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第十一話


「お、魔法の壁もここまでなんだ。ダンジョンだから修復作用が働くんだろうね」

 音の正体はヤマトが作り出した氷の壁が徐々に元の木質なものへと戻っていくものだった。

 ダンジョンとは生き物のようなもので、一定の状態がベースとして決まっており、その状態を元に戻す作用が自動で働いていた。


 その影響で氷が溶け、氷像となっていたアーマリーオーガも氷の支えを無くしてガシャンと音をたてて地面に倒れた。

「この鎧ももらえるのかな?」

 それもゲーム時代にはありえない発想だったが、ミノタウロスソードの件を考えればできる可能性があった。


 何かあってもすぐに行動がとれるように構えつつもヤマトはなんとか鎧を引きはがしてそれをアイテムボックスに入れてみる。

「……できるもんだね」

 一覧を確認すると、【デビルメイル】と表示されていた。名前に反して見た目は一般的な鎧と大差のないものだった。


「これがデビルという名を冠する理由かな」

 一度取り出して鎧の中を覗くと、内側に魔法陣やルーン文字が詳細に刻まれていた。

「効果はわかるかな?」

 もう一度アイテムボックスに入れたあと、ヤマトはアイテム一覧のデビルメイルの欄を押して、詳細メッセージを確認する。


「ふむふむ、モンスターの力を増幅する力があるのか。それでアーマリーになると通常のオーガよりも格段に強くなるんだね――うん、勉強になった」

 モンスターのアイテムなどゲーム時には見る機会のなかったものが見られて、ヤマトは長年の謎が解けたことにスッキリとした気分になっていた。その間にアーマリーオーガも消えている。


「……っと、そろそろ出ないと転移魔法陣が閉じちゃうか。急ごう!」

 転移魔法陣は一定の時間がたつと消えてしまう。それはダンジョンが再生機能で新たなボスをまた配置するからだ。少し慌てたようにヤマトは転移魔法陣に乗って外へと転移する。


 出た先は陽樹の迷宮の入り口のすぐ近くだった。

「おぉ、無事に出てきたようだな」

 ダンジョンを出たヤマトを発見したのは、最初に入り口にいたやや偉そうな口調の兵士だった。


「あぁ、ここは入り口のすぐ近くなんですね。はい、なんとか無事に攻略することができました」

 爽やかな笑顔でヤマトは彼に攻略完了を伝える。

「ふむ、やはり私の眼に間違いはなかったようだな。さすがの慧眼だ」

 ヤマトのことを心配していた、というより、兵士は見る目があった自分のことを自分で称賛していた。


 そしてそんな態度の兵士の後ろでは入った時と同様に、別の兵士が必死にぺこぺことら頭を下げていた。


「はい、おかげさまで無事にボスを倒すことができました」

 別の兵士の苦労を思いやりながら、ヤマトは偉そうな兵士の言葉を気にせずに受け止める。彼の謙虚な態度に、偉そうな兵士の鼻はどんどん高くなっているようだった。


「うむうむ、お前はなかなか見どころがありそうだな。よろしい、それならばよいことを教えよう。街に戻って南に向かうと良い。そこにはガルバの口というダンジョンがある。ここを攻略できる力を持っているなら、そちらも行くと良いだろう」

 ふんぞり返ってそう言い放つ偉そうな兵士の言葉に、さすがのヤマトも微妙な表情になる。


「……お、おい、ここに来たってことはガルバにはもう行ったってことなんじゃないのか?」

 慌てたように別の兵士が彼にこそこそと耳打ちをする。ヤマトは微妙な表情のままぎこちなく頷いていた。

「そ、そうか、そうだな、それなら……」

 自分の失態にカッと頬を赤くしながらも、何かアドバイス的なものをどうしても言いたいようで、偉そうな兵士は腕を組んで考え込む。


「えっと……もう行ってもいいですか……?」

「いや、待て! 待ってくれ! 今、思い出すから!」

 偉そうな兵士は今にもいなくなってしまいそうなヤマトの言葉に焦っている様子で、口調も崩れ始めていた。


「そ、そうだ、街から東に行くとダンジョンがある! 名前は忘れたが、そこに行くと良いだろう」

 ぱっと思いついたように偉そうな兵士がなんとかひねり出した情報は曖昧なものだったが、ヤマトはそれに内心興味を持っていた。

「なるほど、ありがとうございます!」

 有益な情報をくれたことに感謝しながらヤマトは笑顔で礼を言った。


 その時、ヤマトはゲーム時代の記憶を呼び起こすが、デザルガの街の東にはダンジョンはなかった。ゲームとの違いをそこかしこで感じていたヤマトだったが、これはかなり大きな違いだろうと笑顔になっていた。


