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第三十二話



 二人はボスを倒して静かになったフロアの端っこで座り込んで休憩をする。

「確か、ここのモンスターはフロアボスは討伐後二時間は復活しないはずだから少し休めるね」

「やっぱり格上のモンスターはきっついねえ」

 にっこりと笑いあって話す二人の周囲はもちろん、ミニマップにもモンスターの姿は無い。

 

 この洞窟は本来、もっとレベルが上がってから来る場所であり、この先も二人よりレベルの高いモンスターが多く生息する。少しの疲労も残さずに先に進もうとこうして休んでいたのだ。


「一層は普通にクリアしないとだからねえ。でも、レベルも上がったから戦いやすくなるね」

「うん! さっきのシルバーティーグルボスも倒すことができたから、結構いける気がする!」

 それは慢心とは違う、確かな確信だった。信頼し合う互いがいるからこその実力を存分に発揮した戦いは心地よさと自信が沸き立つものだった。


 レベル差がある相手でも多少苦戦はするものの、二人で協力していけば安全に倒すことができる。それは、ここから先に進むにあたっても確かな自信となっていた。


「そうだ、飲み物あるけど飲む?」

 ヤマトは先にリーガイアについた時に、いくつかの飲み物を購入してアイテムボックスにしまっていた。彼女が好きそうな飲み物をいくつか用意しており、その一つを差し出した。

「ほんと? 喉乾いてたから嬉しい!」

 それを受け取るユイナは、保存容器の蓋をあけるとぐびぐびと一気に飲み干していく。冷たい感覚が気分をしゃっきりとさせてくれた。


「ふう、俺も飲んでおこうかな。――それにしても、まだこっちに来てからそんなに経ってないんだよなあ……」

 色々な戦いがあったため、ヤマトは長い期間、この世界にいるような錯覚にとらわれていた。

「うーん、確かにこっちに来てからはそんなに経ってないけど、やっぱりゲームしてた頃の延長にある感じがするから余計に長く感じるのかもね」

 こてんと首を傾けて微笑むユイナの言葉に、ヤマトはふと考え込むような表情を見せる。


 ゲーム時代と今を比べると共通点は多いものの、別物であると考えていたヤマトには、ゲームの延長線上の世界にいると考えているユイナの言葉はある種、新鮮なものとして聞こえていた。


「そっかあ、言われてみればそんな感じは確かにあるかも。……でも、なんか色々と釈然としないんだよね。知っているNPCはいないし、確かにゲームの頃と同じ場所で、人も生活しているけど住んでいるのは全くの別人だけというか……」

 ヤマトの言葉でユイナはルフィナの街を改めて思い出す。雑用系の依頼ばかりをこなしていたユイナは、街の住民と知り合う機会が大きかった。それでも、思い返してもやはり知っているNPCはいなかった。


「うん、確かにヤマトの言うとおりかも。同じ場所だけど人が違う……歴史が違う、みたいな? でも、この洞窟の在り方とかは同じだし……うーん、なんかごちゃごちゃするー!」

 色々考えすぎて考えがまとまらないユイナはじたばたと座ったままもだえていた。


「――とにかく、進んでいくしかないね。橋での謎のクエストクリアのメッセージも気になるし」

 あれもゲーム時代にはなかったクエストであり、そもそもあれほど大量のモンスターが現れるような場所ではなかった。


「……この洞窟は大丈夫なのかな?」

 少し心配そうにユイナが呟く。


 二人はこの禁断の地へある目的をもってやってきていた。しかし、大小様々な部分で変化があるため、二人の目的が達成できない可能性もある。


「気にしてないって言えばうそになるけど、それでも気にし過ぎても仕方ないよ。ここまでやってきたんだから、とりあえず行ってみよう。ダメだとしてもレベル上げには持ってこいの場所だよ」


