最終話(第百四十八話)
魔王城に戻ったヤマトたちは、黄龍の背に乗っていたこともあり、最初は城にいる魔族たちに警戒されるが、すぐに魔王がとりなしてくれてことなきを得る。
「――しかし、まさか再会がこれほど早いとは思わなかったぞ。しかも、そのような龍に乗ってやってくるとはな……」
魔王はどこか呆れるような口調で言う。
「ははっ、俺も同じことを考えてましたよ。……あーっと、正面玄関壊してすみませんでした」
最初は魔王たちとは完全に敵対する立場であったため、ヤマトは強引に乗り込む形をとったが、和解した今となっては、申し訳なさでいっぱいだった。ヤマトが視線を向けた先では、魔導船が突っ込んで破壊された城門を魔族たちが総出で直している。
「よい、この程度なら修復にそれほどかからん。お前たちには恐らく世界を救ってもらった形になるのであろう。ならば、この程度のことは些事だ。気にするな」
気にするなと手を振りながら魔王は壊れた城門を見て、およそ数日で修復できるだろうと目算していた。
「よかった。それじゃあ、俺たちは行きますね。魔導船も回収していきます」
「あぁ、またな。――おい、お前たちこいつらが再びやってきても敵対はするな!」
魔王は、集まってきていた魔族たちにそう指示を出す。
城門を破壊されたり、戦ったりとひと悶着あったため、不満そうな表情のものもいたが、魔王がひと睨みするとすぐにその表情をただして何もなかったような表情を装う。彼らにとって魔王は敬い従う存在なのだろう。
「……ということだ、次に来る時は城門を壊さないでいてくれると助かる。そうすれば、こいつらも手を出さないだろう」
ふっと薄く笑った魔王が肩を竦めて言い、これを別れとした。
魔導船で魔界をあとにしたヤマトたちは、次にこれまでに世話になった人物のもとへと事の顛末を話しに行く。
ミノスとポセイドン――双方の神に対しては、何を話しても大丈夫だろうと考え、全ての事情を説明した。
「そのような堕ちた神がいたとは……いや、長きにわたって一人でいればそのようにもなりうるのか」
話をすべて聞いたミノスもポセイドンも、同様の反応をする。
自分たちと同じ存在である神の一人が、別の世界からヤマトたちを召喚し、そして魔王にぶつけた。
それも自らが楽しむためであると予想できる。
そんなことが起きたのを信じられないが、理解はできるといった反応を二人がしていた。
それぞれ、説明を受けた二人は終わりを告げる者のことを考えると、神妙な面持ちになっていた。
しかし、彼らにはトリトン、アスターという息子がおり、一人ではいないため、ヤマトもユイナも大丈夫だろうと判断していた。
また何かあったら会いにくればいいと言う二人の言葉を受けて彼らは次の場所へと向かった。
ヤマトたちが次に向かったのは獣人アニマ族の住む武の街ザイガ。
そこでキャティとラパンの二人と再会する。
「おー、あんたたち帰ってきたのか! いやあ、どうなったかと心配してたんだよ。なんていうか、あんたたちはとんでもないことをやらかしそうだと思ってね。元気そうでよかった……仲間も増えたみたいだね」
重量のある斧を肩に担いだキャティは、ヤマトたちを見ると明るく嬉しそうに笑う。
そして仲間として増えているルクスをかがむように見て、ニカっと笑った。
「お初にお目にかかります。ルクスといいますにゃ、よろしくお願いしますにゃ」
二足で器用に立ち、礼儀正しいルクスの返事に、キャティとラパンは笑顔になっていた。
「良い方のようですね。お二人のお仲間ならきっとお強いのでしょう……ふふっ、なんだかうらやましいな」
ルクスを見るその目が羨望の色を帯びているラパンを見て、ヤマトとユイナは首をかしげる。
「あぁ、ごめんなさい。お二人についていけるほどの力を持っていれば、色々な場所へ旅立てるのだろうなと思いまして」
ハッとしたように我に返ったラパンは、つい本音が出たことを恥ずかしそうに照れながら困ったように笑っている。
彼女は生まれてからずっとこの街の周辺で住んでいるらしく、外の世界へ憧れを持っていた。
「二人にはまだ成長する才能があると思います。そうだ、お二人には色々お世話になりましたし、これを差し上げます」
ヤマトは爽やかな笑顔で、憧れを持つのに恥ずかしがる必要はないと言う。隣にいたユイナが彼の裾を引いたことで、アイテムボックスにある自分の家で回収した装備の中からキャティには斧を、ラパンには魔法の杖を渡す。
