第百十三話
彼らが降り立った塔の一番上の階はそれほど広くない部屋。
罠もモンスターもなく、階段も見える範囲にあるため、すぐに一つ下の階に降りることができた。
塔の中は窓が見当たらない室内だと言うのが不思議なほど、明るさが保たれている。
「……はっ?」
「えぇっ?」
しかし、次のフロアに入った途端、広大な部屋になったため、ヤマトとユイナは驚くことになる。
そしてそのフロアはただ広いだけでなく、まるで平原であるかのように、地面には青々とした草が生えていた。
この塔は外の大きさと中の広さが合わないことは当然ながら、途中にそういったフロアがあることは二人も知っていたが、いきなりそれがくると思っていなかったため、思わず変な声を出してしまう。
「どうしました? 何かおかしいところでも?」
ルクスはここがダンジョンであると認識しているため、急にこのようなフロアがあっても驚いている様子はない。ガルプもエクリプスも落ち着いている。
「いや、その、思っていたのと違うというか……ここってこんなだったっけ?」
「うーん、もっと普通の大きさのフロアだったような気がするけど……それで何十階っていう区切りの階だけ特別になってる、みたいな感じじゃなかったかなぁ……」
困ったような表情でヤマトは念のためユイナに確認するが、彼女の記憶でもここは普通のフロアのはずだった。
「――お二人の記憶にある塔と違う?」
そのルクスの言葉に、ヤマトとユイナは頷いた。
「……まあ、行くしかないんだけどね」
「だねっ」
驚きはあったものの、ここまできて引き返すという案はありえないと思い、ヤマトは前に進むことにする。ユイナも、新しいダンジョンを探索する気持ちになればいいやと前向きに彼の後ろをついていく。
「ふふっ、やはりお二人はそうでなくては」
迷いがなくなった二人の背中は頼もしく、ルクスにも自然と勇気が湧き上がっていた。エクリプスもガルプもその後ろをついていく。
「さて、これだけの広さのフロアで何もないということはさすがにないみたいだね」
少し進んだ先で、ヤマトは足を止め、前方に視線を向ける。そこにはモンスターの群れがたむろしていた。
アニマ族の街の大平原ほどではないが、ここもかなりの数のモンスターが闊歩している。
「わぁーっ、これは倒しがいがあるねっ」
やれやれといった様子のヤマトに対して、手をおでこのあたりにあてて先を見渡すユイナはワクワクしていた。
「敵はそれほど強くないようですね――エクリプス殿、ガルプ殿、まずは我々が行きましょう!」
勇ましく槍を構えたルクスは、レベルの低いモンスターと戦うにあたって、ヤマトたちの手を煩わせるわけにはいかないと先行していく。エクリプスもガルプもやる気を見せてついて行った。
モンスターは体長2,3メートルほどある大きなトカゲのような姿をしており、テイルリザードという名前だ。
レベルは100レベルで、その名のとおり、尻尾が他のトカゲ種のモンスターよりも発達しているが、ここ最近戦ったモンスターの中でも弱いモンスターであった。
「ヒヒーン」
力強く駆け出し、いち早くモンスターの集団に接触したエクリプスは次々にモンスターを踏み抜いていく。
彼の攻撃方法は単調なもので、蹄で思い切り蹴る、もしくは踏みつぶすものだった。
しかし、その黄龍の鱗すらぶち抜く一撃は防げるものではなく、またエクリプスの身体能力の高さを考えると、レベルの低いテイルリザードにおよそ避けられるものでもなかった。
容赦なく攻撃を繰り出すエクリプスに翻弄されて抵抗むなしくやられていき、その数を減らしていた。
「さすがエクリプス殿……こちらも負けてられませんね! ガルプ殿は援護をお願いします!」
レベルの低いガルプに直接戦わせるわけにはいかないと考えたルクスは走りながらそう指示する。
『あなどってもらっては困る。しかし、知らないのでは仕方ないか……なれば私の力を見せよう、マスターよ』
少し不満そうにつぶやいたガルプは自分の力を見せつけるように飛び出し、鋭い爪でテイルリザードへと攻撃を加えていく。
