第百十四話
エクリプスの大活躍もあって、モンスターは三人の力で一掃された。綺麗な平原が穏やかに広がっている。
「いやあ、すごいなあ。俺たちが手を出すことなく終わっちゃったねえ」
「ねー、なんていうか……すっごく心強ーいっ!」
出番がなく、手持ち無沙汰になってしまったが、ヤマトたちは嬉しそうに笑い合っていた。
エクリプスたちはこれから先、強力な敵を相手にした際に確実な戦力になる。
そのことを感じさせる三人の戦い振りは最強プレイヤーとして名をはせていたヤマトとユイナの目から見ても、十分な実力を感じさせるものだった。
「お待たせしました、ご主人様! 全て倒せました! ほとんどエクリプス殿の活躍のおかげでしたけど……」
駆け足で戻ってきたルクスは苦笑しながらそう言ったが、彼とガルプも十分に活躍していたのをヤマトたちは見ていた。
「確かにエクリプスはすごかったけど、二人も十分強かったよ。連携技もたくさん決まってたし、いいコンビだった。――それに……エクリプスがちょっと規格外なだけな気がするなあ」
褒めるところはきちんと褒めるヤマト。
この世界に来てからというもの、ここまで数多くゲームではなかった設定を確認してきた。
しかし、その中でもエクリプスの強さはかなり予想外のものであった。
「ヒヒーン!」
それを誇らしそうに高らかに鳴くエクリプス。自身でも自分の強さを自負しているようだった。思う存分戦えたのが気持ちよかったのだろう。ヤマトに褒められて嬉しそうに彼の頬に顔を擦りよせている。
「うん、ちょっとエクリプスはやばいよね。私たちに追いつく日も近いかも……」
ユイナはエクリプスの身体を撫でながらこっそり危機感を抱く。
一つの攻撃方法だけで、多くのモンスターを撃破するエクリプス。それだけで十分すごかったが、これから成長するのではないかと考えると末恐ろしさを感じる。
「まあ、エクリプスがすごいのは戦力と考えれば良いことだから、今後もがんばってもらうとしよう。……それよりも、俺たちが向かう先のことを少し話しておこうか」
この段階であれだけの敵が出てきたことを考えると、先に向けて情報を共有しておく必要があるとヤマトは考えていた。真剣な表情で話を切り出す。
長くなりそうなため、その場に座り込んで話をする。
「ここは塔の最上層から一つ降りたフロアになる。まさかここからいきなり平野エリアになっているとは思わなかったけど……それはそれとしてここからどんどん降りて行くことになる。目的のエリアは一番下の一階かな」
そう言ってヤマトが指差したのは下の方角。ユイナもニコニコと笑顔で頷いていた。
「一階、ですか!?」
この塔の大きさからこの先のことを想像したルクスは驚愕の表情になっている。
「あぁ……まあそうなるよね。だって、外から見ても何十階、もしかしたら何百階あるかもしれないからね」
ルクスが驚くのは当然のことだと、ヤマトも苦笑交じりに理解していた。
「それには……あのままだとまずいよね」
考え込むような表情のユイナは、この塔をゲーム時代にも経験しているがゆえに、冷静に判断していた。
「そう、だね……」
同じ考えに至ったのか、ヤマトはこれから進む先を考えて、表情を曇らせる。
「……その、まずいというのは?」
二人の暗い表情をみたルクスは不安を抱く。何が最もまずい点なのか、確認のため質問する。
「うーん、とりあえず一番は時間かな。今回三人ががんばってくれたおかげでモンスターを倒すことに成功したけど、同じレベルの敵が次の階にもいたとしたら同じだけ時間がかかる。先へ進むわけだし、強いのも出る可能性だって十分にある――つまり、一番下に行くには相当の時間がかかるってこと」
困ったような表情でヤマトが答えると、少し俯いていたユイナが急にばっと立ち上がった。