 そもそもこの禁断の地という場所は特殊なエリアだった。時間の経過が外とは少し異なるのだ。


「時間の流れも外より遅いのは同じみたいだ」

 ヤマトはシステムで表示される現在のゲーム内時間を確認し、それと同時に洞窟に入ってからの経過時間を表示して見比べている。


「なるほど、それは好都合だね!」

 実際、外の時間が一秒進む間に洞窟での時間は十秒進んでいた。これを使ってひたすらここでレベリングをする人がゲーム時代に多く見られた。


「さて、そろそろ行こうか。最下層(・・・)に」

「オッケー!」

 頷きあった二人は一層のボスエリアの出口へ向かうと、手前で足を止めた。





 本来の出口を通過すると、そのまま二層へと続く、くだり階段が姿を現す。

 しかし、扉に向かって右側に向かった場所に、わかりづらいが小さなボタンがあるのだ。


「よかった、この仕様は生きているみたいだ」

「やった!」


 この仕様を一番最初に見つけたのはユイナだった。通常であればボスを攻略したら、すぐに次のエリアに向かうか、引き返すのが通常だった。しかし、彼女はこのフロアを何の気なしに調べて歩いて回ったことがある。


 その時に発見したのがこのボタンだった。

「ユイナ、行くよ?」

「うん、覚悟はできてるよ!」

 真剣な表情で頷いたユイナを見たヤマトは、ポチッとボタンを押した。


 すると、二人の足元は突如としてパカッと口を開け、吸い込まれるように二人はそのまま落下していく。ヒューッと音をたてて落ちていく二人だが、風に吹かれながらも内心は穏やかではなかった。


「ねえ! ヤ、ヤマト! これ、今の私たちが落ちても無事でいられるのかな!?」

 ゲームでは落下ダメージは削除され、衝撃だけが伝わるシステムだった。

 だがゲームではないかもしれない今の自分たちだと、落下した衝撃で死んでしまう可能性もあるのではないかとユイナの顔はひきつっていた。


「い、今更それを言うの!? そのへんも含めて覚悟してるんだと思ってたよ!」

 ヤマトはこのタイミングで言うユイナに呆れていた。ちょっと抜けている彼女を見て困ったように笑うしかない。


「だ、だって! これ、これ、すごく勢い良すぎて怖いんだもん!!」

 思っていた以上の深さと吹き付ける風の勢いの強さに素直な感想が顔を青くしたユイナの口をついてでた。


「ったく……それにしたって今言わなくても――でも安心していいよ、方法は考えてるから! ほら、“ウインドウォール”!」

 苦笑しながらヤマトは落下している自分たちの足元に目がけて腕を突き出すと風の壁を作り出す。これは魔法的な壁であり、さらにヤマトが込めた魔力が小さいため、身体を受け止めるだけの力は持っていない。


「――わあっ!」

 しかし、風の壁を二人が通過した瞬間、落下速度が少し和らいだのを感じた。

 だがまだ地面は見えず、落ち続ける二人。


「ヤマト、すごいよ!」

「……“ウインドウォール”!」

 感動したように笑顔を見せるユイナだったが、ヤマトの表情には少し焦りが浮かんでいた。


「“ウインドウォール”!」

 ユイナの言葉に反応することなく、何故か次々に風の壁を作り出していくヤマト。何度も重ねることでじわりじわりと速度が落ちているように感じられた。


「ね、ねえヤマト、どうしたの?」

 いつもはちゃんと顔を見て話してくれるはずのヤマトが自身へと全く視線を送らず、ただただ焦っている彼を見てユイナは不安になる。


「い、いや、その、思ってたよりこの穴が深いから落下の勢いが弱まらなかったみたいなんだ……“ウインドウォール”!」

 困ったような表情で言いづらいことを口にしたヤマトは、必死の形相で下を向くと風の壁を作り続けていた。


 それは常人より多い魔力を持っているはずのヤマトの魔力がゼロになるまで続けられた。そのおかげで穴の底に辿りつく頃には落下速度もかなり緩まり、二人はふわりと着地することができた。


「えっと……その、お疲れ様です」

 無事に着地できてほっとしながらもユイナは隣のヤマトの疲労っぷりに思わず困ったように笑ってしまう。魔力が切れたヤマトはゼーゼーと息を乱したまま、なんとか手をあげて返事の代わりとしていた。


ヤマト:剣士LV45、魔術士LV38

ユイナ:弓士LV41、回復士LV26

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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