表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/149

第百二十四話



 やがて辿りついた巨木の根元にあった小さな洞窟から一行が迷宮に足を踏み入れる。

 そのことは今回もミノスには伝わっているため、道中でヤマトたちはモンスターと遭遇することもなく、暖かい空気に包まれ、防寒具を脱ぎながらすんなりと彼らがいる部屋へと到着する。


 大きく重厚な扉はヤマトたちが目の前にくると、中からゆっくりと開かれた。


「あ、どうも」

「うむ、よく来たな」

 そのまま中に入ると、玉座に似た椅子にゆったりと腰掛けるミノスと目が合う。軽いやりとりだったが、互いにこれで十分だと思っていた。


「それで、ここに戻って来たということは精霊界へ向かうということで良いのか?」

 淡々としたミノスの質問に、ヤマトが頷く。

「はい、お願いします。数は多くはありませんけど、強力な召喚獣と契約ができたので今こそ精霊界での強化のタイミングだと思います」


 それを聞いたミノスは視線をルクスへと送る。ひげを蓄えた荒々しい雰囲気を持つミノスの一瞥は威圧感があった。

「っ、にゃ!」

 そんな神であるミノスの視線に射抜かれたため、ルクスは思わずびくりと身体を揺らし、声をあげてしまった。


「――ふむ、さすがにお前たちの仲間、というだけのことはあるようだな。かなりの力を有しているようだ。今となっては、アスターはもちろん神であっても敵わんほどになったようだ」

 満足そうに薄く笑うミノスはルクス、ヤマト、ユイナと順番に見て、彼らの実力が相当上がっているのを感じ取っていた。


「ですかね? でも、あなた方と敵対するつもりはないのでそんなことにはならないと思いますよ。それで……精霊界へはどこから行くのでしょうか?」

 どういう反応をしたらよいか苦笑交じりでヤマトは問いかける。

 ゲームでは瞬間移動的に移動していたが、ここでは特別な場所から行くのかと予想していた。


「あぁ、それならばここから行ける。少し待っていろ」

 そう言うとミノスはおもむろに腰かけていた椅子から立ち上がると、両手を大きく広げた。

 アスターよりも大きな身体を持つ、巨人のようなミノスが立ち上がると、かなりの迫力がある。


「――“我、ミノスが命ずる。古より揺蕩う世界への扉を開き、道を示せ!”」

 ミノスの魔力と言葉に応じるように空気がびりびりと震える。

 そして、大気に亀裂が入ると、ぐるぐると回転し始め、亀裂が開き、そこから向こうの風景が見え始める。


「おぉ、これはすごい!」

「うん! すごく魔力が強いね! 空間魔法なのかな!」

 目の前で発動するミノスの魔法に、ヤマトとユイナは興味津々だった。


「ふふふっ! これは我しか使えない魔法だ! さあ、この通路は数分しか持たん。さっさと行くがよい。帰りは……精霊王になんとかしてもらうか、自力でなんとかしてくれ。……というか、早くいけ――開いている間はずっと魔力が吸われる……っ」

