第百十九話
「俺たちはこの塔にきてガッツリとレベル上げができたんですけど、恐らく今の力では魔王を倒すのにレベルがまだ足りないと思っています。そこで――例えば、プラチナバタフライがたくさんいるエリアをもう一度作ってもらうとかっていうのはできますか?」
創世の大魔術師でなおかつこの塔の製作者であるならば、そんなこともできるのではないか? と少々の期待を込めてヤマトが質問する。
しかし、申し訳なさそうな表情をしたグレデルフェントは首を横に振った。
「それはできないのです……もし同じエリアを作ったとしても、恐らくプラチナバタフライは姿を現すことはありません。一度倒した相手はもう見ることができないモンスターなのです。それはパーティメンバーが倒した場合でも同様です」
プラチナバタフライはそれゆえに希少なモンスターであり、特大の経験値を取得することができる。
さすがに創世の魔術師であってもその技はできないのだという。
「なるほど……ならどこかでレベル上げと、あとは装備を揃えないときついか。ねえユイナ、どこがいいかな?」
あっさりと諦めて次の手段を考えるヤマトの質問に、ユイナは腕を組んで考え込む。
二人の記憶の中にあるエンピリアルオンライン。
そこで効率のいい稼ぎ場所、そして強力な装備が手に入る場所はどこか? それを考えていた。
「うーん、正直私としては、レベルは結構上がったからルクスの召喚獣を増やしたほうがいいかなって思ってる。その中で戦闘があれば、またレベルも少しずつ上がっていくだろうし」
彼女のその提案にヤマトは頷きながら、ルクスとガルプのほうを見る。
「確かにそうだね。この先、精霊界にも行けるわけだから、召喚獣を増やすのはありだ。装備なら精霊界に行けば色々ありそうだし、まずは精霊装備を手に入れるのと神話装備を用意したいところだね」
神話装備とは、ヤマトがゲームのボスとの最終決戦で使用したもので、攻防どちらをとっても最優の装備だった。
「神話装備、ですか……いまでは失われた装備ですね。数千年前に作られた武具で、数百年前に力を解放して壊れたという話を聞いた覚えがあります」
考え込むような仕草で語るグレデルフェントの話に、ユイナはがっくりと肩を落とす。強力な装備の一つが手に入らないことが確定したためだった。
「――せめて、その装備のかけらでもあれば再度作り直せる可能性もあるのですが」
記憶の中にあるボロボロになった神話装備たち。あれほどの装備が手に入らないとなり、ヤマトはなんとかできないかと考えていたその時に聞こえたグレデルフェントの呟きに、ガバッと勢いよく顔をあげる。
「っ、ある! あります!!」
大きく声を上げたヤマトは慌ててアイテムボックスを確認していく。一度自分たちの家に寄ってたくさんのアイテムを詰め込んだたためにその中身は膨大で、探すのに少し時間がかかった。
「えーっと確か、どこかに……――あった!」
しばらく確認していくと、目的のソレが見つかった。希望の光を見つけたように取り出すヤマト。
「これでどうですか?」
グレデルフェントの目の前にそれらを差し出す。
彼が取り出したのは厄災の神との戦いで壊れた神話の剣と壊れた神話の盾だった。
こちらの世界に召喚された際に、ヤマトの持ち物はほとんどが失われていた。
しかし、この壊れた剣と盾だけはアイテムボックスの片隅に存在していた。おそらく壊れていたためにアイテムとして認識されなかったのかもしれない。
一覧の中でも一番端にあったのと、なにより壊れた装備であるため、すっかり彼の意識から外れていた。
「おぉぉぉぉぉおおおぉ……!」
それを見たグレデルフェントは目を大きく見開き驚いていた。まるで秘宝に出会ったようにキラキラと目を輝かせている。
「な、なぜこれをお持ちなのですか!」
これまでで最大のテンションでヤマトに食い入るようにグレデルフェントが質問をする。
「依頼を受けた時よりも声がでかい気が……まあ、いっか――えっと、これは俺が最後の戦いに臨んだ時に使った装備です。真の力を使ったことで壊れてしまったんですけど……これって役にたちますか?」
