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第十九話


 一体何が起こっているのかわからない恐怖感を感じていた二人だったが、ひとまずの危機が去ったことで、無事に合流できたことを実感し始め、ほっとする気持ちの方が強くなる。


「ね、ヤマト……私たちやっと再会できたんだよね……? ちゃんとヤマトいるよね?」

「うん、ここにいるよ」

 今まで張っていた気が切れたようにふにゃりと泣きそうな顔を見せたユイナはヤマトの腕の裾を掴む。そんな彼女の不安を感じ取ったヤマトは愛しい者へ向けた優しい笑顔で頷く。


「ヤマト……せっかく再会できたんだし、ぎゅってしよ!」

 安心したようにいつもの元気さを取り戻したユイナはぱっと手を広げて愛らしく小首を傾げて待ち構えている。

「えっと、ここで?」

「ん」

 照れ交じりのヤマトの問いかけにもユイナは甘えたな表情でそれだけ返す。


「っ、しょうがないなあ」

 周囲を見渡し、誰も居ないからいいかとヤマトもまんざらでもない表情でユイナに近寄ると、彼女の存在を確かめるように力強くギュッと抱きしめた。


「んんーっ、やっぱりヤマトがいると安心するーっ!」

「うん、俺もだよ」

 ユイナもめいっぱい甘えるように抱き着くと、鍛えられた彼の胸元に甘えるように頬ずりする。ヤマトはようやく取り戻した温もりを離さないと言わんばかりに甘く優しい表情で感じ入るように目を閉じ、彼女の身体をさらに抱きよせた。


 近くにいるエクリプスのことはお構いなしに、二人の世界に入っていく。

 ようやく再会できたヤマトとユイナ。愛しい者の存在は彼らの心を暖かく満たした。







 しばらくそれを続けて、満足したところでゆっくりと二人は離れていく。

「なんにしても、ユイナと合流できてよかった」

「うん……えへへ、なんか嬉しいね!」

 ユイナのはにかんだ笑顔に胸が高鳴ったヤマトは再びハグをしたくなるが、なんとかその気持ちをぐっと抑え込んで話を進めることにする。


「これからどうしようか?」

「うーん、とりあえずリーガイアに行きたいかな。私も空飛ぶマウントが欲しいし、あっちのほうがおっきい街だから色々と情報集まってそうだしね!」

 ヤマトだけが飛べるため、ユイナも同じように飛行マウントが欲しいと思っていた。


「だったら、とりあえず後ろに乗って行こうか」

「二人乗り! ……できるの?」

 ゲーム時代にはついぞ実装されなかった二人乗りという機能。期待に胸を膨らませたユイナだがすぐに不安そうにヤマトのことをじっと見つめる。


「たぶん……?」

 自信がなさそうなヤマトだったが、彼が乗って来た鳥はサイズが大きく、二人くらいがのっても大丈夫な力強さを持っていた。

 そして、ここでは今までできなかったことが色々とできることからそのことができるのではないかと提案していた。


「じゃあ乗りたい! ヤマトと一緒に鳥さんに乗りたいよ!」

 早く試してみようよといわんばかりにユイナはキラキラと目を輝かせて、ヤマトの腕を掴んでいた。

「はいはい、今呼び出すから待ってて。――エクリプス、ありがとう。戻っていいよ」

 二人の近くで静かに待機していたエクリプスはヤマトの指示を受けると、了承の意を示すように一鳴きしていずかへと走っていってしまった。


「ねえ、ヤマト……馬って戻るように指示するとどうなるの? ゲームだと、別の空間から現れて、別の空間に戻っていく感じだったけど……今の感じを見るとただ走っていっただけだよね?」

 自分が乗ってきた馬もそうだったが、ヤマトのエクリプスもただ走っていっただけだったので、その点をユイナは疑問に思っていた。


「うーん、俺も正解がわかるわけじゃないけど近くの安全な場所を自然とかぎつけてそこで待機するとかなんじゃないかなあ? 深く考えなかったけど、エクリプスは呼び出せばすぐに来たし、戻せば自然といなくなったからなあ」