「うっし、私とヤマトも本気を出さないとだね! あと、ルクスもエクリプスもガルプもレベルが上がったから、きっと大丈夫! どーんどん強くなれるよーっ!」
腕を大きく広げて元気よく彼女がそう宣言すると、つられるようにヤマトの表情も明るくなる。
「だよね。うん、どうも一人で色々考えると良くない方向にばかり向いちゃうな……」
「ふふっ、だーかーらー、私がいるんでしょ?」
妖艶な雰囲気をにじませつつ、二ッと笑うユイナに、ヤマトは心が熱く震えたのを感じた。
普段作戦などを考えて引っ張っていくのはヤマトだったが、こんな時に気持ちを盛り上げてくれるのはユイナ。自然と役割分担をし、互いを支え合ってきた二人が夫婦となったのはこのあたりにあるのかもしれない。
「お二人はやはり仲がよろしいですね」
二人の世界を作り出すヤマトとユイナを微笑みながら温かいまなざしで見ていたルクスも、いつしか先ほどまでの絶望感が消えうせていた。
『ふむ、これは私も強くならねばな。みなの足手まといにならないようにがんばっていこう』
「ヒヒーン」
ガルプもエクリプスも同様に強い決意を持っていた。
「――それじゃあ、下に行こうか。さっきは大変なことしか話さなかったけど、途中で一気にレベルがあげられる場所もあるから、まずはそこを目指して頑張っていこう」
気持ちも新たに立ち上がったヤマトがリーダーシップを発揮して、みんなを先導していく。
ここからが壮絶な戦いの幕あけだった。
ある階では、テイルリザードが最初のフロアの数倍の数現れた。
またある階ではレベル200を超える、フレイムストーンベアという炎を身にまとった強力なモンスターが現れた。
他の階では巨大な竜種のモンスターが現れたが、連携を駆使してなんとか倒すことに成功する。
そして彼らの現在いる階層は、最上層より200層ほど下った場所。
ここは他のフロアと異なり、モンスターは現れず、回復の泉や、果物のなっている木々があった。
いわゆる休憩スポットとなっており、穏やかで美しい空間となっていた。
「ふー……一気に来たけど結構きついなあ。思っていたよりレベルの高い敵が多い……ゲームの頃とかなり変わってるね」
「うんうん! でも、これはこれで楽しいね!! 戦ったことがあっても、前とは強さや技が違うから面白くって!」
一息吐いたヤマトを癒やすユイナは、この塔での戦いを楽しんでいた。元々強い敵を倒すのが好きな彼らは心地よい疲れと達成感に包まれている。
この段階で、ヤマトとユイナはメイン職業のレベルが400をこえていた。
エクリプスとルクスも300を超え、竜種であるがゆえにレベルが上がりづらいガルプですら100レベルを超えていた。
「実戦に勝る経験なしと言いますが、まさにそのとおりですね。スキル、武器、身体の使い方――徐々に自分の力が強くなっているのを感じています。お二人とエクリプス殿に比べるとまだまだですが……」
『マスタールクスはかなり強くなった。こちらのお三方と共にいるとわかりづらい部分もあるが、かなり強い。悲観する必要はないぞ』
どうしても自身の力をヤマトたちと比べてしまうルクスのことをガルプがフォローしている。
二人の絆も戦いの中で強く結びついてきていた。芯の強さを持つルクスにほれ込んでついてきたガルプだが、こうして主人と認めた者を支える役割も悪くないと思い始めている。
のんびりと尻尾を揺らしたエクリプスはそんな仲間たちのことを見て、穏やかに目を細めて休むように地面に伏せた。
ヤマト:剣聖LV425、大魔導士LV335、聖銃剣士LV281
ユイナ:弓聖LV423、聖女LV327、聖強化士LV284、銃士LV222、森の巫女LV267
エクリプス:聖馬LV372
ルクス:聖槍士LV356、サモナーLV391
ガルプ:黄竜LV106
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