「こ、これは……」
「こんなすごいものを……」
手にした武器を見た二人は目を見開いて驚いている。
キャティに渡したのは、【蒼黒の戦斧】と呼ばれるもの。黒い持ち手と深い蒼の刃の部分が凛々しい美しさを放つ。
高ランクのダンジョンをクリアすることで稀に手に入れることができるとてもレアなものだった。
「こ、これ、本当にいいの!?」
既に斧を抱きしめ、離すまいとしながらも、ヤマトへと確認をとるキャティ。その目はキラキラと輝き、頬も上気している。
「えぇ、気に入ってくれたみたいでよかったです」
あまりにグイっと迫られたため、ヤマトは苦笑交じりに頷く。
気に入ったどうかの質問はしていなかったが、彼女の反応を見るだけで、どれほどに気に入ってくれるかはわかっていた。ヤマトたちの中に斧使いはいないため、使ってくれる者の手に渡った方がいいとヤマトは判断したようだ。
「これ、【赤翡翠の魔杖】ですよね! これを使うだけで魔力効率がかなり上がって、魔法の威力もすっごく強くなるんですよ! 本当にもらっていいんですか?」
ラパンに渡したのは【赤翡翠の魔杖】。透明感のある赤い水晶で作られた杖の先に翡翠がついた美しい杖。
キャパンに渡した蒼黒の戦斧と同じく、とてもレアなものだ。嬉しそうにはにかむ彼女を見てユイナは嬉しそうに笑った。
ラパンも同様にこれほどのものをもらってもいいのかと信じられないといった様子だった。
「ラパンによーく似合ってるよ! 使ってくれて、しかも喜んでくれるならこっちとしても嬉しいからいいの!」
こちらはユイナが手に入れたものであり、大好きな獣人族のラパンが有効活用してくれることに心から喜んでいた。
「それじゃ、それは二人にしか使えないように設定してありますから、いらなくなっても捨てないようにお願いしますね」
悪戯っぽく笑ったヤマトはウインクをしながらそういうと、片方でユイナの手を取り、もう片方の腕でルクスを抱き上げると二人と会っていた食堂を走るように出ていった。
キャティとラパンにとってはこのまま過ごしていたら出会えないほど相当レアなアイテムであるため、何か言い出す前にこの場をあとにする。
「ははっ、二人とも驚いてたね!」
「うんっ、よかったねー!」
「……お二人とも人が悪いですにゃ!」
外に出た三人は用意しておいた馬車に飛び乗るように乗り込んで、そのまま勢いよく街を出ていった。エクリプスはなんとなく彼らの表情を見て状況を察したようで、急いだ割にとても滑らかな出発となった。
「ヤマト、次はどうするのー?」
「うーん、どうしようか。行きたい場所はある?」
手綱を握るヤマトの顔を覗き込むように、向かい風を受けながら髪をかき上げたユイナが質問する。
ふわりと笑顔のヤマトは甘い笑顔で質問を返した。
「私はどこでもいいですにゃ、お二人と一緒なら、どこでも楽しいですからにゃ!」
これまで家を守る使い魔として過ごしていたルクスはヤマトたちと再会し、いくつもの大きな戦いを経験したが、主人であるヤマト、その妻であるユイナ、そして同じ立場であるエクリプス――このメンバーでの旅を気に入っていた。
そのため、どこでもみんなと一緒であれば楽しめると思っていた。
「それじゃあ、次はあそこに行こう。俺たちのいた日本によく似た、東方の国がいいね」
「よーっし! レッツゴートゥ東方ーっ!」
「ヒヒーン!」
大きく腕を伸ばして宣言するユイナに応えるようにエクリプスが高らかに鳴くと、彼らは江戸時代の日本を舞台に作られた東方の国へ旅立っていった……。
その後も彼らの活躍はとどまるところを知らず、各地を自由に旅してまわりながら、冒険者として名をはせたという。
いつしかそのなかには新たな存在も加わり、夫婦として絆を深めていくヤマトとユイナだったが、その話はまた別のお話――。
ヤマト:剣聖LV2000、大魔導士LV1845、聖銃剣士LV1744
ユイナ:弓聖LV2000、聖女LV1900、聖強化士LV1832、銃士LV1811、森の巫女LV1752
エクリプス:聖馬LV2000
ルクス:聖槍士LV1759、サモナーLV2000
ガルプ:黄竜LV1413
エグレ:黒鳳凰LV1387
トルト:朱亀LV1377
ティグ:青虎LV1374
お読みいただきありがとうございました。これで完結となります。
ブクマ・評価ありがとうございます。