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第二十九話



 キャティとラパンが喧嘩しているなか、ヤマトとユイナはその他の客から今回の件について情報を集めていた。止めようにも血が上っている二人に話は通じず、次第にじゃれ合いにも似たものになっていたことからそうすることにしたのだ。


 色々聞いて回ってみたが、モンスターが増え始めた時期についてはおおよそずれがなく、二、三週間前というのはほとんどの冒険者が口にするものだった。


「――やっぱり、あれだよね」

「うん」

 ちょうど二人がこの世界にやってきたのが二、三週間前であり、おそらくそれがきっかけになっているというのが二人の結論だった。


「キャティ、ラパン、色々教えてくれてありがとう。俺たちはもう行くよ」

 ヤマトとユイナは今回の一件をなんとかするために、すぐにでも動かなくてはならないと考えていた。自分たちが来た時期と重なるのならきっと解決するのも自分たちなのではないかと。


「……えっ? ど、どこに行くんですか?」

 二人はいつの間にか落ち着いたのか元のテーブルに戻っており、仲良く飲み直していた。周囲の野次馬も自分たちのテーブルに戻って賭けの話をしながら飲み直しているようだ。


「はい、色々と話を聞けましたし、さすがに今のままじゃ解決するのは難しいってわかりました。だからその前にやっておかないといけないことがあるんです」

 何をすればいいか決めたヤマトの顔には迷いはなかった。


「そうなの! キャティとラパン、ありがとうね。私たちにしかできないことをやりに行ってくるよ」

 いたずらっぽく笑ったユイナは軽い調子で二人に声をかける。

 二人の決意を秘めた表情はキャティとラパンを無言にするだけの力を持っていた。すっかり酔いも醒めたのかじっとふたりをみているだけだった。


「よし、ユイナ行くぞ」

「りょーかいっ!」

 微笑みながら頷きあったヤマトとユイナは、キャティたちに背を向けて酒場を出て行った。





「あの二人には悪いことしちゃったかなぁ……せっかく色々教えてくれたのに、置いて出ていくことになっちゃったよ」

 せっかく仲良くなれると思っていた彼女たちと別れることに少しの名残惜しさを、そしてこれから向かう先への不安とワクワク感、ユイナはそれらを同時に胸に抱いていた。


「あのモンスターたちを何とかしないことには彼女たちも危険だからね。きっとこれは、俺たちにしかできないことだよ」

 すでに気持ちは大平原のモンスターたちにあるヤマトは謎の使命感を持っていた。これまで曖昧だった自分たちの立ち位置が分かったような気がして、気持ちが固まったのだろう。


「うん、わかるよ。なんだろ、私たちがこの世界に来た理由……みたいな。根拠はないけど、なんかそんな風な気持ちは私も感じてる――うん、行こう!」

 いつかまたキャティとラパンと楽しく過ごせるためにも頑張らなければとユイナもヤマト同様、心に強い気持ちを持っていた。



 ――この街を救うのは自分たちだ!



 そんな思いを抱えた二人が向かったのは、アニマ族の街ザイガをさらに北に抜けた場所。

 いまモンスターがはびこる大平原は元々彼らアニマ族の聖地と呼ばれていたが、それとは反対に禁断の地と呼ばれている洞窟に二人は向かっていく。


「ねえ、入り口はどうしよう?」

「うーん、方法はいくつか考えてるけどとりあえず行ってみてかな」

 本来であればクエストを進めていき、各国の許可を得た上で入ることになる場所。しかし、今回はそのステップを飛ばして向かうつもりだった。


 道中のモンスターはLV20前後のモンスターがちらほらいるだけで、余裕を持って回避して先に進めた。


 目的地に近づくにつれて、二人は無言になっていく。それは、禁断の地を守っているであろう兵士に自分たちが近寄っているということを気取られないように静かにしていたのだ。


