第百四十五話
爆発はしばらく続き、平原にある草を燃やし尽くしていく。
一面が焼け野原と化して、焼け焦げたにおいが立ち込め、地面からは煙が上がっている。
黒鳳凰、黄龍、青虎は距離をとっていたが、爆発によって吹き飛ばされてしまっている。衝撃がユイナの障壁などで緩和されていたとはいえ、それでもかなりのエネルギーを消化した彼らは光の玉となってルクスの中へと戻る。
ただ一人、朱亀は踏ん張るように大地にしがみつき、更に重量を何倍にも増やすという特性を活かして、その場からほとんど動かずに堪えていた。背中にいるユイナたちを守る盾として全力を出していた。
「……や、やばっ！」
衝撃が落ち着いたことで、ユイナが朱亀に手をあてながらひょっこり顔を出し、周囲を見て、その爆発の規模に驚いていた。
『あ、危なかった……』
聖強化士のユイナが、朱亀の防御力を強化し、かつ爆発のダメージを聖女の回復魔法で継続して治していた。
そのおかげで朱亀は大爆発の中でも死ぬことなく、耐え抜くことができた。
いつになくやる気を出した朱亀はへたりこむように地面に大の字に伸びる。
「し、死ぬかと思った……」
少し離れたところで盾の影に隠れていたヤマトは大きく息を吐く。
彼は神話の盾で全てのダメージを防いだ。通常なら盾から外れた部分は爆発のダメージを受けるところだったが、神話の盾は本来の力を示し、ヤマトの全身を隠すほどの大きさになっていた。
その名をシールドオブミソロジー。
英名になっただけだが、使用者が望むサイズに変更されるという力を持っていた。
「く、くははははは、まさかここまでやるとは思わなかったぞ。私の本当の力を見せることになるとはな！」
爆発の中心にいたはずの終わりを告げる者が、ピンピンした姿で笑い声をあげてそこに立っていた。
その背中には大きな翼が生えており、右の翼は白色、左の翼が黒色になっている。
その姿はさながら堕天の神といった様相だった。
「本来の姿に戻るのは久しぶりだ……貴様らがここまでやるとは思わなかったぞ」
うっとりと悦に入るように笑う終わりを告げる者の右手には翼とは反対に黒色の剣が、左手には白色の剣が握られている。
「いやあ、まさか神様が出てくるとは思なかった。存在感がすごいね」
ヤマトは盾を元のサイズに戻しながら、視線を終わりを告げる者に向ける。
「うんうん、ゲームでもこんなに威圧感がある敵はいなかったよねーっ」
ぴょんと朱亀の影から出てきたユイナが同意するように笑顔を見せた。
「にゃー、聖獣はみんなもう戦えないみたいですにゃ……」
聖獣の子どもたちをゲートの向こう側に帰還させたルクスも槍を手に、二人の隣へ向かい、エクリプスも並び立つ。
「あの獣どもは動けないか。貴様も獣のようだが、人としての側面も強いようだな。ならば、貴様のことも認めてやろう――さあ、戦おうではないか」
先ほどまでは興味すら抱かなかったルクスやエクリプスにも、ここまでついてきたということもあってか、ようやく視線を向けた。
終わりを告げる者は本来の姿に戻り、力を十全に発揮できる。
ヤマトたちのこれまでの力を見た上で、自身の力と比べても、終わりを告げる者は余裕を持っていた。
「先手必勝！」
ヤマトは終わりを告げる者が動きだす前に、真の力を取り戻した神話の剣――ソードオブミソロジーで斬りかかる。
「ふっ！」
それを真っ向から待ち構える終わりを告げる者は、ヤマトの頭部を狙って、黒の剣を振り下ろす。
ヤマトは素早いサイドステップでそれを避けて、懐に飛び込もうとした。
「まだだ」
薄い笑みと共に反対の手に握られていた白の剣が横に振るわれる。
それすらもヤマトはかがんで避け、そのまま攻撃しようと突き進む。
