第十七話
「さあ、ユイナ……最強夫婦の力を見せてあげよう!」
三人目が誰なのかヤマトは明言しなかったが、ユイナは何よりも心強いヤマトの言葉に心が打ち震えていた。
「うん!」
そして、満面の笑みで頷いた彼女は身体の疲れも吹っ飛び、弓矢を持っている手にも力が漲っていた。
パーティを組むことで起こる追加効果は、最大HPの増加、最大MPの増加、攻撃力の増加、防御力の増加、回復力の増加だ。
「“ファイアボール”!」
先にモンスターの群れへと先陣を切って飛び出したヤマトは新しく覚えた炎の魔法を連発していく。着弾地点から炎が広がるため、一度に複数のモンスターを攻撃することができる。
そして、燃えているモンスターに更にフレイムソードで追い打ちをかけていく。
「前方は俺が倒していくから、ユイナは遠距離攻撃を頼む!」
「わかった!」
ヤマトの指示を受けて後を追うユイナは次々に矢を放っていく。この連携はゲーム時代からなじみのあるもので、彼らの連係プレイに乱れはない。
「“エアカッター”!」
ユイナの援護を心強く思いながらヤマトが次に使ったのは風魔法。風で作られた刃が横に広がって前方に飛んでいく。これも幅広く敵をとらえられるため、同時攻撃で一発で三体のモンスターを倒していく。
「それでも多いよーっ!」
二人が合流したことで、殲滅速度は上がっていたが、それでも増え続けるモンスターにユイナはつい弱音が出てしまう。
「――ヒヒーン!」
そこに馬の大きく勇ましい鳴き声が聞こえてくる。もしや、自分を連れて来てくれた馬がまた戻って来たのかと慌ててユイナが周囲を確認するが、その声の主は別の者だった。
「エクリプス! よくあの群れの中を抜けてきたね!」
それは、デザルガからリーガイアへとヤマトを乗せて移動した馬のエクリプス。彼が三人目のパーティメンバーだった。
モンスターたちを蹴り飛ばしたり体当たりで吹き飛ばしたりしながらヤマトの元へと駆けつける。
「おっきーい!」
近くに来てみると改めてその頼りがいのある姿が確認できる。ヤマトとともに戦闘訓練を行い、実際にモンスターと戦ってきたエクリプスはレベルだけでなく見た目も成長していた。
「マウントと戦闘するシステムを利用したんだけど……思ったより成長したみたいだ!」
「うわあ、すっごいねー!」
近づいてくるモンスターに攻撃をしながらヤマトは笑顔でユイナに説明をする。
たくましいエクリプスの姿に子どものように感動しているユイナ。ヤマトの態度から彼女のことも守るべきなのだろうと奮闘するエクリプス。
これで全てのメンバーが揃っての戦いに移っていく。
「エクリプスは後方を守って、俺は前と横を、ユイナは遠距離で敵を潰してほしい。矢が足りなくなったら、まだいくつか矢筒があるから言ってね」
「りょーかいっ!」
未だモンスターはうようよとその数を増やし続けているが、最も頼れるヤマトとその彼が信頼するエクリプスがいれば勝てるかもしれないと、ユイナの心に強い希望の灯りが灯り始めていた。
「――さあ、うちの奥さんを怖がらせた罪、償わせてやる!」
気合の入った表情でフレイムソードを一閃しながら先頭を走るヤマト。
ともすればユイナが死んでしまったかもしれない、そう考えるだけで彼の背筋には冷たいものが走るが、その気持ちを怒りに転嫁することで恐怖を打ち消していた。
また、それと同時にどうすればこの戦いを決着に持っていけるのか。それも模索している。
「せいっ! たあっ! “ファイアボール”!」
剣でモンスターを倒し、少し距離ができたところで魔法を放つ。一度に何匹ものモンスターを相手にすることで敵視を自身に集め、少しでも後方のユイナたちを守ろうとしている。
彼のあとを追うユイナは先ほどまでより集中でき、ヤマトの手が届かない遠距離のモンスターの頭を矢で貫いていく。
近距離のモンスターを二人に任せられることで、遠くの敵にだけ集中できることはユイナの命中精度を跳ねあげていた。
「――ユイナ、この状況は最初から? それとも、何かきっかけがあってなったの?」
