大好きな獣人たちに囲まれて今まで我慢したからこれくらいは、仕方ないか」

 街を救ったことに免じて許してやってください――ヤマトは心の中でそう思いながら、困ったような笑みを浮かべつつ目の前の光景を見守っていた。



ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189

ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

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