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第二話

「ここは……デザルガの近くか」

 転移魔法の発動が終了し、ヤマトは飛ばされた先で周囲を確認する。つとめて冷静を保つように。気を張り詰めていないと別れ際に自分の名を呼ぶユイナの悲しい顔が焼き付いて離れない。


「まずはユイナと連絡を取らないと。個人通話……できない、メッセージ……送れない、くそっ!」

 どんなに冷静でいようと心で決めても、一番愛しい存在であるユイナの安否がわからないことで自然と苛立ちが強くなっていく。普段冷静さを欠かない穏やかなヤマトが唯一心を乱す存在が妻であるユイナだった。


「なにか、なにかないか……」

 苛立ちながらもなんとか気持ちを落ち着かせ、何か手がないか探していく。

 すると、視界の端が何かを知らせるように点滅するのが見えた。


「そうか! ――ユイナ!」

『ヤマト!? よかった、聞こえた……!』

 ユイナが先に気づいて通話を送ったようだ。少し震えた不安げな声が聞こえてくる。

 

 これはゲーム内で結婚式をあげた際に二人がもらった結婚指輪に搭載されている夫婦間通話機能だった。


「指輪の通話機能は思いつかなかったよ。さすがユイナだね!」

『ふっふーん! ……でも無事でよかったあ。ヤマトの声聞けて安心したよぉ……』

 通話の向こうでユイナが心から安堵しているのが伝わってきた。ようやく彼女の声が聞けてヤマトも安心したのか、力が抜けてその場にドサリと座り込んだ。


「俺も安心したよ……。こっちはデザルガの近くに飛ばされたみたいだ。レベルとかアイテムは……やっぱり初期に戻されてるね。持っているのは、この結婚指輪だけみたい」

 ヤマトは改めてメニューを開きながら気づいたことを口にする。


『レベルとアイテムに関してはこっちも同じだよ。飛ばされたのはルフィナの近くだけどね』 

 それぞれがゲーム開始時に選択していた初期武器、その武器を司るギルドがある街の近辺に飛ばされていた。


「それにしてもあれだけ集めた装備とレベルが全部リセットされてるなんて……それにログアウトボタンがメニューから消えてるみたいだ」

 ヤマトは自分がこれまでに長年積み上げたものがなくなったことに落胆している。

『それ! ……もう本当に何があったんだろ? ――ねえ、ヤマト……私たち、帰れるよね?』

 状況を理解しだしたものの、どうなるか分からないことでユイナは不安そうにヤマトに尋ねる。


「ユイナ……大丈夫! きっとなんとかなるよ! 今はとにかく自分たちの状況確認と、再会を優先しよう!」

 彼女の不安を感じ取ったヤマトは自分にも言い聞かすように少し大きな声でユイナに言葉をかける。

『っ……そうだね! でもやっぱり早くヤマトに会いたいよ……』

 わけのわからない状況で一人きりであることに、ユイナは心細くなっていた。泣きそうな声でヤマトに呼びかける。


「うん、俺も早く会いたいよ……だから、まずはレベルを上げよう。レベル一の今の状況はまずいからね。モンスターはもちろんだけど、誰かに絡まれてもまずいからね」

 誰かに、ヤマトがそう言ったところで、ユイナが飛ばされて最初に気になったことを思い出す。


「そうだ、ユイナ気づいてるかい? ここはエンピリアルオンラインと違うみたいだよ」

『えっ、それってどういう……?』

 ヤマトが言ったことをユイナは理解できず、通話の向こうで首を傾げている。


「ユイナ、メニューを閉じて周りを確認してみて」

 説明するよりも見てもらうのが早いと考えたヤマトは、気づいてもらうためにあたりを見てもらうことにする。


『周りって……あれ? なにか、違う?』

 ユイナは周囲を、そして自分自身の身体を促されるまま確認してその変化に驚いていた。


『――ヤマト!』

「うん、なんかね、ゲームじゃないみたいなんだよね。感覚がちゃんとあるし、草も土も本物みたいなんだ」

 そう言ってヤマトは座り込んだ地面にそっと触れると、指に土汚れが残る。ゲーム時代にはこんなことはなかった。


『なんでこんなことに……』

「ゲームの世界に閉じ込められたことで感覚がリアルになったのか、もしくはゲームに似た世界に飛ばされたのか……どっちかなのかもしれない」

 慌ててユイナと連絡を取る方法を探していたヤマトだったが、それでも周囲の確認を怠っていなかった。


『じゃあ、もしかしたら』

「うん、復活できると思っていると危険かもしれないよ」

 そう言ったヤマトは真剣さを表すように少し声のトーンを落としていた。


「だから、やっぱりレベルを上げないと。そして装備を揃えないと」

 自分たちが置かれた状況は、ゲームのプレイヤーではなくこの世界の一人の住人と考えた場合、どんなトラブルに巻き込まれるかわからない。


『……そう、だね。――うん、レベル上げの方法は色々あるから頑張ろう! 私は差し当たって冒険者ギルド登録かなっ』

 冒険者ギルドとは、登録することで様々な依頼を受けることができる。ただモンスターと戦うよりも効率のいい経験値稼ぎ、それとともに金策もできるためユイナはこの方法を選択する。


「俺は……うん、俺も何か考えてみるよ。とりあえずスタート時にもらえる金は入ってるみたいだから、回復アイテムは買っておこう」

 この世界ので流通する通貨は金貨のみ。金色にコーティングされた硬貨であり、実際に金でできているわけではない。


 さすがに無一文で放り出されてどうしていいか分からなくならないように、いくばくかのお金がスタート時に全プレイヤーに配布されるのだ。


 ヤマトは空中に透明に浮かぶメニュー画面の所持金の欄をタッチするように指で触れる。

「カードはこっちでも有効なんだね」

 手にしているのは一枚のカード。マネーカードと呼ばれるそれは、一人一人のプレイヤー、また設定上ではNPCも全員が持っている固有のカードであり、大量の硬貨を持ち歩かなくてもよいようにそれを使って支払いを行うことになる。


『少しでも資金があるのは助かるよね。まずは回復アイテム、それから装備を優先的にって感じかな?』

「うん、他の通話機能が軒並み使えないことを考えると恐らく通話してる人はいないだろうから、この先は緊急時と、宿とか安全な場所でだけ通話するようにしよう」

 外から見ると独り言をぶつぶつ呟いているように見えるため、ヤマトはそれを不審に思われないよう考えていた。


『りょーかい! それじゃ、宿か何かあった時に通話しようねっ』

 元気よく答えたユイナもその意見に賛成だった。


「それじゃ、またあとで」

『はーいっ』

 通話を終了すると、それぞれが行動を開始する。

 冒険者登録のため、ユイナはルフィナの街へ向かうことにしたようだ。


「――ユイナ、俺は最短を目指すよ」

 しかし、祈るように指輪に顔を寄せたあと、ヤマトは決意を秘めた表情で立ち上がると、デザルガの街に向かうことなく、南に進んでいた……。


ヤマト:剣士LV1

ユイナ:弓士LV1


マネーカード

 世界の全ての住人が持っているカードで自分の意思で出し入れ自在

 金貨のやりとりをする際に使うカード

 カードから金貨を取り出すことも可能。

 その際、一定枚数以上であれば小袋に入って取り出される。



お読みいただきありがとうございます。


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