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第百四十七話


 終わりを告げる者のすぐ側にいたヤマトは、味方の攻撃を受けていた。

 シールドオブミソロジーを使って。


「ここまで、強力な攻撃を何度も放ってくれてありがとう。みんなに本気を出させてくれてありがとう」

 にっこりと爽やかに笑ったヤマトは、終わりを告げる者へと礼の言葉を述べる。


「……なんだと?」

 その言葉の意味を測りかねて終わりを告げる者は困惑する。

 しかし、ヤマトがこう言うからには何か意味があるはずだ、と。


 終わりを告げる者の予想は当たっていた。

 そう、ヤマトのこれまでの行動には意味があったのだ。


 要所要所、ヤマトはシールドオブミソロジーで終わりを告げる者の攻撃を受けている。

 ユイナたちが隠れている時も彼は一人、敵の前に立ち、盾で受けることを優先していた。


「あなた、グレデルフェントの身体の時は割と真面目にグレデルフェントしてましたよね。だから、俺の武器も妙な工作はされずに本来の力を取り戻していた」

 剣と盾を重ねるように構えたヤマトが、これまで多くの攻撃を受け続けていた盾に魔力を込めて、その力を自らの身体に吸収していく。

 盾を包み込むようにして激しく輝いていた力が、ヤマトの身体に収束して溶け込んでいった。


「――“ソード解放”!」

 ヤマトが装備する神話の剣と神話の盾。

 この二つは一対の装備であり、盾で受けた攻撃をプレイヤーの身体を通して剣に伝える。

 そして、剣はその攻撃を増幅して放つという力があった。


 終わりを告げる者の攻撃も、爆発も、そして先ほどのヤマトの仲間たちが放った強力な攻撃も、全て盾が受けきっていたそれらを全てヤマトは剣に伝える。


 うねりを上げるように強力な力の奔流が神話の剣に集まっていく中、これまで神話の盾が何を受けてきたのかを、終わりを告げる者は走馬灯のように思い出していた。


「っ、こ、このおおおお!」

 結論に辿りついた終わりを告げる者は怒りの形相で声を荒らげ、なんとかしようとするがヤマトは既に攻撃態勢に移っている。


「――ソードオブ……ミソロジー!」

 眩いまでの力の光を纏った神話の剣。ヤマトが武器銘を口にすると、剣からすさまじい勢いの一筋の閃光が放たれる。


 閃光は周囲を真っ白に染め上げるほどの光を放つ。

 それほどまでに強い力は防御結界をあっさりと砕け散らせ、終わりを告げる者の身体を鋭く貫く。

 そして今も放たれ続けているそれはみるみるうちに終わりを告げる者の身体を焼き尽くしていく。


 身体が傷を負って行く中、終わりを告げる者はゲーム時代にヤマトたちにやられた時のことを思い出す。あの時の屈辱が今でも終わりを告げる者の記憶に強く焼き付いており、同じような状況に陥ったことでその時の状況とダブって映る。

 

「ぐ、ぐああああああああああああああああ!」

「悪いが、これで止めだ!」

 更に剣へ力を込めるヤマト。剣の能力を解放して発動されている技がさらに威力を増す。


 ゲームではこれで敵のHPバーが削れていき、やがて0になると倒したこととなり、終了だったが、相対している終わりを告げる者は全身やけどを負いながらもしぶとく、その目にはまだ力が宿っている。むしろ最後のあがきと言わんばかりに、ギラギラと憎悪に燃えているように見えた。


「こんな攻撃でえええええ!」

 終わりを告げる者はもういつ滅んでもおかしくないほどのダメージを受けていたが、それでもまだギリギリで滅ばず、ヤマトたちへの怨念などの気合で身体を形成し続けている。


「ならば、もう一度攻撃をするだけだ――“デスレイソード”!」

 先ほどヤマトが攻撃を発動すると同時に、魔王もユイナもルクスもエクリプスも再度攻撃を発動する準備をしていた。

 今がその時だと、皆がもう一度強力な攻撃を、今度は終わりを告げる者を倒すために全力で打ち込む。


「……ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 全員の駄目押しの攻撃を受けては、終わりを告げる者も抵抗することもできず、断末魔の声をあげていく。


