第百十六話
「さてみんな、驚いているところ悪いんだけど、確認できる人はステータスを見てもらえるかな?」
ヤマトのこの言葉は主にルクスに向いていた。ルクスは自分自身と契約しているガルプのステータスを確認することができるからだ。
「――ヤマト! すっごいレベル上がったよ!」
あれだけの数を倒したからには一気にレベルが上がることはわかっていたが、それでもユイナが驚くほどにレベルが一気に上がっていた。頬を上気させたユイナが、喜びそのままに勢いよくヤマトに抱き着く。
「……えっ?」
『どうした、マスタールクス。間抜けな顔になっているが』
口をポカーンと開けて自分のステータスを見ているルクス。
「ええええええええぇぇぇぇええ! な、なんでこんなに!? ……いえ、大量の経験値とは聞いていましたけど……まさか、こんなに」
ステータス画面から目を離さないルクスは、驚きと動揺と困惑と様々な気持ちが入り混じっていた。
「ははっ、本当に結構上がったねえ。全部で百匹くらいは倒せたかな?」
ユイナにくっつかれつつも、自身とエクリプスのステータスを確認したヤマトは笑顔になる。
魔法で動きを止めてプラチナバタフライを一気に倒したが、途中で横に逃げていったものや竜巻で動きを止められなかったものもいたため、最終的にはヤマトが推測した100に近い96匹、倒せていた。
「うんうんっ、結構素材も手に入ったし、ほーんと美味しいねえ!」
ステータスだけでなく、アイテムボックスも確認したユイナは、ホクホクの満足顔だった。
『しかし、これほどの成果がでるのであれば、再び倒せばすぐに最強の力が手に入るのでは?』
ガルプは再度同じ手法でプラチナバタフライを倒せば――そう提言している。
「あー、それ思うよね。俺もユイナも同じことを思って、やろうとしたんだけど……そうそううまくいかないんだよ」
頬を掻きながらヤマトは苦笑している。それは過去の経験を思い出したがゆえの反応だった。
「うんとねえ、ガルプ。プラチナバタフライは全ての個体が情報を共有しているんだよー。それで、一度プラチナバタフライを倒した人の匂いとか気配とかは完全に覚えられちゃうみたいなんだよね。んでもって、覚えられたら十キロくらい離れていても感知されて逃げられちゃうんだよー」
困ったように笑うユイナの説明を聞いて、ガルプは閉口してしまう。
「まあ、そう簡単に美味い話はないってことだよ。ゲーム的な話でいうと、一回限りのボーナスイベントって感じなんだろうね。まあ、ここの塔の中まで入れるのは一部の人間――かなりやりこんでる人だけだからね。その人たちに対するちょっとしたボーナスってところだと思うよ」
ユイナと同じように笑うヤマトが話を引き継ぐ。
本来、今回のように大量に倒すことができるのは極稀なことであり、普通は数匹倒せる程度であった。むしろこれだけの結果を得られたというだけでも上々なのである。
『なるほど、それでも今回のレベルアップはかなり戦力強化を測れた。ならば結果としては極上々といったところか』
ふむ、と考え込んだガルプは思考を切り替え、大量レベルアップできたことに満足していた。
「まあ、そういうことだね。これだけの力が手に入ればそうそう負けることはないし、最初に戦ったテイルリザードの群れくらいなら単体であっさりと倒せるのは楽だね」
自分たちの力が強化されたことは、死亡確率を下げ、また戦闘効率を上げる。
そして、今回のレベルアップ量はヤマトの予定どおり、十分な成果を得ていた。
「うん、みんなもすごく強くなったから一階にもいけそうだね!」
ユイナのこの言葉に、ルクスとガルプは首をひねっていた。
「あぁ、二人はわからないよね。ここはボーナスステージとして、ここから上はまあ普通のエリアになるんだけど、もう少し進んで50階から下は、敵のレベルが一気に100や200上がるんだよ」
言葉足らずな彼女の説明を引き継いだヤマトはニコニコと笑顔で答える。
ここまでは一階降りるごとに数レベルアップする程度だったため、ゆっくりと進めば余裕を持っていけたが、一気に100や200上がってはそうもいえなかった。
「でもでもっ、今の私たちなら余裕だね!」
息荒くユイナは力こぶを作ってそう言う。
その言葉通り、50階から下っても今のヤマトたちであれば問題なく対処できるレベルになっていた。
「うん、それじゃあ調子にのってどんどんいこうか」
いたずらっ子のように笑ったヤマトの言葉にみんなが頷いて、再度下層へと進んでいく。
それから50階まで様々なフロアが彼らを待ち受けていたが、誰一人怪我一つすることなく、問題なく進んでいった。
「――いよいよ、ここからが50階になるけど……まあ、大丈夫だよね」
ヤマトは油断しているような口ぶりだったが、それは自分たちの実力を十分に把握しているためだった。
敵のレベルがかなり上がったものの、事実、ここからの戦いもこれまでと同じように苦戦することなく進むことができた。
次々に襲い掛かってくる敵は全て倒していき、レベルアップに伴って新たに習得したスキルや仲間との連携技の練習などをしていく。
「……といっても、さすがに一気に強くなると結構疲れるね」
「んーっ、楽しいけど……戦いっぱなしっていうのはちょっと、ね」
敵の強さについても問題だったが、それ以上に大変なのは疲労の問題だった。
50層までは休憩できる安全な階が途中途中に用意されていたが、50層以降はそれが存在しない。
しかもモンスターは無限湧きであるため、休息をとるのが難しかった。
「でも、ここはさすがにモンスターが出てこないから、降りる前に少し休憩しよう」
戦い進んでいく内に、ヤマトたちは既に地上二階にまで到達していた。そこにいたモンスターも既に討伐済みだ。
二階にはフロアの中央に巨大なモンスターが一体いるだけであり、どうやらリポップはせず一度倒しただけで終わりとなったようだった。もちろんレベルが700を超えたヤマトを中心としたメンバーにとってはいくら地上に近い敵ほどレベルが高くても、手ごわい敵ではなかった。
「はあ……さすがに疲れました」
戦い終えた瞬間、そう言ってルクスはぽすんとその場に座り込んだ。ガルプがふわふわとその隣で浮遊している。
「ルクスお疲れさまー! はい、これ飲んで、ヤマトもガルプもエクリプスもどうぞー」
元気よく声をかけたユイナはアイテムボックスから取り出した栄養ドリンクを配布していく。
味のほうも甘めになっているもので、口当たりもよく、疲れを癒やしていく特別なドリンクだった。
「ふう、生き返るね」
「ありがとうございます。身体が楽になります」
『ふむ、このようなものがあるとは便利だな』
「ヒヒーン!」
四者がそれぞれの反応を示しながら、つかの間の休憩で身体を休めていた。
次はいよいよ一階。
何があるかわからないため、心も身体も十分な準備をしておく必要があった。
ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541
ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487
エクリプス:聖馬LV672
ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV599
ガルプ:黄竜LV226
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