「くらえ！ “スーパーノヴァブレイブ”！」
これまでにも何度も使ったスキルをヤマトが使用する。
「それは既に何度も見た！」
つまらないといった表情の終わりを告げる者は、更に二本生えた腕が持つ剣をクロスさせて、ヤマトのスキルを受け止める。
そして、ヤマトに避けられた二剣が再びヤマトへと襲いかかる。
強力なスキルを発動したヤマトは、発動後の硬直時間によってそれを避けることはかなわない。
だがそんな状況でも、彼は黙って攻撃を受けるような人物ではなかった。
「“シールドオブミソロジー、多段展開”！」
ヤマトの声に反応して、シールドオブミソロジーが周囲に複数展開され、終わりを告げる者の攻撃を次々と防いでいく。
「“クリムゾンデッドアローレイン”！」
そこへユイナが矢を放つ。
一極集中のクリムゾンアローと広範囲攻撃のデッドアローレインを組み合わせた強力な攻撃。
炎を纏った大量の矢の雨が終わりを告げる者へと向かって収束し、降り注ぐ。
防ぐには威力が強力で、避けるにも面での攻撃であるため、おいそれと防ぐことはできない。
「うるさいぞ！」
舌打ち交じりの終わりを告げる者の身体には更に二本の手が生えており、その手にはひと際大きな――斧のような見た目の武器が持たれている。
それを一振りすると、ユイナの矢が全てけし飛んだ。
「……そんなっ！？」
ユイナは今の攻撃に自信を持っており、大ダメージを与える未来を予測していた。
それゆえに、全てが一瞬のうちに吹き飛ばされたことは衝撃だった。愕然と悲痛な声で嘆く。
「――ユイナ！ 動揺するな！」
暗い気持ちを払しょくするようなヤマトの力強い言葉は、一言でユイナに冷静さを取り戻させる。
動揺することで、終わりを告げる者にそこを突かれてしまう。
いつも支え合ってきた二人だからこそ、互いの声は一番に届くのだ。
「“ハイスピードバレット”！」
終わりを告げる者が次の攻撃に移る前に、ユイナが超高速の弾丸を放つ。
弾丸は恐らくは目であると思われる場所めがけて放たれた。
「“ハイスラッシュ”！ からの、“エンシェントフレイム”！」
やる気を取り戻したユイナの姿を見ながら、ヤマトは即時発動できる攻撃スキルと魔法を組み合わせて攻撃する。
巨大な炎の渦に飲み込まれる終わりを告げる者だったが、みるみるうちに炎はそのまま吸収される。
「その程度の魔法なぞ効かないぞ！」
魔力を吸い尽くして弾き飛ばすように炎をかき消した終わりを告げる者。
ほとんどの魔法は今のように吸収されてしまうだろうことは容易に想像できた。
「――ユイナ、一度離れよう！ “ウインドプレッシャー”！」
このままではまずいとヤマトは風の魔法を使い、視界を防ぎ、更に風を自分たちに向けて後方へ身体を飛ばし、その場を離れる。
「……ふ、ふふふっ、簡単にはいかないようだな。――なかなか楽しいものだ。この状態になっても、一瞬では倒せないとは」
しばしの休息を得たかのようにのんびりと笑う終わりを告げる者にはまだまだ余裕があり、反対にこの場から一度退避したヤマトたちからは余裕がないように見えた。
ヤマト：剣聖ＬＶ１３４５、大魔導士ＬＶ１２００、聖銃剣士ＬＶ１０８９
ユイナ：弓聖ＬＶ１３４５、聖女ＬＶ１２４５、聖強化士ＬＶ１１７７、銃士ＬＶ１１５６、森の巫女ＬＶ１０９７
エクリプス：聖馬ＬＶ１３４５
ルクス：聖槍士ＬＶ１１０４、サモナーＬＶ１３４５
ガルプ：黄竜ＬＶ１０８５
エグレ：黒鳳凰ＬＶ１０５９
トルト：朱亀ＬＶ１０４９
ティグ：青虎ＬＶ１０４６
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