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第四十一話



 彼らの身体の何倍の大きさを持つ狂獣を目の前にヤマトは剣聖の剣を構える。このレベルの相手となっては、フレイムソードでは心もとないため、武器を切り替えた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 ヤマトたちを視界にとらえた狂獣の咆哮は二人には聴き取れない、しかし強力な魔力が込められたものだった。

 音波が強風を巻き起こし、彼らの身体にたたきつける。


「“ホーリープロテクション”」

 目を閉じて聖女の杖を手にしたユイナは闇のモンスターを相手にすることを考えて、自らとヤマトに聖属性の防御魔法をかけていく。祈りの込められた温かなオーラが守るように彼らを包み込む。


「ありがとう――いくよ!」

 気合を入れた表情になったヤマトは狂獣へと向かって走り出す。剣聖の剣には魔力が込められており、青色に光を放っていた。

「■■■■■■!」

 その剣を意にも介していないのか、ただ野生が強いだけなのか、それはわからなかったが狂獣は理性などないようにがむしゃらだが迷うことなく一直線にヤマトへと向かってきた。


「せい!」

 それに合わせてヤマトが剣聖の剣を振り下ろす。

 しかし、接触する寸前で狂獣は横にスライドし、巨体のわりに身軽な動きでヤマトを避ける。更にその足は止まらずに後ろにいるユイナを目指していた。


「くっ、ユイナ!」

「任せて! “ホーミングレイン”!」

 自分に向かってくる敵に恐れなど感じずにユイナは勇ましく矢を放つ。それも一矢ではなく、連続で十を超える矢を。


 一斉に向かうそれを、狂獣は素早いステップで避けていく。しかし、矢は避けられることを許さないと言わんばかりに狂獣を追尾していく。

「■■■!」

 執拗に追い続ける矢を更に素早い動きで全て避ける狂獣。


「すごいねー、結構レベル高いスキルなんだけどなあ」

 しかし、ユイナはそれを見ても慌てる様子はなかった。荒々しい足音を立てながら狂獣がユイナとの距離を詰める。そして、鋭く伸ばされた爪が振り下ろされ、彼女の目の前に爪が迫るかという瞬間、ばっと顔を上げたユイナが魔法を放つ。


「“ホーリーウォール”!」

 これは聖女が使える魔法の一つで、一撃だけダメージをゼロにするというものだった。次に詠唱可能になるまでの時間が五分と長いため、使いどころを見極める必要があったが、今がその時と判断したユイナは見事に狂獣の攻撃を防いだ。


「!?」

 ガキンと強く跳ね返される音と突然現れた障壁に狂獣は驚いて、動きを一瞬止めてしまう。

「――逃がすわけないだろう?」

 ユイナに攻撃が迫る間、ヤマトは狂獣のあとを追いかけており、攻撃がはじかれた瞬間にはすぐに後ろに迫っていた。


「“スーパーノヴァブレイブ”!」

 そしてファイブヘッドリザードドラゴンに使ったのと同じ技を狂獣に向けて勢いよく放つ。

 三百レベルを超えた相手にもダメージを与えたこの技は、例え狂獣といえでも無事ではすまない。


「……やった、のかな?」

 ヤマトがこのスキルを使用するのは予想できていたため、狂獣の一撃をホーリーウォールで防いだのち、ユイナは距離をとっている。遠くから見る限りでは周囲は土煙に覆われていて、どうなったのか判断はつかなかった。


