第百三十六話
そして魔導船は魔界を進み、真っすぐ城へと向かう。その速度を落とすことなく。
「ちょ、ちょっと、ヤマト!?」
「ご主人様! ど、どうするのにゃ!」
まさか真っすぐ向かうとは思っていなかったために慌てるユイナとルクスに、ヤマトはニヤリと笑う。
「全速力で突っ込む!」
ヤマトが魔導船の装甲を強化して、障壁を複数張れるようにしたのはこのためだった。むしろスピードを加速してすらいるほどだった。
ヤマトは高揚感すらにじませるような表情で操縦する手に力が入っている。
「えええええ!?」
「うわああああ!」
ぐんぐんと進む魔導船に恐怖を抱いた二人は必死な様子で船にしがみついていた。
普段慎重なヤマトだが、思い切りが悪いわけではない。こういう時、普段ガンガン進むユイナ以上に大胆な行動をするのはヤマトの方だった。
「それだけじゃない、魔導砲――発射!」
勢いよくボタンを押したヤマトは、新しくつけた装備である魔導砲を魔王城の正面にぶっ放す。
魔導砲の威力は操縦者の魔力によって変化する。
大魔導士としてレベル950に到達したヤマトによる魔導砲の一撃は、巨大な城門をあっさりと吹き飛ばし、更に城の中にいたモンスターまでついでといわんばかりに打ち倒していく。
突如攻撃を受けた魔王城が混乱に包まれている様子がモニターから見えた。
城門が吹き飛び、土煙が上がる中、ばたばたと事態の掌握にモンスターたちが走り回っている。
「いっけえええええ!」
対するヤマトは、魔導砲によってあいた場所へとためらうことなく魔導船を突っ込ませていく。
障壁を張り、相手からの攻撃があった際にも対応できるようにしている。
この頃になるとユイナとルクスももうどうにでもなれと、ただただ「わあああああ」っと声をあげていた。
地面と魔導船の障壁が擦れて、金属が引き裂くような音がし、しばらくして止まる。
魔導船が不時着する際の傷跡が地面にあったが、船の方は聖獣たちの加護やヤマトが改造した障壁によって傷一つついていない。
「ははっ、これでかなりの数のモンスターを片付けられたかな」
うんうんと笑顔で頷いているヤマトは魔導船を思うように改造し、思うがままに操縦できたことに気分が高揚していた。
「あはっ、やっぱりヤマトは男の子だねえ」
そんな彼を見てユイナは訳知り顔で頷いていた。なんだかんだ叫びながらも楽しんでいた彼女であった。
「にゃ、にゃにゃにゃんてことに……??」
ふらふらとした足取りのルクスは目を回して周囲の状況を見ていた。
「さて、魔王城に到着したからには気を引き締めて魔王のもとへと向かおうか」
いつもの様子に戻ったヤマトが真剣な表情で仲間に声をかける。
「はーい、りょーかいっ。いつもどおりに戻ったみたいだから、ここからは慎重に行こーね!」
「ご、ご主人様の新たな一面を見たような気がしますにゃ……」
それぞれの反応だったが、先行するヤマトに反対することはなく、あとをついていく。
入り口から魔導砲が届く範囲にいたモンスターは先ほどの攻撃で一掃されていたため、しばらくはなんの障害もなく進むことができた。
しかし、十分程度進んだところで、勇ましく武器を構えた魔族らしき人物がヤマトたちの前に立ちふさがった。
「貴様ら! そこで止まれ!」
「ここを魔王様の城と知っての狼藉か!!」
大声で叫びながら一人は既に剣を抜いてヤマトたちに向けており、もう一人は杖の先端をヤマトたちに向けていつでも魔法を撃てる準備態勢に入っている。
だがヤマトたちは突然現れた彼らに慌てることなく、武器も構えていない。
「ルクス、頼めるかい?」
「承知しましたにゃ」
相手の魔族のレベルは500程度。ヤマトに指名されたルクスは一歩前に出て槍を構える。
「一人でやるつもりか!」
「舐めおって!」
成猫サイズのルクスが前に出てきたことに対して侮られていると憤る魔族二人。それに対してルクスは、穏やかな笑顔のまま一歩二歩三歩と進み、四歩目を踏み出したところで突如その姿が消える。
「っ、消えた!?」
「どこに!」
慌てたように魔族二人は周囲を見渡すが、ルクスの姿をとらえることができずにいる。ただのんびりと決着がつくことを見守っているヤマトたちくらいしか視界に入らなかった。
「後ろですにゃ」
その声が耳に届いた時には既にルクスは攻撃スキルを発動していた。はっとしたように振り返った二人の魔族の目の前には鋭い槍が突き付けられている。
「“クアドラスラスト、ダブル”!」
そしてルクスは四連続の突きを二人の魔族にほぼ同時に発動させ、避ける間も与えることなく、相手の急所を的確に突いた。