 全員の攻撃が止む頃には、ボロボロになった終わりを告げる者は、抜け殻のように呆然と立ち尽くすだけで、ピクリとも動かなくなっていた。

 別世界に移動していたヤマトたちだったが、終わりを告げる者が倒れたために、少しずつ世界が魔界に戻りつつあるようだった。ここは魔王城から少し離れた平原のようだ。


「……ヤ、ヤマト、アレ言ってもいいよね?」

「た、多分大丈夫だと思う……」

 駆け足でヤマトの近くに駆け寄ったユイナの不安そうな質問に、困ったような表情で彼は答える。

 だが、ここにいる他の面々は、これだけ負傷した終わりを告げる者を前に二人が何を気にしているのか、アレとは一体なんなのかわからずにいる。


「――や、やったかな……?」

 恐る恐るといった様子で、いわゆるフラグというものをユイナが口にする。

 大抵の場合、このセリフは相手の生存フラグになっている。


 しかし、今度こそ相手の生命力を感じられず、また、あらたな気配も感じられないため、ヤマトはその言葉を許可していた。

「やった、はず……」

 しかし、ヤマトはやや自信がない様子で終わりを告げる者を見つめながらぽつりとつぶやく。


「……ふむ、お前たちに賭けて正解だったようだな。安心しろ、私の目からみてもそいつからは生命力を感じられない。私自身もお前たちと敵対するつもりはない……部下がやられたことも、こやつに信じさせねばならぬということゆえに必要なことだったのであろうからな」

 しばしの沈黙ののち、口を開いた魔王は、ヤマトがなぜ魔王たちと戦ったのかも全て理解しており、それを責めるつもりもなかった。むしろ楽しい戦いができたことに感謝しているほどであった。


「そう言ってくれると助かります。……ふう、でもこれで俺たちの役目も終わりかな?」

 ふにゃりと柔らかく笑ったヤマトは脱力したように息を吐く。

 ヤマトたちがこの世界に呼ばれたのは、グレデルフェントこと終わりを告げる者が召喚したからだと言っていた。


 その目的の全容は知れないが、魔王たちと戦わせることがその理由だと彼は言っていた。

 魔王と戦い、そして召喚者本人である終わりを告げる者も倒した。


 となれば、強制的に元の世界に戻されるのかとヤマトは考えていた。

 しかし、ヤマトたちの身体にも意識にもなんの変化もなかった。


「何も……起こらないね?」

「うん……」

 ユイナもラスボスを倒すことで、全て解決すると思っていたため、戸惑うような表情でヤマトの側に寄り添いながらそんな言葉が口をついてでる。


 二人のイメージでは、終わりを告げる者を倒したら、なんらかのシステムメッセージが見えたりするか、ゲームのようにイベントが発生したりして、自分たちの身体が光に包まれ、悲しみの中、ルクスとエクリプスに別れを告げる――そんなことを想定していた。



 しかし、何も起こらない。



「うーん、やっぱりゲーム的な展開はないってことなのかな? 俺たちをこの世界に召喚をしたのはグレデルフェントだったけど、元の世界に戻るには送還魔法とかが必要なるとか……そもそもこの世界にそんなものがあるのかどうか――」

 腕組みをして考え込むヤマトは、この状況の分析をしながら、チラリと魔王に視線を送る。


「む……私の記憶の中にはないな。数百年の時を生きてはいるが、そのような魔法については聞いたことがない。そもそも世界を越えての召喚魔法などというものも聞いたことがない」

