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第百二十九話



 その後、精霊界でヤマトとユイナは装備を揃えていく。

 どれもこれもが精霊たちの丹精込めた一級品で、地上では買えないような珍しい性能付きのものがたくさん並べられていた。

 精霊たちに囲まれながら装備を選ぶのは、ユイナにとってとても楽しい時間だったようで、終始ご機嫌だった。


 そして、買い物を終えた一行は、今後の動向について精霊の社にある応接室で話をするために集まっていた。

 待ちきれないユイナのために、まずは装備を試着しようということになった。


 精霊界では特別な鉱石を採取することができ、それを使った装備が作られていた。

 この世界には精霊しかいないはずだったが、それらは人が装備する用のものだった。


「うん、やっぱり精霊装備は身体にしっくりくるね。鎧から身体に魔力が流れ込んでくるから疲労も魔力の消費も気にしないで済む。そのおかげで継続戦闘時間も長くなる」

 ヤマトは新しく身に着けた装備を見ながらその感覚を味わっていた。


「ヤマト格好いいね! うんうん、やっぱり精霊装備はデザインがいいよねえ」

 ユイナはヤマトが新しい装備を身に着けている姿を見て、笑顔になっていた。彼らがそれまで身に着けていた轟天シリーズと風雷シリーズもそれなりの装備であったが、精霊界での装備は格が違った。


 各属性の精霊たちが魔力を込めて作った防具はどの魔法とも相性が良い。

 また、魔法で練り上げた金属は普通の鍛冶で作ったものよりも細かい調節ができるため、あらゆる職業の能力を桁違いに跳ね上げる。


 ヤマトが装備しているものは透明感のある青と白を基調とした細かい装飾のなされたデザインの精霊装備。

 前衛をメインとして戦うヤマトを支えるようにしっかりとした守りが期待できる騎士のような防具。防御力は高いのだが、羽のように軽い材質は動きを制約することはない。


「そういうユイナのフェアリー装備も可愛いね。ユイナ、良く似合ってるよ」

 柔らかくとろけるような表情のヤマトは、新装備を身に着けたユイナを褒める。飛び切りの美人である彼女にとてもよく似合う防具となっていた。


 女性向けの装備であるフェアリー装備は、透き通るような青緑と白を基調とした女性ならではの柔らかさと少しの色気を醸し出したデザインになっている。羽のような細かい装飾が彼女自身を妖精にしたように見せる。


『ほっほっほ、二人ともよく似あっておるぞい。これで装備の面ではそれなりにはなったぞい――あとはお前さんらの成長だぞい』

 応援するような精霊王の言葉に、ヤマトとユイナはしっかりと頷く。

 カンストしてからが戦いの始まり――それくらいに二人とも考えていた。


 最低限、自分たちのレベルをゲーム時代と同じく千にまで持っていき、そこから自分たちに使える力をどこまで使いこなせるかが戦いのカギになってくる。


「まずは、召喚獣も含めて全員のレベルを最高値に持っていこう。今の俺たちだったらどこで戦ってもそれなりにはやれるはずだからね」

「うん! じゃあ《終わりの山》に向かおー!」

 気合の入った表情のヤマトに応えるようにユイナが腕を突き上げて元気よく宣言する。


 そここそがゲーム時代、最後のレベル上げの地と呼ばれている場所だった。

 終わりの山、といわれるだけあり、その場所はかなり強力なモンスターたちが蔓延っている。カンスト間近のプレイヤーたちが必ず訪れる定番のスポットだった。


『お、終わりの山とな!? まさか、あの《切り立つ刃》のことを言ってるぞい?』

 精霊王はユイナたちが行こうとしている場所を聞いてぎょっとしたような反応を見せる。


 切り立つ刃とは、ヤマトたちのいう終わりの山と同一の場所をさしている。刃のように切り立った山々は人を寄せ付けないような雰囲気があり、プレイヤーたちの前に大きく立ちはだかる。


 最後に行く場所だからヤマトたちプレイヤーは、終わりの山という通称で呼んでいた。


「そうです。俺たちの力ならあそこで戦えるはずだし、むしろあそこくらいじゃないとまともにレベル上げができないので……」

 なんでそんなに驚いているのか?――と、ヤマトは精霊王の反応に疑問を持っていた。


『う、うむむ……あそこは、今は……』

「なにかあるの?」

 もごもごと言い淀み、精霊王はなにか言いづらそうにしているが、それを気にもとめず、こてんと小首をかしげてユイナが質問をする。


『――あそこは今は邪竜の住処になっておるぞい。黒、紅、群青、深碧、轟雷、様々な竜がおって、それらが軒並み邪竜と化しておる……』

 ヤマトたちの視線に根負けした精霊王はぽつりとつぶやくように真実を告げる。


 黒は邪竜として一般的にあげられるモンスターだったが、それ以外の属性のモンスターも邪竜になっているという精霊王の言葉は、ヤマトとユイナを驚かせるに十分な言葉だった。