 フライングバード用の笛を出しながら首を傾げたヤマトもそのあたりがどうなっているのかわかっていなかったため、曖昧な返答しかできずにいた。


「そっかあ、まあ安全ならいいんだけど……ちょっとそのへん心配だなあって思って」

 ユイナはマウントの馬をただの乗り物としては考えておらず、自分をここまで連れてきてくれた大事な旅のお供と思っていた。先ほどモンスターに襲われてピンチに陥っていたことを思うと心配になる気持ちがあったのだ。


「そのへんも色々とわかっていくといいんだけどね。ゲームと同じようなのに、ゲームと色々違うからちょっととまどうね……っと呼び出さないと」

 ヤマトは鳥を呼び笛で呼び出す。笛を吹いてから数秒たったところで大きく羽根を羽ばたかせて鳥がやってくる。


「それじゃ、とりあえずリーガイアに向かおう。ユイナ、さあ乗って」

 先に背中に乗ったヤマトが優しく手を差し出して、ユイナを迎え入れた。もし無理であれば、鳥が抵抗を示すところであるが、特にそういった様子もなく二人は問題なく背中に乗ることができた。


「うん、大丈夫そうだね……行こう!」

 危なくないようにとユイナを抱き寄せつつヤマトがフライングバードに指示を出すと、大きく羽根を羽ばたかせて大空に飛び立っていく。


 もさもさの黒い毛は柔らかく、まるで高級な絨毯の上に座っているような心地よさがある。力強く羽根を羽ばたかせて上空を飛んでいるのに、包み込まれるような安定感があった。


「わあ! すごいすごーい! 風を感じられるから本当に飛んでるみたい!」

「本当に飛んでるんだけどね……でも気持ちはわかるよ。やっぱりVRよりも感覚があるから、すごくリアルに感じられるよね」

 無邪気に喜ぶユイナの言葉にヤマトも笑顔で同意する。まだどこかここがゲームであるという気持ちが抜けきっていないための発言であった。


「でも」

「うん」

 ヤマトが口にした、でも――それに続く言葉をユイナもわかっており、二人の表情は厳しいものになっていた。


 しかし、あえて二人はその先を口にはせず、とりあえず今の空を飛ぶ心地よさを享受することにしていた。






「はい、到着っと」

「ありがとー、たのしかったー!」

 さすがに街の中に降りる訳にはいかないため、ヤマトはリーガイアの街並みが見えはじめてきたところで少し離れた場所に着陸させる。


 フライングバードによる移動速度が速いため、二人は日が落ち始めた頃くらいには街に到着することができていた。夕暮れに染まる街にもまだたくさんの人が行き交っている時間帯であった。


 街には検問等はなく、それぞれの門に衛兵は立っているが、扉は大きく開かれ、人の出入りは自由だった。もちろん怪しい人物等がいればその限りではないが。


 二人揃ってリーガイアの街に入ると、活気のある街の雰囲気が広がっていた。

 

「わー、やっぱり大きいねえ」

 器用に人にぶつからないようにぐるりと街を見回しながら歩くユイナ。感激したような表情で楽しんでいる彼女をヤマトは温かいまなざしで見守っていた。


 ここ中央都市リーガイアはプレイヤーたちが最初に目指す大きな街であるため、人の出入りもおおく、それに伴って店もたくさん並んでいる。

 ヤマトが鳥の呼び笛を買ったように他の街では売ってないようなものまで購入することができる。


「俺は先に来てたけど、やっぱり色々置いてあって見てるだけでも楽しいね。……そうだ! 宿の料理が美味しかったから、食べよう! 他にも色々ユイナと食べたくて買っておいたのもあるんだよ」

 一足早くついていたヤマトは昨日食べた食事が特に気に入ったようで、近い味覚をしているユイナにも食べさせてあげたいと思っていた。


「うん! すっごい楽しみ! ヤマトが勧めてくれたご飯屋さんに外れはないからね!」

 弾けるような笑顔で振り向いたユイナは期待に胸を膨らませて大きく頷いた。

 



ヤマト:剣士LV35、魔術士LV25

ユイナ:弓士LV30、回復士LV15

エクリプス:馬LV15


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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