第百四十二話
「……圧倒的な力の差を感じて、ついにおかしくなったか?」
不意に視線を元に戻した終わりを告げる者がヤマトの笑顔を見て、訝しげに問いかける。
「――いやあ、やっぱり強いなって思いまして。ゲームの頃も勝てたのは半年かけて俺たちでしたから……ユイナ、ルクス、エクリプス――本気を出そう!」
追い詰められている状況を楽しむように笑ったヤマトが勇ましい声で仲間に声をかける。
彼の本気を出す、という言葉を聞いて、終わりを告げる者はにやりと笑う。
「本気……ねえ? まだ使ってないスキルがある、という話だろ? そんな程度では力の差を埋めることはできないぞ!」
つまらなさそうに手にしている剣をヤマトに向けた終わりを告げる者が先回りをして予想をする。
そう言われても、ヤマトの表情は変わらなかった。
「“偽装……解除”!」
「――偽装?」
初めて聞くその言葉に終わりを告げる者は困惑する。
もちろん偽装という言葉自体知っていたが、この世界でそのような言葉がなんの力を持っているのか、いや、持っているはずがない――そんな思いが終わりを告げる者の胸の中を渦巻いていく。
それと同時に、もしかしたら何かあるのかもしれないという不安も強くなっていた。
ヤマトのかけ声とともに四人の身体が一瞬光に包まれるが、目立った変化はそれだけで、何かが変わったようには思えなかった。
「……は、ははっ、ただのこけおどしか。口だけで、生き延びる時間を少しだけ稼いだというわけか――死ね!」
偽装解除という言葉のわりにただ光っただけの現状を見て、はったりだと決めつけた終わりを告げる者は、からかわれた苛立ちのままヤマトに止めをさそうと右手を上げる。
「――果たして、そうかな?」
ふっと薄く笑ったヤマトは剣を手に、終わりを告げる者へと斬りかかる。
「ふん、遅い!」
終わりを告げる者は自身に迫られる前に魔法を発動して、ヤマトを吹き飛ばす。
魔法は確かに着弾したと思われたが、手ごたえが感じられない。何故だと思っているとヤマトの声が終わりを告げる者の耳に嫌なほどハッキリと聞こえた。
「そっちが遅いよ」
すでにヤマトは終わりを告げる者の右方に回っており、そちらから攻撃を繰り出す。
「ぐっ――急に早くなった!?」
それでもなんとか手にした剣で防ごうとする。しかし、あまりにも少し前と違うヤマトの動きの変化に困惑を隠せなかった。
「……ここに来る前に、魔導船を強化してからきたんですよ」
なんてことないことを言う口調で唐突にヤマトが語り始める。もちろん攻撃の手は止めずに。
「それがどうした! 来るためには必要なことだったんだろ?」
今更移動手段に過ぎない魔導船の話を持ち出すヤマトに対し、終わりを告げる者はやや苛立ちを覚えていた。
この戦いに魔導船は関係ない――そう思っていたからだった。
「そう、ここに来るのに魔導船の強化は必要だったんですよ。で、グレデルフェントが偽物で俺たちに敵対するかもしれないというのはわかっていたんです――が、それで俺たちが何もしていないとでも?」
自分たちを舐めないでほしい、ヤマトはそう言うと一歩大きく踏み出し、スキルを発動させる。
「“ソニックスラッシュ”!」
高速で剣を振り払った際に魔法を組み合わせて鋭い真空波を生み出し、かつ斬りつけるように剣も相手へと向けるヤマト。
その勢いは終わりを告げる者の左手の剣を大きく後方へ吹き飛ばす程だった。
「ぐっ……そんな技が!」
風の魔法と、剣技のミックス技――これは終わりを告げる者も知らない技だった。
剣が吹き飛ばされた左手はいまだじんじんと痺れるような感覚が抜けない。
「い、一体何をしたんだ!」
震える手を必死に押さえつけながら問う終わりを告げる者の姿を見たヤマトは再度にっこりと笑う。
「さっき、俺が言った言葉、覚えてます? 偽装解除――そう言ったんです。つまり……」