苦笑交じりでそう説明したヤマトに、グレデルフェントは感極まったように声も出さず、何度も頷いていた。
「役にたつなんてものじゃないですよ! これがあれば装備の復元ができるはずです! ……ちなみに、真の力を遣ったら壊れたとのことですが、具体的にどのように使ったか教えてもらっても良いですか?」
興味津々な様子のグレデルフェントの質問に頷いたヤマトは、ゲーム時代の最後の戦いについて説明をしていく。
ボスの攻撃を盾で吸収したこと、それを増幅させて剣から放ったこと。
それを聞いたグレデルフェントは驚いている。
「まさかそんな使い方を……しかし、一発で壊れてしまうとは欠陥品なのか、それとも……いや、もしかしたら未完成品だったとか?」
ヤマトの説明を聞くと、ぶつぶつと言いながら思考モードに入ってしまうグレデルフェント。
「よくわからないけど、装備のほうはなんとかなりそうでよかった。あとはルクスの契約数を増やしていくのと、またレベル上げをやらないとだね」
「うん! 一番近いところはどこだろ? ――っとその前にこの塔から移動できるかな?」
ここまでは黄龍に乗ってきたが、ここから移動となると再度屋上まで移動してから飛ぶ手段を考えなければいけない。
「あぁ、それなら私のほうで移動手段を用意しますね」
いつの間にか思考モードから帰ってきていたグレデルフェントが笑顔でそう提案してくる。
「本当ですか? それは助かります!」
ヤマトが礼を言うと、グレデルフェントは肩にかけていた小さなポシェットのようなものをごそごそとあさり始めた。
「……そのカバンになにが?」
ヤマトが疑問を口にするが、その答えはすぐにわかった。
「よいしょ、っと――これを使って下さい」
柔和な笑みを浮かべた彼が取り出したのはとある腕輪だった。
「こ、これは、【魔導船の腕輪】!?」
ヤマトが驚いたそれは、魔導船と呼ばれる空飛ぶ船を呼び出す腕輪だった。
ゲーム内でもとても人気の高いアイテムで、ゲーム内通貨で数千万の値段がつくほどの人気アイテムだった。
「おぉ、ご存知でしたか。これがあればどこでも自由に飛んでいけるはずです。そうそう、塔の屋上とここを行き来する魔法を教えておきましょう――手を出して下さい」
魔導船の腕輪に気をとられていたヤマトは言われるままに右手をグレデルフェントへと差し出す。すると何ごとかぶつぶつ呟いたグレデルフェントの言葉に反応するように一瞬ヤマトの掌が淡く光った。
「――はい、これで完了です。この塔の屋上とここを移動する魔法で、範囲内にいるパーティメンバーを一緒に移動させることができます。名前は――考えていませんでしたが、“塔移動”で……すいませんネーミングセンスがなくて」
グレデルフェントはそう言って苦笑していた。
「分かりやすくていいと思います。本当になにからなにまでありがとうございます! きっと期待に応えられるようにがんばります!」
「うんっ! 気合入れてー、がんばろーっ!」
「はい、私もがんばります!」
『うむ』
「ヒヒーン」
爽やかな笑みを浮かべたヤマトの宣言に、仲間も笑顔で同調する。
それを見たグレデルフェントもまたつられるように笑顔になっていた。
ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541
ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487
エクリプス:聖馬LV672
ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV599
ガルプ:黄竜LV226
魔導船の腕輪
金色の魔導効率のよい金属で作られ、船が進む姿をモチーフとした細かい装飾が成された腕輪。
装着し、呼びかけると、どこからともなく魔導船が現れるもの。
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