第百四十三話
終わりを告げる者は更に数歩下がったところで足を止める。
「ふ、ふはは、この身体はやっぱり弱いな。何せ人の身体だから……な」
終わりを告げる者は胸に突き刺さった剣をずぶりと引き抜くと、開いた穴から黒いモヤが出てくる。
「まさか、この身体を捨てることになるとは思わなかったぞ!」
不敵に微笑んだ終わりを告げる者の身体から出た黒いモヤは量を増していく。
やがて急速に年を取ったように身体がシワシワになり、黒いモヤが人の形を成していった。
そのサイズは大きく、身長は三メートルを超えて白い身体で、顔はまるで能面のように表情がない。
「やっと見覚えのある姿になりましたね、やっぱりさっきのは偽物ってことですか」
懐かしいその姿はヤマトたちが記憶しているものと変わらぬものだった。
本来の姿に戻った終わりを告げる者は、やはりヤマトたちがゲーム時代にラスボスとして戦ったモンスターだった。
「――さて、ここからが本番だ」
気合の入った表情のヤマトがニヤリと笑うと、終わりを告げる者も口元だけでニタリと笑う。
「はっはっは、本気の私に勝てると思っているのか? ――死ね」
大笑いしたかと思った次の瞬間に突然冷たい声になると、終わりを告げる者はいつの間にか手にしていた巨大な剣を横に振るう。その射程内にはヤマトがいた。
「来ると思ったよ!」
ヤマトはその攻撃を予測しており、巨大な剣を神話の盾で受け止める。重たくぶつかった金属音が周囲に響く。
「はははっ、さすがにこれくらいは止めるか。そうそう、四対一ではこちらが不利だな……でてこい!」
愉快だと言わんばかりに笑う終わりを告げる者が左手を上にかざすと、手のひらから魔力が放たれ、魔力が周囲四か所に飛び、魔力だまりを作る。
そこはどこかに繋がるゲートになっており、そのゲートからぬるりと強力な魔力を持つモンスターが姿を現す。
闇のオーラを纏うモンスターはそんじょそこらのモンスターとは格の違う強さを放っていた。
「おやおや、これでは四対四になってしまったか。まあ、最初、数の有利はそちらにあったのだから、それが変化しても問題はないだろうな」
能面のような表情は変わらないが、ニヤニヤと笑っているのが声から伝わってくる。
「さあ、お前たちやってしまえ!」
終わりを告げる者の命令を受けて、現れた三体がヤマト、ユイナ、ルクスとエクリプスの四者へと向かって行く。
その姿は赤、青、緑色をしている終わりを告げる者の小型のように見えた。
「くっ!」
「むむう!」
「なんとお!」
「ブルル!」
ヤマト、ユイナ、ルクス、エクリプスがそれぞれの反応をする。
それぞれの武器でモンスターに拮抗するが、体勢が悪かったため、それぞれ押し込まれる。
「くははっ、そいつらは私の分身体のようなものだ。さすがに三体までしか作ることはできなかったがな!」
ヤマトたちが苦戦している様子を見て、終わりを告げる者は嬉しそうだった。
「みんな、いいこと聞いたね。こいつらは三体で打ち止めだってさ!」
攻撃を受け止めつつも、ヤマトがユイナとルクスとエクリプスへ声をかける。
「うん、聞いたよー! ちゃっちゃと倒しちゃおう!」
「了解ですにゃ!」
「ヒヒーン!」
みんなもも同じことを感じていたらしく、相手を押し返そうと武器を持つ手に力を込めていく。
最初だけは押されていたが、四人の力は強く拮抗する。
赤を相手にするヤマトは相手の攻撃を全て盾で防ぎ、剣で確実にダメージを加え続けていく。
神話の盾と剣を手にした彼はこれまでの比にならないほど、存分に自身の力を発揮していた。
緑を相手にしたユイナはメイン武器は遠距離攻撃用のものだったが、近接戦でもナイフを使って相手の攻撃を防いでいく。
相手の武器は大剣であったが、手数を増やす戦法でナイフで受け流していた。
