第三十一話
「ユイナ!」
「ヤマト!」
互いの意思を確認するように二人は声をかけあうとそれぞれ動き始める。
まず動いたのはヤマト――メインが近接職である彼は右手に剣を持ち、シルバーティーグルボスへと向かって行った。
「“トリプルバレット”!」
ヤマトは走りながら魔法を放つ。これは先ほどまで使っていた、氷、炎、風の三種の弾丸魔法を組み合わせたものだった。ぐるぐると弾丸が絡み合うように飛び出していき、シルバーティーグルボスに迫る。
「ガアオオオオオ!」
しかし、けたたましいボスの咆哮によって弾丸魔法は勢いを削がれ、ボスに届く前に地面に落ちていた。
「おぉ、すっごいなあ。魔力を持った咆哮かあ」
咆哮の余波の風をその身に受けながら、ヤマトは自分の魔法を防がれたにも関わらず、それを見て高揚感から自然と笑みが浮かんでいた。
「――なかなか面白い相手だ」
そう口にしながら真剣な表情に切り替えたヤマトは距離を詰めていく。
それに対してボスは再度口を大きくあけていた。今度も同じように咆哮を放ってくるのかと思ったが、口の中が力をため込むように光っていることに気づいて、ヤマトは素早く横に移動してそれを避けようとする。
「ガオオオオオッ!」
次の瞬間、先ほどまでヤマトが走っていた場所をかなりの大きさを持った炎のブレスが勢いよく通り過ぎていく。
「危ない危ない、あれをくらってたらやばかったな」
対して驚いてもいない様子でヤマトはブレスの威力を確認しながら、再度ボスに向かって素早く走り出す。
「さあ、今度はどうくる?」
わくわくした表情からも伝わってくるが、ヤマトは戦闘を心から楽しんでいる。その様子がボスにとっては異様なものに映ったらしく、やや怯んだ様子を見せていた。
「来ないなら、いくぞ!」
相手が警戒しているのを察したヤマトは一気に距離を詰め、あと数歩で剣が届く位置まで来たところでレイムソードを振り上げて、勢いよくボスへと斬りかかる。
先ほど強力なブレスを放ったため、シルバーティーグルボスが同じ攻撃をするにはクールタイムが必要だった。すぐ再び使うことはできないブレスを警戒せずに、ヤマトはフレイムソードを振り下ろした。
だが相手とて黙って攻撃を受けるわけではない。そこに向かって、ボスは咆哮を放ってくる。ブレスはまだ使うことはできなかったが、ヤマトの弾丸魔法を止めたこちらは使用可能になっていたからだ。
「ぐっ……」
それをヤマトは直撃してしまう。ただ大きな声を出しているだけでなく、魔力を込めた咆哮に彼は体力がゴリゴリと削られていくのを感じる。
しかし、これを受けたはずのヤマトはにやりと笑っていた。
「――今だ!」
その声を待っていたユイナは後方で弓を構え、いつでも矢を放てるように準備をしていた。攻撃を受けたヤマトが心配になっていないわけはないが、耐えられるからこそ彼は前にいるのだ。それを信じてユイナは時を待っていた。
「“ダブルファストショット”!」
勇ましい彼女の声とともに目にもとまらぬ速さで放たれた矢が一直線にボスへと向かっていく。咆哮を放っているボスの硬直時間を狙ったものだった。
「ガ、ガアアア」
それに気づいたボスはすぐに身体を動かそうとするが、ユイナの矢が届くのが早い。
ユイナが放った矢はボスの両目に深く突き刺さっている。
ダブルファストショット――つまり二本の矢が、それも目にもとまらぬ速度で標的へと向かう技であり、見事に一度のスキル発動で見事にボスの両目を貫いていた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
急に視界を奪われたボスは大きな声をあげて、その場でのたうちまわる。何も見えなくなった恐怖、そして次に来た今まで感じたことのないほどの痛み。これは混乱に陥らせるだけの効果を十分に持っていた。
また、それはヤマトにとって大きなチャンスとなる。
「せいっ!」
今度こそと思い切り振り下ろした剣はボスの頭部に振り下ろされた。だがヤマトの攻撃はこれに留まらない。
「――燃えろ!!」
彼の魔力に応えるように頭に突き刺さった剣は大きく炎を吐き出す。それはドラゴンの炎さながらだ。
「ガアアアアアアアアアア!」
内側から焼けていく感覚にもだえ苦しむシルバーティーグルボス。
暴れるボスを避けるように剣を引き抜いたヤマトは次の魔法の準備に入りつつも、立ち位置を横にずらし、更にボスから距離をとる。
「“トリプルバレット”!」
そして先ほど咆哮によって撃ち落とされてしまった魔法を再度放った。それとタイミングを合わせて、追い風になるようにユイナも矢を放っていく。
「“レインアロー”!」
ここにきて新しく覚えたスキルをユイナは発動する。これは名前のとおり、矢を雨のように放つものであり、一度のスキル発動で無数の矢が上空からボスへと突き刺さっていく。
徐々に体力を削られ、自身の終わりを感じ始めたシルバーティーグルボスは初めての経験に恐れと怒りを覚える。
二人は魔法とスキルを休まずに続けて放っていく。レベル差があるため、一撃で止めをさすことは難しい。
であるならば、手数で勝負するしかないと間をあけずにありったけの攻撃を休む間もなく加えていく。
「“ファイアボール”! “アイスボール”!」
「“ファストショット”! “バーストショット”!」
ヤマトにいたっては、相反する属性の魔法を連続で使ってしまうほどには戦うことにのめりこんでいた。合間にフレイムソードによる剣技を入れ、強い敵と戦う高揚感と緊張感を楽しんでいた。
反対にユイナは走り回りながら自分が持つスキルを駆使して、ヤマトの攻撃に少しの間もできないようにと援護するように攻撃を組み合わせていた。
時間にすれば、たった五分ほどであったが、その間二人の猛攻を受け続けたボスは次々に襲う痛みしか考えられなくなり、息荒くゴロゴロとのたうち回ったかと思うと、ついにその動きを止める。
「やった……」
「よね?」
ヤマトがこぼした言葉にユイナは疑問の語尾を付け足す。まだ二人は武器を下ろすことはしない。
ピクリとも動かなくなったボスへと軽快しながら近寄る二人。先にシルバーティーグルボスへと近づいたヤマトが剣先でつつくが、それでも動かないため、ボスの討伐を確信する。
それと同時に二人の頭にメッセージが流れる。
《禁断の地 一層を攻略しました》
実際のところボスモンスターは、ヤマトが剣でつつくまで虫の息という状態だった。そして幸か不幸か、剣でつついたことで、追い打ちをかけたようでボスの息の根を止めることとなった。
「倒せた……」
心地よい達成感に包まれた二人。それと同時にレベルアップのメッセージが次々と流れていた。
ヤマト:剣士LV45、魔術士LV38
ユイナ:弓士LV41、回復士LV26
エクリプス:馬LV15
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