小首をかしげるようにヤマトはそう言うと、自分のステータスプレートを終わりを告げる者に見えるように表示する。
終わりを告げる者は特異な力を持っており、ヤマトたちのステータスを確認することができる。
「まさか……これは!?」
そのデータを確認して終わりを告げる者は大きく目を見開いて驚いている。
「そう――こういうことになってました。偽装っていうのは、あなたがこちらの能力を恐らく把握しているだろうから施したこと。立ち寄った場所で、密かにレベル上げをしてきたこと。偽装をかけると能力がある程度制限されるので、先ほどは手も足も出なかったんですけどね」
淡々と説明を続けるヤマトだったが、攻撃は止むことなく振るわれ続けており、終わりを告げる者は防戦一方。
それどころか、徐々に攻撃を受け始めている。
「――くそっ!」
まさか偽装という意味がそういうことだったと知り、苛立ちを覚える終わりを告げる者へと、別方向から矢が飛んでくる。そこにいたユイナの攻撃の威力も上がっており、睨み付けるように放たれた一撃は頭へ迷うことなく一直線に飛んでいく。
「ぐっ……!」
終わりを告げる者は慌てて身体を逸らして矢を避ける。すれすれのところで回避したため、終わりを告げる者の頬に擦り傷ができてしまっていた。
「止め!」
咄嗟に避けたことで終わりを告げる者の態勢が崩れたところへ、ヤマトは相手の胸を狙い、剣を突き出す。
ヤマトが使った剣は精霊界で手に入れた剣で、切れ味も鋭いもの。精霊たちが丹精込めて魔法で練り上げた精霊石を使った剣は美しい光を纏い、綺麗な見た目とは裏腹に何物も切り裂く強さを持っていた。
それはすんなりと終わりを告げる者の皮膚を貫き、心臓まで串刺しにするように切っ先が達する。
「ぐふっ……!」
剣で貫かれた終わりを告げる者は、苦しげな表情と共に口から血を吐き出す。
引き抜かれた剣のあった場所からダラダラと血を流している終わりを告げる者。たたらを踏んで、後ろへ数歩下がっていく。
ヤマトはじっと終わりを告げる者から目をそらさずに睨み付けている。
「ふ、ふふっ……いやあ、なかなか強いな。さすが、私が呼び寄せただけのことはある。奥さんも相当だ。綺麗な顔をしておいて全く躊躇なく私の頭を狙ってくるなど。はー……ごふっ……いい、いいぞ」
頭がおかしくなったかのようにへらへらと笑う終わりを告げる者は、時折口から血を吐き出しながらも話を続ける。
「げふっ……ふふっ、はははっ、いやあ、思ってもみなかったぞ。あぁ、強い……がふっ、私は先ほどまで君たちをあっさりと倒せると思っていたんだがね」
その様子はまさに狂気といった様相を呈している。貴様、という呼び方を改めるほどヤマトたちを認めているようだが、それでも自分が優位であることを信じている様子だった。
隣り合うように立つヤマトとユイナは視線をそらさずに終わりを告げる者を睨んでいる。
だが、そんな異様な様子の終わりを告げる者を見たルクスは背筋がうすら寒くなり、顔を青ざめさせていた。四聖獣の子どもたちもルクスの側にピッタリと張り付いている。
エクリプスは唸るように力強く睨み付けている。
「――いやあ、ほんと、驚いた。まさか、君たちのレベルが1000を超えているなんてなあ!!」
大量の出血をしている終わりを告げる者だったが、その表情には狂気の笑顔が浮かんでいた。
ヤマト:剣聖LV1300、大魔導士LV1150、聖銃剣士LV1039
ユイナ:弓聖LV1300、聖女LV1200、聖強化士LV1132、銃士LV1111、森の巫女LV1052
エクリプス:聖馬LV1300
ルクス:聖槍士LV1049、サモナーLV1300
ガルプ:黄竜LV1040
エグレ:黒鳳凰LV1014
トルト:朱亀LV1004
ティグ:青虎LV1001
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