 最初は自慢げに胸を張っていたミノスだが、言葉通り、徐々に彼の顔色が悪くなってくる。


 通常、空間魔法は多大な魔力を使うと言われている。

 それに加えて、今回ミノスが作った通路は、今いる世界とは別の世界へと繋がる特別な空間であるため要する魔力は更に多量になる。


 いくら神であるミノスといえども、長時間通路を維持するのは難しかった。


「わわわっ! は、早く行かないとまずいですにゃ!」

 わたわたと驚くルクスは、ミノスとヤマトたちを何度も見比べるほどの動揺を見せる。

「だね、行こう! ミノス、ありがとうございます! アスターもまた会おう!」

 眩しいほどの爽やかな笑みを浮かべたヤマトの言葉に、空間維持に苦しそうにしながらもミノス、薄く笑ったアスターが頷き、ヤマトたちは一斉に通路へと飛び込んでいった。





 全員が通ったのを確認すると、ミノスは通路を閉鎖させる。ゆっくりと閉じた亀裂はもうなにもなかったかのように元通りになっていた。

「……っ、はあはあ、はあはあ、さっさと行かんから疲れたわい……ふう、普段使わないだけにかなり魔力をもっていかれたな。今までの神生でも数回といったところだぞ……」

「――無事、行けたようでよかった」

 父ミノスが疲労を訴えているのに対して、アスターはそれに対して反応することなく、ただ彼らが無事に旅立ったことを喜んでいた。

息子が心配してくれないことを少し寂しいと思いながら、ミノスは魔力回復に太陽の宝玉を頬張りつつ、ヤマトたちの行く末を想っていた。





 一方、ミノスが開いてくれた通路を出たヤマトたちはというと……。


「ぅぅぅぅぅううううううううわあああああああ」

「きゃあああああああああ」

「うにゃああああああああ!」

「ヒヒーーーーーーーーーン!」

 順番にヤマト、ユイナ、ルクス、エクリプスの悲鳴に似た声だった。


 いま、四人の姿は高度一万メートルの位置にある。

 なんの命綱もパラシュートもなく、痛いほどにたたきつける風に耐えながら落下していた。


「なななななな、なんでこんな場所にいいいいい!?」

 最初は、ミノスが開いた入り口を入ると不思議な乳白色に輝く魔法のトンネルのような通路があり、そこを一行は歩いていた。

 十メートルほど進んだところで、突如としてその魔法の通路が消え去り、今の状況になっていた。


「ヤ、ヤマト、それよりも何とかしないとー! ど、どどどどど、どうしよう!?」

 服がめくれ上がらないようにきゅっと身体を縮こまらせながら、落下の風にあおられているユイナがなんとかそれだけ口にする。


「そ、そそそ、そうだね。“ウインドウォール、多段展開”!」

 このまま何もしないわけにはいかないと、ヤマトは薄い風の壁を自分たちの下方向に何重にも展開していく。


 以前、禁断の地にある洞窟で使った技。だが魔術士だったあの時とは違い、大魔導士となった今では障壁の展開は非常になめらかで、多段展開しても魔力消費はけた違いに少ない。


 風の壁を一つ通過するたびに、ヤマトたちの落下速度は落ちていく。

 ふわりと風の壁がクッションとなってくれているようだ。


「だ、大丈夫……?」

 落下速度が徐々に落ち着いていくのを感じながら、ユイナが不安そうにヤマトに尋ねる。

 以前、同じ技を使って魔力切れを起こしたヤマトのことを思い出し、あの時よりずっと距離のある、これほどの高さでずっと技を使い続けることに不安を覚えたようだった。


「なんとか、“ウインドウォール、多段展開”!」

 落下速度は落ちてもまだまだ地面までは遠く、油断できない状況のため、少し困ったように笑いながら答えたヤマトは、それからも風の壁の展開を繰り返していく。







 そして、地面が近づく頃にはふわりと着地できるほどの速度に落ち着いていた。

 地面が近づいてくると、穏やかな草原と言った様子の場所だと分かり、四人はそれぞれゆっくりと着地すると、ほっと息を吐く。


「ふう、なんとかなってよかった」

 ヤマトが地上に到達するまでに発動した空気の壁はゆうに数百を超えていた。

 それほどに超高度からの落下は速度が速かった。


「ヤマトおおおお!」

 一時はどうなるものかと思ったため、無事に地面に足をつけられたことに安堵したユイナは、感動いっぱいにヤマトに抱き着いていた。

「ご主人様あああ!」

 それはルクスも同じで、ユイナがヤマトの上半身に、そしてルクスがヤマトの足に抱き着く。

 ユイナが急に飛びついてくるのは慣れているため、難なく受け止めたヤマトはぽんぽんと彼女の頭を撫で、ルクスをいたわるように微笑みかける。


「ぶるる」

 ヤマトならなんとかしてくれるだろうと思っていたエクリプスは予想通りの結果に一人、落ち着いていた。


「三人とも無事でよかったよ。とにかくこれで精霊王のもとへと向かえる――っと、の前にレベル上げに行こうか。ここなら聖獣の新規参入組のレベル上げにちょうどいい場所があったよね」

 ヤマトはその場所の心当たりがあるため、足はそちらに向いていた。


「あそこ、だね!」

 ぱっと身体を離したユイナも同じ場所が頭に浮かんでいるらしく、笑顔で頷いて跳ねるようについていく。エクリプスがそのあとをのんびりと追いかける。


 どこにいくのかわからないルクスは首をかしげながらとてとてと最後尾を歩いていった。


ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541

ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487

エクリプス:聖馬LV672

ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV599

ガルプ:黄竜LV226

エグレ:黒鳳凰LV1

トルト:朱亀LV1

ティグ:青虎LV1


お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