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第二十七話


「ふう、これでしばらくはこっちには来ないはずだよ!」

 二カッと笑った牛の獣人が重量のある斧を地面にドスンと下ろして口にしたその言葉は確信を持っているような口ぶりだった。彼女の言うとおり、モンスターたちは未だ草原にいるが一定の距離からは近づいてくる気配はない。

 ウサギの獣人の彼女が返事代わりにこくりと静かに頷いている。


「えっと、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 一息ついたヤマトとユイナは助けてくれた獣人二人組へと笑顔で礼の言葉を述べた。


「ん? あぁ、戻ってきたのかい。街に来るみたいだったから思わず助けたけど、あんたたち一体何者だい?」

 振り返った牛の獣人はじっと見つめながらヤマトとユイナに質問をしてくる。普通の冒険者であれば、大平原の惨状を見てザイガの街に向かおうとは思わないため、この質問は当然のものだった。

 ウサギの獣人の女性も牛の獣人の彼女のそばで黙って見ているが、警戒している様子がわかる。


「俺の名前はヤマト、彼女の名前はユイナ。二人とも冒険者で、リーガイアで依頼を受けて来ました。街の状況はランレンさんから聞いています」

 その言葉に二人の表情は一瞬明るくなるが、すぐに眉根をひそめる。


「……あたしの名前はキャティ。あー、あいつが無事だったのは喜ばしいことなんだが、それで派遣されたのがあんたら二人だけなのかい?」

「私の名前はラパンです。あの、このあと援軍が来るんですよね? お二人は先発部隊みたいな」

 牛の獣人キャティは胡散臭いものを見るような表情で、ウサギの獣人ラパンは一縷の望みにかけたかのような表情で質問してくる。


 二人が自分たちに対してどんなことを思っているか想像できたヤマトは申し訳なさそうな表情で彼女たちの質問に答える。

「その……申し訳ないんですが、とりあえずここに来るよう依頼を受けたのは俺たち二人だけです」

 この回答は二人が望んだものではなかったため、キャティもラパンも揃ってがっくりと肩を落としていた。


 先ほどの醜態を考えればそれも仕方ないなとヤマトは思っていた。しかし、ユイナはその態度に不満を持っているようだった。

「もー! そんな顔をしないの! たった二人だけど、それでも二人も戦力が増えたんだからそこから何か突破口が見つかるかもしれないでしょ?」

 ユイナは自分たちの実力を疑われたことよりも、二人の絶望的な表情に不満があった。


「できると思ってやらないとできない、解決できると思って望まないと解決できない! by ユイナ!」

 ふんと腰に手を当てたユイナは自分で考えた名言じみたものをキリッと決めた顔をしてここで披露した。


「あ、あぁ、そうだな」

「は、はい……」

 圧倒するほどのユイナの激励に二人は少しリアクションに困っているようだった。


「……さっき助けられたところから考えると頼りないかもしれませんが、それでもそれなりに腕には自信がありますし、リーガイアのギルドマスターが信頼して俺たちを派遣してくれたんです」

 グタールはまさか自分の名前がこんなところで使われているとは思ってもみないだろうが、ヤマトは自身の言葉に説得力を持たせるために利用させてもらった。


「はあ、あそこのギルドマスターがねえ。結構やり手だって聞くけど」

「うん、人見る目に間違いはないって聞いたこと、ある」

 グタールの名前を聞いた二人の反応を見て、ヤマトは説得できたと内心でガッツポーズをとっていた。


「それで、あんたたちは何ができるんだい? 腕に自信があると言ったけど、さっきのあれを見る限りこの状況をなんとかするのはちょっと難しいんじゃないかい?」

 肩をすくめるように話を振ったキャティはいくらギルドマスターのお墨付きといっても、まだ二人の実力を疑っていた。


「うーん、とりあえずは色々と状況を把握したいですね。それと、ザイガの街でやっておきたいことも色々とあります」

 真剣な表情で語るヤマトの言葉にユイナも何度も頷いていた。

 これはキャティの質問に対する答えにはなっていなかったが、それでも二人に何か考えがあることはキャティに伝わっていた。


 そして、そのキャティの袖をくいくいとラパンが引いていた。

「ん、なんだい?」

「あの、二人とも危険な中、来てくれたんだから……あんまり責めるような質問は良くないと思うの」

 その言葉尻は遠慮がちなものだがラパンは強い態度に出るキャティのことをそれとなく責めていた。


「あぁ、そうだね。ヤマトにユイナだったね、悪かったよ。二人を責めるつもりはなかったんだけど、ついね」

 ラパンの指摘にやりすぎたかと反省したキャティは素直に頭を下げる。ヤマトとユイナのように彼女たちもまたいいコンビなのだろう。


「いえ、気にしないで下さい。それじゃ、俺たちは街に行ってみます」

「またねー!」

 柔らかな笑みを浮かべたヤマトがそう言って二人に別れを告げようとするが、それはキャティによって止められる。


「――ちょっと待った!」

「……?」

 呼び止められた二人は首を傾げながら振り返る。


「あたしたちが案内してやるよ。街の状況についてもあたしたちは詳しいほうだから、情報も提供しよう。疑ってかかったお詫びってところさ。悪いようにはしないから任せなって!」

 自信たっぷりに笑ったキャティは大きな胸をドンと叩いて二人に提案した。豊満な胸がたわわに揺れる。


「あ、あの、キャティは悪い子ではないですし、今の話も本当ですのでよかったら一緒に行きませんか?」

 ローブに身を包んだラパンはおずおずと上目遣いでヤマトに提案した。人見知りする性格なのか彼女はキャティと違い、どこか遠慮がちな態度で、へにゃりと垂れた耳と大きな瞳を潤ませて訴えかけてくる。


「っ……ねえヤマト! この二人すごいね! すっごく可愛いよ! 一緒に行こう!?」

 そこに食らいついたのはユイナだった。彼女はゲーム時代、獣人のキャラを愛でるのが好きで、会うたびに全力で愛情を伝えていた。そのため、今回も二人の誘いを断れるはずがなかった。


「わかったよ。キャティさんにラパンさん、それではよろしくお願いします」

 二人が同意してくれたことで、キャティとラパンは笑顔になり、街へと二人を案内していく。




 余談だが、ゲーム時代、ひとつ気になったヤマトはいつだったかユイナに聞いたことがある。

「そんなに獣人が好きなのに、なんでエルブン族にしたんだい?」

「何言ってるのヤマト! 自分が獣人になっても見えないじゃない!」

 そう言ったユイナの表情は、なんでそんな愚問を? とでも言いたそうな表情だった。


ヤマト:剣士LV39、魔術士LV30

ユイナ:弓士LV34、回復士LV20

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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