「それじゃ、疲れたので街に戻りますね。色々ありがとうございました!」

 二人に一礼をして、ヤマトは街へと歩を進めていく。






「――やっぱり、新要素があるのは楽しみだなあ」

 街への道を歩きながら、ヤマトは二人から距離をとったところで嬉しそうに呟く。彼にとって、この世界がゲームであるか異世界であるかはどちらでもよかった。

 差があるのは、アップデートされたためだろうという感覚を持っているためだった。


 エンピリアルオンラインは十五年も続いていたゲーム。世界最大のVRMMOだけあり、何度も修正、アップデートを繰り返していたため、仕様変更は定期的に起こるものだ。その延長だと思えば逆に彼にとっては楽しみの一つでしかない。


「でも、東のダンジョンは後回しかな」

 そこかしこに面白そうなものが転がっている。しかし、彼が優先させるのはユイナとの再会だった。

「――早くユイナに会いたいな……」

 目に浮かぶのは一人で不安になっているかもしれないユイナ。いつも自分がいる時にだけログインすると決めていた健気さもあるそんな彼女のことを少しでも早く安心させたい。それが彼の心の大部分を占めていた。


「よし、街に戻ったら移動手段を確保しよう」

 街にはマウントショップ――通称乗り物屋と呼ばれる店があるため、ヤマトの意識はそちらに向いていた。この先は自力で移動するよりもずっと早い方がユイナに早く再会できるはずだと。


 ユイナのことを思うと少しでも早く先に進みたいという気持ちが生まれ、自然と足取りは早くなる。

 

 街に戻る道中では何体かのモンスターと遭遇したが、魔術士のレベルがあがっているヤマトは炎の魔法で近づく前にそれらを倒すことで、前進する足を止めずに移動したまま、止めを刺していた。


 モンスターを倒しながら走り続けたヤマトはあっという間にデザルガの街に戻って来ることになる。

「よし、それじゃまずは乗り物屋だな」

 街の西門から近い場所に乗り物屋は存在しており、すぐにヤマトは店に到着する。こじんまりした目立たない地味なデザインの店だった。


「いらっしゃいませ」

 入店を知らせる木製のおもちゃの音で顔を上げた店員はヤマトの姿を見つけ、カウンターの奥から静かに声をかけてくる。

「ご自由にご覧ください。何か探しているものがあれば、ご相談にのりますのでお気軽にどうぞ」

 それだけ言うと、店員は再びカウンターの奥で、手元の本に視線を落とす。


 乗り物屋といっても、店内に陳列されているのはマウント――つまり乗り物を呼び出す呼び笛のようなものだった。特に生き物の姿はない。


「なるほど、こんな風に並んでいるのか……ゲームだとメニュー画面から選ぶだけだったからなあ。それじゃ、とりあえずこれにしようかな」

 ゲーム時代のマウントを全てコンプリートしていたヤマト。静かな空間でぐるりと狭い店内を見回すが、もともと何を選択するかあたりをつけており、それを見つけると迷わずに手に取る。

 その呼び笛を持ってカウンターに向かうと、店員はそれに気づき本を閉じる。


「えーっと、こちらはいわゆる一般的な茶色の馬を呼び出すものですがよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 簡単なやりとりをして、ヤマトは馬の呼び笛を購入した。

 他の乗り物屋ではモンスターをマウント用に調教しているところもあるが、そもそもこの店では色違いの馬や、ダチョウのような鳥の呼び笛が売っている程度であった。



ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18

ユイナ:弓士LV8



デビルメイル

 アーマリーオーガが装備していた強固な鎧。

 外装は普通の鎧だが中には魔法陣やルーン文字が刻まれ、モンスターの力を増幅する効果がある。


 馬の呼び笛

  馬を呼び出すことができる笛。呼び出した馬は体力がなくなるまでは、騎乗することができる。

  ヤマトが購入したのは、一般的なもので時間にして八時間程度は乗ることができる。


お読みいただきありがとうございます。

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