「――まだだ!」

 それは攻撃を加えたヤマトの声だった。自身が放った技であるため、その手ごたえが完全でないことを一番よくわかっていた。


「“ウインド”!」

 土煙を晴らすために、ヤマトは初級の風の魔法を使う。初級と言えどヤマトが使えば突風へと変わり、周囲の土煙が一気に吹き飛ぶ。


「■■■」

 そこには聞き取れない声を発しながら、鼻息荒く狂獣が立っていた。

「あ、あれを受けてダメージなし!?」

 その姿にユイナが驚きの声をあげる。狂獣の皮膚は元より黒かったが、それが金属のように鈍く輝いており、硬質化していた。


「一気に防御力を上げるとはやるね」

 しかし、よく見ると完全に無傷というわけにはいかず、ところどころダメージを負っていた。

「■■■■■■■■■!」

 ダメージを与えたヤマトをぎろりと強く睨み付けると、狂獣は恨みを晴らすように口を大きく開き、噛みつこうとする。


 咬力は強そうだったが、単純にそれを許すヤマトではなかった。

「だからさ、そんな大きな隙を作っちゃダメだって!」

 呆れたようにヤマトは口目がけて、突きを放つ。いくら身体が硬質化していても口の中までは及んでいない。


 自らの手が牙などで傷つくのもいとわず、剣聖の剣で狂獣の身体を貫こうとする。

「わかってるよ、中は柔らかいんだろ? “エンシェントフレイム”!!」

 ニヤリと口元だけで笑ったヤマトは思いっきりぶっ放すつもりで古代魔法を狂獣の内側から放っていく。


 強力な剣を媒介に放たれたそれは、煮えたぎるマグマを炎にしたようなすさまじい烈火の猛攻。

 ファイブヘッドリザードドラゴンに使った時よりも強力なもので、狂獣を体内から飲み込むように焼き尽くしていった。


「ぐあああああ!」

 その時、苦しげな声をあげたのはヤマトだった。


 炎に関しては自らが放ったものであるため、被害を及ぼすことはなかった。声をあげた理由は、その状態にあっても生命力の強い狂獣は意識があり、最後の悪あがきと口を思い切り閉じてヤマトの腕に噛みついたためだった。


「まだ、生きてるのか……さすがしぶとい! “ハイウインドボルト”!」

 それでも剣聖の剣を手放さず、次なる魔法を放つ。未だ狂獣の体内にある剣を媒介に発動しているため、身体の中をハリケーン級の風が切り刻み、更に今にも爆発しそうなほど放電している黒々とした雷雲が身体の中に生まれている。


「いっけえええええ!」

 そして最大まで力をため込んだ雷雲が力を放つドカーンという音とともに、狂獣が内側から爆発した。さすがに雷が身体の中を暴れまわっては耐えることができず、背中に大きな穴をあけてそこから雷が逃げ、空に向かって一本の稲光が勢いよく登って行くのが見えた。



《クエスト:闇の狂獣討伐 達成しました》



「はあ……はあっ」

 崩れ倒れる狂獣の姿から目を離さないまま、ヤマトは息を乱し、負傷した右手を左手で押えている。その手には血塗られてはいたがしっかりと剣聖の剣があった。レベルアップの知らせが鳴っているが、怪我の方に意識がいっていた。


「――ヤマト!」

 そこへ急いでユイナが駆け寄ってすぐに回復魔法をかけていく。ヤマトの負傷具合に苦い表情をしながらも回復魔法の効果を上げるために範囲回復も使いながら処置していた。温かな白い光がヤマトを包み、少しずつ傷を治していく。


「ふう、結構痛いもんだね。こっちに来てから、こんな大きな怪我をしたのは初めてだから、ちょっと痛みに驚いたよ」

 回復魔法で痛みが和らいでいくが、さすがに腕を食いちぎられるかという勢いで噛まれた傷は酷く痛むようで、困ったように笑うヤマトは額に汗を浮かべていた。


「うん、ちょっと皮膚が破けて肉まで見えてたもんね。やっぱりダメージに関しては、ゲーム的なHPが減るというものじゃなくリアルに怪我をするみたい……」

 少しでもヤマトの怪我を早く治そうと、魔力を強めてユイナはそう口にする。怪我をするのは避けられないとわかってはいたが、大事な人が傷つく姿はあまり見たくないという気持ちが強いのだろう。


 自分の怪我を目視では確認してないヤマトだったが、ユイナの言葉から大きな怪我をするのはまずいなと、息を飲んだ。

「……はい、治ったよ!」

 にっこりと笑顔を見せたユイナがぱっと手を離すと、怪我をする前と変わらない自分の腕があった。それも傷一つない状態で。


 傷が癒えて心なしか疲れも和らいだヤマトは手を開いたり閉じたりして、感覚を確かめる。

「ありがとう、問題ないみたいだ。さて、魔法陣を確認に行こうか」

 その言葉にユイナが嬉しそうに頷いて返事とし、二人は狂獣が呼び出された魔法陣へと近づいて行った。



ヤマト:剣聖LV195、大魔導士LV189

ユイナ:弓聖LV192、聖女LV178

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

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