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第三十七話


 ヤマトとユイナは二人を連れて、小さな食堂へと入っていく。ゲーム時代にもあった食堂は奥に個室があることがわかっており、当然のごとくその個室に案内してもらうよう話す。


「――それで、解決のめどがたったっていうのは本当かい? 嘘や冗談だったら許さないよ?」

 大きな胸を持ち上げるように腕組みをしたキャティはヤマトとユイナをぎろりと睨みつけていた。それほどに、今回の一件を心の底から解決したいと願っているのが伝わってくる。


「あ、あの、ごめんなさい。キャティはその、本気で、その、仲間が……っ」

 だが二人に対してキツイ対応をして欲しくない気持ちとキャティの思いもわかっているラパンはそこでまで言うと、涙で続きを口にすることができなくなる。

「あぁ、もう、ラパンは辛気臭いよ! アレを何とかしようとした、昔の仲間が何人か死んだ。それだけのことだよ!」

 ふんっと鼻息荒く視線を逸らしながらそうぶちまけるキャティ、その目にもうっすらと涙が浮かんでいた。それだけ、と言いながらも深く傷ついているのは彼女もかわりないのだろう。


「キャティ、ラパン、俺たちは本気です。だから、話を聞かせて欲しいんです。あなたたちが知っている範囲で構いません。今回の一件で気になることや、気を付けたほうがいいこと、何でもいいから教えて下さい」

 感情をあらわにする二人に真剣な表情を崩さず、ヤマトは落ち着いた声で話す。決して冗談でも嘘でもなく、自分たちが解決する――その強い意志を込めて。


「うっ……わ、わかったよ。だから、そんな風に見るなよ! あたしが悪いみたいだろ……ほら、ラパンいつまでも泣いてないで話してやってよ」

 この期に及んでも、キャティは自分で説明するつもりはなく、誤魔化すように言いよどむとラパンにそれを任せることにする。


「うぅ……泣いてる私にそれをさせるって酷くない……?」

 それでも、キャティに言われて急いで涙を拭って泣き止んだラパンは姿勢を正して話し始める。


「……前に話したことも含まれますが、そこは最後まで聞いて下さい。まず、モンスターが増え始めたと報告があったのは2、3週間前あたりからです。最初は本当にいつもより多い気がする程度だった……モンスターが増えたことを本気にする人は少なかったです」

 そこで一息ついて、ラパンはテーブルにだされた水を一口飲む。


「続けます。そしてそれらはだんだん放置できなくなるほどに増えていきました。もちろん原因を探るため、モンスターが増えた最初の地点を私は調べてみました……正確な場所はわかりませんでしたが、恐らくは大平原の西のほうから増えたんだと思います。これは何人かの冒険者の証言から予想しました」

 そこまで調べていたことを知らなかったのだろうキャティは、真剣な表情で次々と語るラパンのことを口をポカーンと開けて見ていた。


「あんた、一体いつの間に……」

 そんな情報を集めていたのか? そんな疑問を口にするキャティだったが、それは今関係のない話であるため、首を横に一度振るとラパンはそれ以上返事することなく、ヤマトたちへの説明を続けることにする。


「次に、大平原に出現するモンスターですが、今回の件が起こる前は通常のゴブリンや、デビルウルフ、それからバードなどのモンスターが出る程度でした。ですが、今では明らかに上の個体であるモンスターが大量に生息しています」

 これがこの街の冒険者が打って出ることができない最大の理由だった。


 よその街で仕事をしていたことがあるキャティとラパンはある程度強く、上の個体相手にも戦えるが、レベルの低い冒険者たちにはどうこうできるレベルではなかった。


「なるほど、その西のほうってのが臭いね」

「うん、そっちに何か魔道具が設置されているのかもしれないね……そうだ、黒いオーラを纏ってるモンスターの話とかって聞いたことある?」

 ユイナは橋での戦いを思い出し、その時に現れたモンスターがここでも出てくるか気になっていた。


「うーん、私は見たことありませんが……」

「――いるよ」

 ラパンが答えている途中で、それにかぶせるようにキャティが答えた。その表情は真剣そのものだった。


「聞いたことがある、ではなくいる、ということですか?」

「あぁ、戦ったことがある――ってのは正確じゃないね。仲間と一緒に戦って、強すぎて手も足も出なかった。仲間はあたしだけをなんとか逃がそうとしてくれたんだ、みんな年上の戦士だったからね……」

 尻すぼみするように下がっていくキャティの声音に、今度はラパンが驚く番だった。


 それもそのはず、二人は知り合いだったが、元々は別々のパーティに所属していた。

 今回の件で仲間を失ったという共通点を持っていたため、一緒に行動することになったが、まさかキャティの命を救おうとして仲間が死んだとは思っていなかった。


「キャティ……」

「いいんだよ、本当のことだからね……。それにしてもあんなモンスター初めて見たよ。他の街で依頼を受けたことも何度もあるけど、それでも一度も見たことがない……」

 悲しげな雰囲気を漂わせている二人のその話を聞いて、ヤマトとユイナは確信する。


 ――今回の件も橋での一件と同じ犯人であるだろうことを。


「最後に一つ聞きますが、大平原に現れるモンスターでその黒いオーラを纏ったモンスターより強いやつっていますか?」

 ヤマトの質問を受けてキャティが少し考え込んだが、首を横に振ることで答えとした。


「なるほど、よしわかった。じゃユイナ、行くよ」

「はぁーい!」

 何か吹っ切れたようにスッキリとした表情の二人が急に立ち上がったため、キャティとラパンも慌てて立ち上がる。


「ちょ、ちょっとどこに行くんだよ!」

「そ、そうですよ! わかったって、どうするつもりですか!?」

 まさかと思ってはいるが、この二人はこれからすぐに動くつもりなのか? と動揺している。


「ちょっと、大平原のモンスターを片付けに」

「黒いオーラのモンスターを倒しに」

 笑顔でヤマトとユイナは別々の答えを口にしたが、結論として大平原に向かうことは変わらなかった。


 その答えを聞いて呆然とするキャティとラパンは引き留めることさえ忘れて、ヤマトたちの背中をそのまま見送ることになった。



ヤマト:剣聖LV180、大魔導士LV173

ユイナ:弓聖LV176、聖女LV161

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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