第四十三話
宿へ向かったヤマトとユイナがしばしの休憩を終えて冒険者ギルドに向かうと、既に獣人族の人たちが彼らが想定していたよりも多く集まっており、今か今かとヤマトたちが来るのを待ちわびていた。ヤマトたちが入ってくると、ざわめきが大きくなる。
「ヤマトさん! ユイナさん!」
そんな中、二人を知っているラパンとキャティが迎え入れてくれる。他の者たちを見てみれば、好奇心、猜疑心、敵対心、好意、敵視――さまざまな思いを胸に抱いているようだった。
「えっと、ここにいる人たちはどういう……?」
全ての人々ひとりひとりに説明するのも大変なため、主要な人物を、と言ったのはヤマトだったが、実際にどんな人が集まっているのかまで知らない。ザイガの街における重要なメンバーがそろっているであろうことは向けられる視線や相手の雰囲気からも十分に伝わってきていた。
「そうですねえ、ちょっとたくさんいますので全員はご紹介できませんが、冒険者ギルドのマスター、サブマスター、有力なパーティのリーダーさん、それから……街の領主さんです」
それは大物が来たな、でも当然か――ヤマトとユイナは表情を変えずになるほどとだけ頷いた。
そして、二人はギルドの中央に用意された椅子に座らされる。周囲を半円型に主要な人物たちが囲う。まるで囲みの記者会見のようだとヤマトは内心苦笑していた。
「みなさんお待たせしました。こちらがヤマトさんとユイナさんです」
一人立っているラパンはこれだけの人を前にしても緊張する様子なく、この場を取り仕切っている。最初にあった頃にちょっと引っ込み思案だったのは単純に人見知りだったのだろう。
「それでは、我々の聖地である大平原で何があったのか。モンスターはどうなったのか、それをお二人から説明してもらいます。……どうぞ」
ラパンはそれだけ言うと、ヤマトたちに一度柔らかく微笑み、自分も離れた椅子に座って聞く姿勢をとる。
「ごほん……――どうも冒険者のヤマトです。今回の大平原のモンスターの大量発生について、こちらで行ったこと、わかったことを話したいと思います」
話を振られたヤマトが一つ咳をしてから聴き取りやすい穏やかな口調を心掛けつつ、説明を始める。
「俺たちは中央都市リーガイアで今回の大平原の調査依頼を受けてきました。原因の究明、もしくは原因を取り除く――それが俺たちが受けた依頼です。依頼についてですが、この街の冒険者のランレンさんからこの街の現状の報告を受けたために、ギルドが依頼として俺たちに託しました」
それを聞いたギルド内が一気にざわつく。まさかランレンが無事にたどり着いていたのかと驚く者。リーガイアのギルドマスターが依頼を出したにも関わらず二人しか来ないのか? などなどそれぞれの考えを口にしていた。
しばらくざわつくが、その間ヤマトが何も話さないのを見て、静かにしなければ話が進まないことを察して徐々に収まっていく。
「続けます。そして、この街ヘはフライングバードに乗って飛んできたのですが、空のモンスターが思っていたよりも多くて、一気に飛びぬけたところをキャティさんとラパンさんに助けられました」
ヤマトが視線を二人に向けると、みんなの視線も自然とそちらへ向く。まさか視線を向けられると思っていなかった二人は居心地悪そうにしているが、間違いないと頷く。
「それから彼女たちや酒場にいた冒険者の方々からこの街が置かれている状況について色々と話を聞くことができました。それで一つのことに気づきました――大平原の西が怪しい、と。なぜそう思ったかは割愛します。そういう情報を聞けたから、とだけ言っておきます」
その言葉に不満を持つ表情をした者もいるが、ヤマトは気にせずに話を続けていく。
「どうやって――というの秘密にするとして、とにかく俺とユイナはモンスターを撃破しながら大平原の西に向かいました。そこには大きな魔法陣がありました。モンスターはそこから召喚されていたのだと予想しています」
再びざわつくが、それもすぐ収まる。まだ話の核心部分ではないと誰しもが感じ取ったからだ。