「ぐはっ! ま、まさか我々が……」
「一度の攻撃で、猫ごときに……」
無念といった様子で魔族はがくりとその場に膝をつくと、サラサラと崩れ落ち、灰になる。その中に埋もれていた魔族の急所である核にひびが入ると、パキンと割れて砕け散った。
「うん、やっぱりルクスは強いね。これなら、この先もなんとかなりそうだ」
「こんなに簡単に倒せるだにゃんて……」
満足げなヤマトとは反対に、呆然とするルクスは自分でやっておいて、成した結果に驚いていた。彼にとって先ほどの攻撃はあくまで初手として加減したものであったため、あっさりと倒せてしまったことに戸惑っているようだ。
ルクスがどうやって魔族に気づかれずに倒したかというと、ゆっくりと歩いていくと見せかけて四歩目で縮地という高速移動スキルを使って魔族の後ろに回り込んだ。
そして彼がどこにいるのか、相手が気づく前にスキルを発動して、魔族の核を突き、一気に倒す。
猫の姿をしているルクスを舐めきっていたとはいえ、その戦いは圧倒的なものであった。
「かなり強くなったからね。これくらいの相手だったら魔族でも簡単に倒せるくらいの力はあるよ。それに、ルクスのスキルの使い方が上手かった。あれなら、ゆっくりと近づいてくると思っただろうね」
ぽんぽんと頭を撫でられつつ、ヤマトに褒められたことで、ルクスは自然と笑顔になっていた。
「ありがとうございますにゃ。お二人の戦いを見て、色々学べましたのにゃ」
謙遜するようにルクスは二人のおかげだと言うが、それは照れ隠しであり、心の中では素直に褒められたことを喜んでいた。ヤマトもユイナもそれは伝わっているようで、ニコニコと笑顔だった。
「さあ、一気に行こう。城にはまだまだ魔族がいるだろうから、魔王のもとまで急がないと」
気合を入れなおしてヤマトは魔王城を見る。
魔族が全て集まってきたら、どうしても時間がかかってしまう。ならばと、拙速を選ぶのは賢明な判断だった。
城を進んでいくと、何度か魔族と交戦することがあったが、ヤマトたちはどの魔族も一合撃ち合うだけで倒し、圧倒的な力を持って魔王がいる部屋を目指していた。ミニマップを確認しながら最速で進んでいく。
時間にして一時間経過したころには、荘厳な雰囲気を放つ巨大な扉の前に到着する。
「ヤマト……」
「ご主人様……」
それまで魔族を次々と打ち倒してきたユイナとルクスも、ここまでくるとさすがに緊張が見てとれた。
「――うん、行こう」
そんな二人の前にいたヤマトは一度深呼吸すると、扉に手をかける。
目の前にあるのは巨大な扉だったが、ヤマトは軽々と開けていく。
その場所は謁見の間であり、奥にある大きな玉座には、魔王らしき人物が座っている。
黒や紫などの色を基調とした服を身に纏い、ひじ掛けについた腕の上に斜めの姿勢で腰かけ、気だるそうな雰囲気を醸し出す。
「よくぞここまでたどり着いたな――と普段なら言うが、少しやり過ぎだ」
魔王らしいセリフを吐きつつ、ため息交じりに魔王は立ち上がると、大きくマントをひるがえし、ヤマトたちをギロリと睨み付ける。睨み付けと同時に発動された威圧がヤマトたちに強い風となって吹き付けた。
立ち上がった魔王の隣には新たな魔族三人の姿があった。それぞれがヤマトたちを敵視し、睨み付けている。
「相当怒ってるみたいだね」
怒りに満ちる魔王たちとは反対に、ヤマトはにこにこと柔和な笑顔で魔王のことを見ていた。
「さすがにあれだけやればねえ」
呆れたようにユイナの言うあれだけというのは、城門を吹き飛ばし魔導船で特攻したことを指している。ルクスは緊張の面持ちで無言で目の前の魔王の姿を目に焼き付けていた。
「――自覚はあるようだな。私の部下たちも散々な目にあわされた分も含めて返させてもらおう」
目を眇めた魔王はすらりと腰の剣を抜いて、切っ先をヤマトたちへと向ける。それと同時に配下の魔族たちも武器を構える。
――そこからヤマトたちと魔王の戦いが始まった。
ヤマト:剣聖LV1000、大魔導士LV950、聖銃剣士LV929
ユイナ:弓聖LV1000、聖女LV931、聖強化士LV902、銃士LV892、森の巫女LV840
エクリプス:聖馬LV1000
ルクス:聖槍士LV963、サモナーLV1000
ガルプ:黄竜LV930
エグレ:黒鳳凰LV884
トルト:朱亀LV863
ティグ:青虎LV871
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ・評価ありがとうございます。