ちょうど背中合わせになったタイミングでヤマトは状況を分析するため、ユイナへと質問をする。
「えっと、最初は橋の上にゴブリン種が数十体いたくらい。その中のジェネラルゴブリンが大きな声をあげたのとほぼ同時にモンスターがどんどん集まってきたと思う」
思い返せば、あの声がきっかけだったとユイナは感じていた。もう既にそのジェネラルゴブリンは倒してしまったが、今でもあの魔物の呼び声の衝撃は忘れられない。
「なるほど、他に気になることは?」
「うーん……そうだ、敵の中に一体強いモンスターがいた。オーガでレベルは三十五」
降り立った時にヤマトが一撃を入れ、遠くに弾き飛ばしていたが、気づけば、オーガはモンスターに紛れてどこにいるかわからなくなっていた。
「そうか……うん、まずそのオーガを探して潰していこうか。それでもだめならまた次を考えよう」
考え込んだ表情から顔を上げたヤマトは少しスッキリしたような雰囲気だ。
何をすればいいのか、その目標を決めることでそれに向かって動けばいいため、戦闘に集中することができる。
どこまで戦えば、何をすれば解決するのかわからない状況はただいたずらに焦燥感だけを煽ってしまう危険性が高かったからだ。
「うん! ――よおっし、頑張るぞー!」
そんなヤマトの考えはユイナに伝わり、一つ一つ問題を解決していくことに集中する。
素早くモンスターの群れに視線を向けたユイナが見つけたのはのそのそと動くオーガの姿。
「いた! この距離なら……“パワーショット”!」
この戦闘中に覚えた新しいスキル。パワーという名を冠しているだけあり、攻撃力が高いスキルだった。更にいうと、それとともにスピードも兼ね備えており、勢いよくオーガの方へまっすぐに向かっていく。
オーガの足、手を縫い付けるようにスキル技で放たれた矢が襲いかかり、オーガはその場で痛みにもがいて立ち止まる。周囲のモンスターたちは暴れるオーガを恐れて離れていた。
「ヤマト!」
「――せいっ!」
そして、ユイナが声をかけると同時にヤマトが飛び出してオーガにフレイムソードで切り付ける。無防備になったオーガが気がづいた時にはその身体は真っ二つに切り裂かれていた。
「ガ……ァッ……」
支えを失ったオーガの身体は力なく地面に沈む。
息の合った連係プレイであっという間にオーガを倒してしまった二人は達成感に顔を見合わせてニッと笑いあう。それぞれの脳内にレベルアップを知らせる通知も鳴ったことが二人の達成感を更に後押しした。
「ヒヒーン!」
しかし、気を緩めるなといわんばかりのエクリプスの声で二人は状況を理解する。
「何も変わってないか……」
「だね……」
当初の目的であるモンスターを倒した今も、モンスターが大量にいる現状は何も変わっていない。
「……いや、なんかモンスターの様子がおかしい……黒いオーラみたいなのが見えない?」
「あんなの強いダンジョンとかでしか見たことないよ……」
訝しげな顔でヤマトが口にするように、よく見てみるとあとからきたモンスターはその身体に黒いもやのようなオーラを纏っていた。
最初の魔物の呼び声で集まってきたモンスターとは明らかに雰囲気が違う。
「こいつはまずいな……何か、何かないか!」
異様な雰囲気を感じ取ったヤマトは何かクエストのキーとなるものがあるのではないかと、周囲を探り始めた。黒いオーラは魔力によって強化された証であり、通常のモンスターよりも強い。
ゲーム時と違ってリアルな感覚が強いいま、長い戦闘は否応なしに疲労が蓄積していく。疲労に関しては体力とはまた違うため、ゲームのようにポーションや魔法で回復すればいいというものでもない。自身が来る前よりずっと戦っているユイナの疲労を考えると、ヤマトの心には焦りがにじんでいた。
ヤマト:剣士LV30、魔術士LV22
ユイナ:弓士LV26、回復士LV12
エクリプス:馬LV10
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