「なんとか魔法陣を壊して周囲を確認すると、小さな祠が六つありました。そして、それには一つずつ魔道具が設置されていました。それがこれになります。証拠としてこれは残しましたが、他の五つは粉々に壊しておきました」
そこでヤマトは以前橋で回収した壊れた魔道具を取り出して、近くのテーブルに乗せる。今回、回収した魔道具がアイテムボックスに入っていることはあえて伏せた。事態は解決しているため、すべての真実を告げる必要はないと判断したためだ。
「それが何なのかは申し訳ありませんが、俺は専門ではないのでわかりません。しかし、これを壊した途端に残ったモンスターが姿を消したので原因はこれにあるのではないかと思います。これはリーガイアのギルドに届けようと思いますが……」
そこまで言ったところで、一人の男性がすっと手を挙げる。
「はい、どうぞ。……申し訳ありません、どなたか存じ上げないので失礼な物言いかもしれませんが、そこはお許し下さい」
服装から、恐らくそれなりの身分にある人であろうと判断したヤマトは言葉に気をつけながら話す。
「あぁ、構わんよ。街を救ってくれた英雄だからな、言葉遣いの一つや二つ気にせん。――私はこの街の領主をさせてもらっている。まあ、それはいいんだが、その魔道具をリーガイアに持っていくというのはどういうことかね? この街の周囲で起きた問題であり、我々にこそその魔道具を調査する権利があると思うのだが?」
領主のそれは態度を気にしない風ではあったが、魔道具に関しては譲れないようで、要望というよりそうしろと断言している口ぶりであった。その意見にこの場にいるほとんどの人間が賛同している。
「……わかりました。それではこの魔道具はこちらに置いていきましょう。ただし、領主さんとこちらのギルドマスターにはその旨一筆したためて頂ければと思います。一応俺たちも依頼を受けてきているので、事件の鍵となる魔道具は置いてきました――では話になりませんので」
冒険者としてのヤマトの言い分も最もだと判断した領主はそれくらいならば問題ないと頷く。
「私も了解した。明日の朝までには依頼完了、そして魔道具の処遇についてまとめた書状を用意しよう」
そう言ったのは恐らくギルドマスターであろう人物。厳つい雰囲気ではあるが、リーダーシップのありそうな虎の獣人だ。腕組みをしながら大きく頷いて見せた。
「ざっくりとした話になってしまいましたが、今話したのが全てです。あとは、そちらの方で魔道具と現地の調査をして下さい」
爽やかに微笑んだヤマトは最後にそう締めくくり、立ち上がった。ぴょんと椅子から立ち上がったユイナも笑顔でヤマトのあとに続く。
「そ、それではこれで解散とします。領主様とギルドマスターは手紙の用意をお願いします。後程こちらに取りに来てもらえばいいですね」
話を終えたと去ろうとする彼らにラパンは無理やり話をまとめて、ヤマトたちのあとを追いかけた。頭を乱暴に掻いたキャティもそれに続く。
残された主要な人物たちはヤマトたちにまだまだ聞きたいことがあるような雰囲気はあったものの、事態の説明はほとんど済んでいるため、それからは魔道具と現地の調査についての話し合いに移行していった。
「お疲れ様です、司会ありがとうございました」
外に出るとヤマトが振り向いてラパンに礼を言う。その表情は優しさと労わりに満ちていた。
「い、いえっ、こちらこそ説明して頂きありがとうございました……」
「じゃあねー!」
ほんのりと顔を赤らめるラパンを見てむっとしたユイナは割り込むようにぎゅっとヤマトの腕にしがみついて、もう話は終わりといわんばかりにラパンと後ろにいるキャティに手を振っている。
二人の空気を呼んだラパンたちはそれ以上声をかけることはなく、去っていく彼らを見送った。
ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189
ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178
エクリプス:馬LV15
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