上空から攻撃をしようとする小さき竜を見て、テイルリザードも同じようなことを思ったのか、ガルプを睨み付けると太く長い尻尾を思い切り振り回してガルプを攻撃する。
攻撃速度も速く、強力な一撃によってガルプが思い切り吹き飛ばされてしまう――そう考えたルクスだったが、現実は異なる。
「GYAAAAA!」
悲鳴を上げたのはテイルリザードのほうだった。
「――なっ!?」
そして、目の前で全てを見ていたルクスは驚かされる。
ガルプの爪とテイルリザードの尻尾。
それぞれの武器が衝突し、普通であれば圧倒的にレベルの高い後者が有利なはずである。
『ふふふ、そのような武器では私の爪に対抗することはできないぞ』
目を細めてテイルリザードを挑戦的に見ているガルプの爪は、相手の尻尾を真っ二つに切り裂いている。
「す、すごい……あ、止めを」
ガルプの攻撃に苦しみ、のたうち回る一匹のテイルリザードに、ルクスがとどめを刺す。
『これで私の力はわかっていただけたかな? マスタールクス』
くるりと振り返り、ドヤ顔になる子竜ガルプ。レベルだけでは測れない実力があるのだと証明してみせた。
「え、えぇ……どうしてレベルが低いのにそれだけの力を持っているのかわかりませんが……。はい、私が間違っていました。ガルプ殿は強い! ともに戦いましょう!」
戸惑いながらもガルプの力を素直に認めるルクス。むしろ自分と契約してくれたガルプがそれほどの力を持っていることを自分のことのように喜んでいた。
気持ちが通じ合うようにガルプもまた喜びを表すように羽ばたいて見せた。
そして、その間も攻撃の手を緩めないエクリプス。
ルクスたちが信頼関係を構築しているのをよそに、テイルリザードを駆逐する勢いで暴れるエクリプスの猛攻で、次々とモンスターは倒されていった。
「――エクリプス、すごいね……」
「う、うん。あんなに強いなんて……」
後方からその戦い振り見たヤマトとユイナは驚いていた。
乗り物である馬などと共に戦うというシステムはゲームの頃から存在していたが、エクリプスのはその頃いた馬と比較しても、圧倒的なまでの実力を持っていた。
「……あと、ユイナ気づいている?」
「あー、うん。アレだよね。なんであんなことになっているんだろ……?」
真剣な表情の二人の視線が集まっているのはガルプだった。視線の先ではガルプが得意の爪攻撃を繰り出し、ルクスの戦いをサポートしている。
黄龍の息子であるガルプは召喚獣というくくりでルクスと契約したはずだった。
基本的に召喚獣とは、サモナーが召喚することでこちらの世界に顕現する。
そして、存在している間はサモナーの魔力を消費していき、与えられた魔力がなくなれば消えてしまう――そういうものだった。
だが、ガルプは最初に召喚されてからだいぶ経っているが、ルクスとともにずっと存在している。ルクスにも魔力消費の疲労などは見られないため、通常の召喚獣とは異なる存在であるように見える。
それはまるで、エクリプスと同じようにそこに存在する仲間であるように見えた。
「ステータス見ても、ルクスの魔力減ってないもんねえ」
不思議そうな顔でユイナがルクスのステータスを確認しながら言う。
もし、召喚された存在であれば、ウルなどの精霊と同じようにルクスの魔力を終始吸っているはずだった。
これはゲームではありえない設定だと判断した二人は同じ思いを抱く。
「――やっぱり、面白いね」
「うんっ!」
それは二人に未知の可能性を提示してくれるため、新しい面白さを与えてくれていた。
ヤマト:剣聖LV235、大魔導士LV232、聖銃剣士LV142
ユイナ:弓聖LV233、聖女LV225、聖強化士LV171、銃士LV109、森の巫女LV155
エクリプス:聖馬LV197
ルクス:聖槍士LV180、サモナーLV206
ガルプ:黄竜LV6
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