ときおり聖女の力で浄化をかけていくことでじわりじわりと相手のダメージを稼いでいる。
ルクスとエクリプスの相手は青。最も素早い動きを持つのが特徴で、エクリプスの上に乗ったルクスは、なんとか槍で攻撃を防ぐのがやっとの様子だった。
「くっ、速いですにゃ!」
武器の使用に対する熟練度がルクスだけやや低いため、防戦一方だった。
元々の身体能力が高いエクリプスは、攻撃をひらりひらりとかわしてはいるものの、ルクスを乗せているがゆえに蹄での攻撃や身体を槍にする方法が取れずにいる。
『――ルクス殿、アレをお願いします』
それは真剣な表情の黄竜ガルプからの進言だった。
「わかりましたにゃ、うおおおおお!」
ルクスは渾身の力で青のミニ終わりを告げる者を吹き飛ばし、自らもエクリプスの上から後方へ飛んで距離をとる。エクリプスは何か大技を発動させるつもりのルクスをいつでも援護できるように構えている。
「今こそアレを使う時ですにゃ! “四聖獣よ、真の力に目覚めよ”!」
魔力を最大に高めたルクスはそう宣言すると、親の四聖獣からもらったそれぞれの専用のアイテムを頭上にかかげる。
それは対応する四聖獣の子どもたちのもとへと飛んでいき、彼らの頭上でぴたりと止まる。
この状態になると、ルクスと四聖獣は防御結界に囲まれて手出しができなくなる。
青のミニ終わりを告げる者は警戒しながら忌々しげに睨みつけていた。
その間にも、親の四聖獣からもらったアイテムと呼応するように四聖獣の子どもたちが光に包まれていく。
「――なんだ!?」
終わりを告げる者がその様子を見て驚いている。ヤマトとユイナはこの時が来たかと親のような気持ちで微笑むように笑っている。
四聖獣は契約をすると、レベル1から始まる。彼らのレベルは普通の召喚獣や精霊の何倍もかかるのが特徴。
レベル上げをすることで、プレイヤー同様強くなることができる。
しかし、レベルを上げるだけ上げたとしても、その身体は成長することはない。
親である聖獣に認められた者のみが手に入れることができるアイテム――それを戦闘中に、しかも強者との戦闘中に使うことで、真の姿になることができるというものだった。
この戦闘中に、という部分が発覚した時には、多くのサモナーから不満の声が上がった。
製作サイドの考えでは、それほどに聖獣が真の力を発揮するというのは、重大なことであると考えられていた。
そしていま、黄龍、黒鳳凰、朱亀、青虎が本来の姿を取り戻す。
光に包まれていた彼らが若々しく生命力に満ちた親たちと同じ姿になると、力強く存在感を放った。
「みんな、いくにゃ!」
その姿を確認したルクスは、すぐに彼らに命令し、青のミニ終わりを告げる者へと攻撃を開始させる。
『おおおおおお!』
真の力を取り戻した四体が与える同時の攻撃に耐えることができなかった、ミニ終わりを告げる者は跡形もなく消滅してしまった。
「みんにゃ、お二人を助けるにゃ!」
ルクスが指示をすると、任せろと言わんばかりに二体ずつに分かれた四聖獣たちはヤマトとユイナの相手を潰しに行く。
既に二人がダメージを与えていたが、聖獣によってミニ終わりを告げる者たちに止めが刺された。
結果、数の上で終わりを告げる者が有利と思われたが、それは一瞬で覆ることとなった。
ヤマト:剣聖LV1345、大魔導士LV1200、聖銃剣士LV1089
ユイナ:弓聖LV1345、聖女LV1245、聖強化士LV1177、銃士LV1156、森の巫女LV1097
エクリプス:聖馬LV1345
ルクス:聖槍士LV1104、サモナーLV1345
ガルプ:黄竜LV1085
エグレ:黒鳳凰LV1059
トルト:朱亀LV1049
ティグ:青虎LV1046
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