 周囲に警戒しながら数十分ほど歩いたところで目的地が見えてくる。


「……あそこだね」

 ひそひそとユイナは声をひそめている。

「……あぁ」

 二人の視線の先には洞窟の入り口、そしてその入り口を守る衛兵二人の姿があった。


「どうしよう?」

「これを使って……」

 何か考えのある顔をしたヤマトが取り出したのは、エクリプスを呼びだすためのホイッスルだった。


 高らかなピーという音とともに遠くからエクリプスの走ってくる音が聞こえてくる。彼はヤマトの方に来ると見せかけてそのまま禁断の地の入口へと向かっていった。

「――馬くん!」

「……しっ!」

 危ないというように思わず声をあげるユイナのことを後ろから口を押えてヤマトが止める。


 エクリプスは呼び出されたと同時にヤマトの考えを理解して、洞窟の前で暴れまわっていた。

「お、おい! お前どこの馬だ!」

「くそっ! 捕まえろ!」

 ずっと静かだった禁断の地の入り口でこのようなトラブルが起こることは珍しいことだった。洞窟の前で暴れていたエクリプスは衛兵が追いかけてくるのを感じると彼らを引き連れるように奥へ移動する。

 衛兵二人は慌ててエクリプスのあとを追いかけて行った。


「さて、これで誰の邪魔もなくいくことができるね」

「ねえ、ヤマト……最初っからこれ考えてたんでしょ?」

 賢く立ち回ってくれたエクリプスに感謝するように優しく笑ったヤマトは彼女から手を放すと立ち上がる。この考えを黙っていたことにユイナは不満そうな表情になっていた。


「ま、まあね。でも、ほら見張りがいなかったらこの作戦使わなくてもいいかなあなんて……その、ごめんなさい」

 わざと明るい口調で言い訳をしようとしたヤマトだったが、その瞬間、ユイナがすっと目を細めたため、一転、素直に謝ることにした。


「素直に謝るならよろしい――ふふっ、それじゃいこう!」

 ぱっとユイナの機嫌は一瞬でなおり、二人は禁断の地へと足を踏み入れることにする。





 ぽっかりと開いた先の見えにくい薄暗い洞窟。禁断の地と呼ばれるだけあってどこかおどろおどろしい雰囲気が内部から漂っているように感じられる。


 ――禁断の地。

 なぜこの洞窟がそのように呼ばれているのか? それは、アニマ族の成り立ちに関わっている。


 アニマ族は、そもそもは虎やウサギや猫、犬という風に皆ただの動物であった。しかし、動物たちはただ人に使役されることに不満を持っていた。その動物たちがある魔族の誘いに乗ることにする。それは、魔人の実を口にすることで人のごとき力を得ることができるというものだった。


 自分たちが人のように生きていける――それを聞いた動物たちは二つ返事でそれを受け入れることにする、ただ一種を除いて。


 それはトカゲだった。当時のトカゲの長は魔族の誘いに乗ること、怪しい力を手にすることを止める。なにかきっと問題があるはずだと訴え続けた。


 その行動は人に対する鬱憤が溜まっていた他の動物たちの不満を買い、この洞窟の中で罠に嵌められたトカゲの長は彼らに無残にも殺されることになってしまう。そして、さらに動物たちは見せしめにと長に付き従うトカゲたちを次々と長同様、この洞窟で殺していった。


 この話はアニマ族にとって汚点。だがこのことがあったから今の自分たちがいるという真実でもあった。この話を知っているのは、今では各国の王族やアニマ族の一部の者のみとなっている。


「なんて、伝説があるだけあってやっぱり不気味な洞窟だよね」

「うぅ、怖いよう……それであれでしょ? そのトカゲの長が今でも恨みや怒りの念をもって最深部にいるっていう……」

 二人はゲームでこのあたりのストーリーを経験しているため、ここの最深部に何がいるのかわかっていた。ヤマトを先頭に薄暗い洞窟を進む二人。そして、ソレに会うところまでたどり着くのが彼らの目的だった。



ヤマト:剣士LV39、魔術士LV30

ユイナ:弓士LV34、回復士LV20

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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