 自分に話がふられるとは思っていなかったのか、意外そうな表情をしたのち、緩く首を振る。

 魔王ならもしかして……そんな期待をしていたヤマトだったが、そうそううまい話はないようだった。


「うーん、魔王さんでも知らないとなると簡単にはいかなそうだねぇ……んー、でもまだまだこの世界は広いから色々見てみよっか!」

 ユイナは一瞬だけ困ったような表情になるが、すぐに気持ちを切り替えていた。

 ふわりとほほ笑んで元気良く腕を広げる。


 せっかくゲームの世界にこられたんだから、この世界をまだまだ楽しみたい――それがユイナの思いだった。


 その時、ヤマトはいつもこうやって明るい彼女に励まされていたことを思い出す。

 ユイナの笑顔はどんな時でも周囲を明るくし、前向きな気持ちにさせてくれたということを。


「そう、だね。……うん、今回はかなり色々飛ばしてここまで来たから、行ったことのない場所も結構ある。そこをまわってみるのも面白いかもね」

 似た者夫婦であるため、つられるように柔らかく笑ったヤマトもすぐに切り替えて、気持ちは未だ広がる世界へと向いていた。


 そうして微笑み合う二人を、エクリプスとルクスが温かいまなざしで見ている。


「ふむ、ならば私の方でも昔の資料などを調べてはみよう。たまにこちらにも顔を出してくれれば情報を提供しようじゃないか」

 それは魔王からの提案だった。ヤマトたちと刃を交えて共に終わりを告げる者を打ち倒したことで、彼らに対し、気を許しているようだった。


「……あの、俺たちの世界でも魔王が何か悪いことをするという話はなかったんですけど、あなたも他の大陸や世界に危害を成そうとは考えてないんですか?」

 遠慮がちに問いかけるヤマトの質問に、一瞬眉を寄せた魔王は呆れたような表情になる。


「当たり前だろう? このあたりは先ほどの爆発で一掃されてしまったが、元々領土は広く、食べ物も鉱物なども十分にとることができる――他に進出する理由が見当たらない」

 魔王は力ある者であるが、その力をいたずらに振るおうとは考えていない。

 自身の守る部下をはじめとした領民が豊かに暮らせる環境があるのに、むやみやたらに戦争を吹っ掛ける意味がないと言う。


「魔王とか魔族って聞くと、ゲーム的なイメージでは悪い人たちだけど、この世界では一つの種族って感じなのかもしれないね」

 なるほど、と頷いたヤマトが魔王の返事を受けてユイナに声をかけるが、彼女は一つ気にかかっていることがあった。


「うーん、魔王さんは確かにそうかもしれないけどさぁ、魔物を一か所に集める魔道具のところで魔族見なかった? トリトンとかも操られていたりしたし……」

 悩むように唸るユイナの発言を聞いたヤマトが、そういえばと視線を魔王に向ける。


「そのようなことが……。おそらくはさきほどの終わりを告げる者とやらに言いくるめられたものであろうな。魔族といえども一枚岩ではないからな……心の隙間を突かれた者もいるのだろう――しかし、一族を代表する者として謝罪させてほしい。すまなかった。……ここでお前たちにだけ言っても仕方ないかもしれないが、解決してくれたであろうお前たちには心から感謝する」

 話を聞いた魔王は素直に深く頭を下げた。

 自身があずかり知らぬところで起きたことであっても、彼は謝罪できるだけの度量を持っているようだ。


「もしかしたら、まだ他にもあの魔道具があるかもしれないから、そっちに関しては俺たちで壊して回ろうか。――というわけで、ルクスとエクリプスにはまだまだついてきてもらいたいんだけど、いいかな?」

 魔王の紳士的な態度に心打たれたヤマトは新たな旅の目的を決めた。

 彼の問いかけに、ルクスは笑顔で、エクリプスは今更何を言っているんだ? と呆れた表情になっている。


「もちろんですにゃ!」

「ぶるる」

 二人の返事を受けてヤマトもユイナも顔を見つめ合うと、はじけるような笑顔になっていた。


「――ふむ、それでは私は基本的に城にいる。いない場合は部下の誰かが相手をするので、遠慮なくくるがいい。では、またな」

 そう言うと魔王はマントをはためかせると魔王城へ向けて飛びたっていく。





「ふー、なんか疲れたぁ……」

 仲間だけになったことで、ユイナは少し気が抜けた表情になる。ぐったりと甘えるようにヤマトに抱き着いた。

「だねえ、まさかここまでの戦いになるとは思わなかったよ」

 ぽんぽんと彼女を抱きとめたヤマトも力を抜いて、ぼんやりと魔界の空を見上げる。穏やかな風が吹き抜けたと思うと、ボロボロになって力尽きた終わりを告げる者の身体は消滅した。


「とりあえず……帰ろうか」

「うん……」

 魔導船は魔王の城に突っ込んだままであるため、どうやって戻ろうかと考える二人だったが、ルクスの次の言葉で解決する。


「黄龍に乗っていきましょうにゃ」


 大きな成龍の姿になった黄龍の背中に乗ったヤマトたちは、魔王の城へと戻っていく。

 先ほど別れを告げた魔王は、まさかこれほどの短期間で再会することになるとは思ってもいなかったのか、壊れた城の中、驚愕の表情で出迎えた。



ヤマト:剣聖LV2000、大魔導士LV1845、聖銃剣士LV1744

ユイナ:弓聖LV2000、聖女LV1900、聖強化士LV1832、銃士LV1811、森の巫女LV1752

エクリプス:聖馬LV2000

ルクス:聖槍士LV1759、サモナーLV2000

ガルプ:黄竜LV1413

エグレ:黒鳳凰LV1387

トルト:朱亀LV1377

ティグ:青虎LV1374


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。


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