「まずいね……」

「うん、まずいね……」

 顔を見合わせたヤマトもユイナもそこで言葉が止まってしまう。


「……ど、どういうことなのですにゃ? ご主人様たちなら、そんなモンスター簡単に倒せるのでないのですかにゃ?」

 ルクスから見たヤマトとユイナの実力は、成長した今だからこそよくわかる。

 レベルだけでなく経験という意味でも二人は自身のはるか先を走っていると彼は感じ取っていた。


「邪竜になると、能力が上がるんだよ。それも2倍だったり、3倍だったり、尋常じゃないレベルでの上がりようなんだ……。竜種はただでさえ、レベルだけに囚われる能力値じゃない。だから、結構まずいと思う」 

 自分たちのレベルがあっても、それらを相手にするのは大変なことである――硬い表情のヤマトの言葉にはそんな意味が込められていた。


「だ、だったら、別の場所で戦えば良いのでは……?」

 戸惑うように告げたルクスのその案は、確かにすぐに考えつくものであり、ヤマトもユイナも頭に一度は浮かべていた。


「別の場所があるといいんだけどね……」 

 悲しげにつぶやくユイナのその言葉が、それは難しいと語っていた。


「他の場所だと、敵のレベルが低すぎるんだよ。それだと相当数倒さないとレベルを上げられないんだ。時間は有限――となれば、より効率のいい場所で戦うのが当然なんだけどさ……さすがに邪竜の山だとなあ」

 どうしたものかとヤマトは困ったような表情で頭を掻いていた。


「ねえ、ヤマト……行ってみよっか、邪竜がいる終わりの山にさ!」

 暗い雰囲気を吹き飛ばすような明るい声音のユイナの提案に、ヤマトとルクス、そして精霊王が目を見開いて驚いていた。


「もーさ、結局どのみち終わりの山に行くしかないじゃない? だってだって、あそこくらいしか強い敵はいないのはわかってる。だから、腕試しもかねていっそ戦ってみるのもいいんじゃないかなーって」

 ふわりと笑うユイナの案を受けて、ヤマトは考え込む。


「……そうだね、いこうか。邪竜と聞いて驚いたけど、やっぱり戦わないといけないよね。本気で戦えばやれないことはないだろうし、それだけの相手を倒せないと魔王なんて話にならないから、戦うしかない」

 ユイナの言葉と笑顔に背中を押されたヤマトも、覚悟を決めたようだった。


『ほっほっほ、うむうむ力ある者、そして心も強いようだぞい。年寄りは心配ばっかりしていかん。余計な進言だったようだぞい』

 のんびりと笑った精霊王は自分の言葉が間違ったものだったと、申し訳なさそうに自分の顎を撫でていた。


「いえ、情報は大事です。教えてくれて助かりました。邪竜がいるとなると、色々と準備も必要ですから」

「うん、精霊王さん。ありがとうね!」

 ヤマトとユイナはそうは思っておらず、揃って笑顔で精霊王に礼の言葉を述べた。


『ほっほっほ、なら装備だけでなく色々とアイテムを用意しようではないか』

 ヤマトたちのことを気にいったのか、そういうと精霊王は立ち上がって別室へと移動する。





 この時間を利用してヤマトはルクスに向き合った。


「ルクス、今度の敵は今までのようにはいかない。俺たちが力で無双っていうことはできなさそうだからね……でも、そこをのりこえるくらいじゃないと魔王とは戦えない」

「っ、はいにゃ……」

 目線を合わせるようにひざをついたヤマトは、ルクスの目を見て話す。いつになく真剣な眼差しの主人の様子にルクスは息を飲む。


 ユイナはこの先に何が待ち構えているか理解している。

 しかし、使い魔であったルクスはいくら話を聞かされているとはいえ、実際に対峙したわけではないため、まだふわふわと理解している程度だと思われる。


 となれば、改めて真剣に話す必要があるとヤマトは考えていた。

 それほどまでに魔王と呼ばれる者との戦いは一筋縄ではいかないのだ。


「恐らく今考えている大変さの倍以上だと思う。だから――絶対に死ぬなよ」

 ヤマトの言葉は静かだったが、それゆえにルクスの心を撃ち抜く。どくんとヤマトの言葉が身体を撃ち抜いたような感覚を覚え、それまでの考えが甘かったことを思い知った。


「っ……わかりましたにゃ」

 そこからルクスの表情や目つきも真剣なものへと変わっていた。



ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541

ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487

エクリプス:聖馬LV672

ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV750

ガルプ:黄竜LV626

エグレ:黒鳳凰LV520

トルト:朱亀LV520

ティグ:青虎LV510


精霊装備

 精霊界にある精霊石と呼ばれる特殊な鉱石を使用して作られている。

 精霊が使う特殊な技術でしか加工することができない。

 装着者に鎧が大気から吸収した魔力が流れ込み、身体を強化・保護する。

 また、魔力の自動回復も行うため、長時間の戦闘に向いている。


フェアリー装備

 精霊界にある妖精石と呼ばれる特殊な鉱石を使用して作られている。

 妖精のような特別なデザインで、女性を意識したものになっている。

 精霊装備同様に装着者に魔力を流し込む。

 愛らしく美しい見た目に反して防御力が高い。


お読みいただきありがとうございます。

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