第二十八話
平原をあとにした四人はアニマ族の住む武の街ザイガへたどり着く。
街は大平原のモンスターたちのせいかヤマトたちのゲーム時代の記憶の様子よりは静かだったが、引きこもって暮らしている様子はなく、建物に野性味のある街並みが広がっていた。
キャティとラパンの二人とともにいることで特にヤマトたちを足止めされるようなこともない。
街行く人と軽く挨拶を交わしながら先を歩く彼女らは食事のできる酒場へと案内してくれた。酒場は喧騒に包まれ、様々な特徴を持つ獣人たちがそれぞれ楽しい時間を過ごしているようだった。
「ふう、まずは乾杯だ!」
四人の前にはキャティが入るなり注文したエールが人数分、どんとテーブルにおかれていた。
「すいません、ずっと外で哨戒をしていたのでこれくらいは許してあげて下さい」
ラパンはヤマトたちにぺこぺこと謝罪しながらもちゃっかり自分用のジョッキを手にしていた。
「いいねいいね! こっちに来てお酒飲むの初めてだよー!」
「まあ、俺も興味はあるかな」
ゲーム時代にもお酒はあったがどんな味かまでは再現されないため、初めて味わうこの世界のお酒に興味津々なヤマトとユイナもジョッキを手にして持ち上げる。
「「「「かんぱーい!」」」」
声を揃えてジョッキを鳴らした四人はエールを勢いよくぐびぐびとあおっていく。大人しそうに見えたラパンも綺麗な飲み方だがその進み具合は酒豪さながらだ。
「――ぷはーっ! 美味い! あんたたちもいけるくちだね!」
キャティは、ヤマトとユイナも一気に半分まで飲んだのをみて二カッと笑って喜んでいた。
「ふー、こっちの酒も美味しいね」
「うん!」
ヤマトの感想ににっこりと笑顔でユイナも頷いていた。
「そうかそうか、そいつは良かったよ!」
「ふふっ、ここのお店はおつまみも美味しいので楽しみにしていて下さいね」
ヤマトたちの反応を見て、勧めてよかったと安心したように二人も笑顔になっていた。
「あの、それで早速この街と大平原の状況について聞きたいんですが……」
酒を楽しんでいるところに、この話をするのは無粋かとも思ったが今回の本題がこれであるため、静かにジョッキを置いたヤマトは意を決して二人に質問する。
「……ラパン、説明してやってちょうだい」
説明下手というのと、今回の問題に関してあまり良い思い出がないため、表情を暗くしたキャティは黙って酒を飲んでいた。
「わかった。――それでは私が説明しますね。まず大平原に関しては一、二週間前くらいからあの状況が始まりました。最初はモンスターが増えてきたなあ……程度だったんですけど、いつの日か放っておける数ではなくなり、討伐依頼がギルドから公布された時には既に時遅く……」
あの惨状に至る、というわけだった。話を引き継いだラパンも状況を語りがなら悲痛な面持ちだ。
「それで、ランレンさんの話だと街にも被害が出始めたとのことでしたが……」
今回ヤマトたちが受けた依頼に関する情報を引き出そうと、気遣うような声音で二人へと質問する。
「あぁ、まあ大量にってわけじゃないんだけど……平原のモンスターの数がどんどん増えていて、徐々に活動範囲が広がってきているんだよ」
これはキャティが回答する。あらたまっての説明でなければ問題なく話すことができたようだ。
「なるほど、確かにこれは早々になんとかしないとまずいね」
「うん、今でも相当な量なのに街にくるくらい溢れたら、本当に手遅れになっちゃうよ!」
互いに顔を見合わせたヤマトとユイナがそう言って頷きあうと立ち上がる。
しかし、その様子を見てキャティとラパンは困惑していた。
「なんとかするって……あんたたちに一体何ができるっていうんだい? あれを見ただろ。一人二人増えたところでどうにかなる事態じゃないんだよ! だから、ランレンにはリーガイアの騎士隊や冒険者集団を連れてくるように言い聞かせたんだ……それなのに!」
やってきたのは、ダイブクレインに追いかけられていた冒険者が二人。
思うようにならない現実に苛立ち、思わず大きな声をあげてしまったキャティだったが、それを謝るつもりはないらしくふてくされた顔で口をつぐむと残っていたエールを乱暴に飲み干し、追加を注文する。
「あ、あの、ごめんなさい。キャティは普段はこんな怒りっぽくないんですけど、その、この状況に苛立っていて……」
「っラパン! あんただって思ってるんだろ! こんな二人が来たところで、なんの役にもたたないってさ!」
申し訳なさそうな表情でなんとか場をおさめようとするラパンのことを苛立つキャティがガンと空になったジョッキを机にたたきつけながらどなりつけた。
「……そ、そんな言い方しなくてもいいでしょ!? 確かに私だって二人のことを頼りないなって思ったり、解決は遠いって思ってるけど、それでもせっかく来てくれた人をそんな言い方しなくたっていいじゃない!」
いつの間にかラパンのジョッキも空になっており、そして新しいジョッキが握られていた。
「あ、もしかしてこの二人」
「そうかも」
最初はぐいぐいと飲んでいたため、お酒に強いタイプなのだろうと思ったが、よく見てみると二人の顔はほんのりと赤くなっている。
どうやら二人は悪酔いするタイプらしく、そこからは取っ組み合いの喧嘩が始まってしまった。
慌てたようにヤマトとユイナは立ち上がり、テーブルを移動して喧嘩中の二人がぶつからないように配慮する。周囲の客たちもこのようなケンカには慣れているらしく、いつの間にか中央に広いエリアができていた。
「いいぞやれやれー!」
「でかい姉ちゃんがんばれぇ!」
「ちっこいほうも負けるなーっ!」
酔いも回っていることもあってか野次馬は二人の喧嘩を煽るように盛り上がっており、中には賭けを始める者まで現れていた。
「……ふう、やれやれ今日も始まっちまったか」
ヤマトたちの側で呆れた表情で頭を掻きながらつぶやいたのはこの店の店主だった。呆れたような表情で見ているが慣れているのか心配する様子はない。
「も、っていうことは良くあるんですか?」
話しかけられたと判断したヤマトが店主に問いかける。
「あぁ、ここ最近毎日だ。おかげでうちは壊れてもいいように安いテーブルや椅子を仕入れるしまつだ。ジョッキばっかりはあれだが食器もほれ、割れないような素材でできてるだろ?」
乾いた笑いを浮かべる店主の言うとおり、全てプラスティックのような素材でできていた。
「――やっぱりアレが原因ですかね?」
「あぁ、あれだけのモンスターがあそこにいたら戦いに慣れてない俺たちはうかつに街からでることができないからな。アニマ族の俺らからしたらそれだけでかなりのストレスだし、あそこのモンスターどもに仲間をやられたやつも少なくない」
悔しそうに語る店主の言葉を聞いたヤマトとユイナは、決意をあらたにする。
「ユイナ」
「うんっ」
「「絶対解決しよう!」」
ヤマト:剣士LV39、魔術士LV30
ユイナ:弓士LV34、回復士LV20
エクリプス:馬LV15
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