第百八話
道中、また何度かワイバーンとの戦闘があったが、今度はユイナが戦闘し、こちらもあっさりと勝利を収めていく。
ルクスも精霊の力を頼りに数体のワイバーンを倒すことに成功している。
着実にレベルを上げている一行は、ついに山頂へと到着する。
そこは小さな花々が寄り添うように咲き誇るとても綺麗な花畑があるが、その中央には草花がなく、ぽっかりと何かが着地するためのエリアが確保されている。
「何も、いないみたいですね……?」
綺麗な風景を目の前にきょろきょろと周囲を見渡すルクス。
頂上のエリアにはなんの気配もなく、穏やかな風が吹いている。ただそれだけだった。
「恐らくここに来たことには気づいていると思うんだけど……」
「何かアクションが必要になるのかなあ?」
彼らの記憶が正しければこの場所に黄竜がいるはずであり、ヤマトは最初にワイバーンを倒したあとに竜種の強い気配を感じ取っていた。おそらくずっと見られているのだろうと思っていたのだ。
「それじゃ、少し目立とうか。“フレイムワークス”!」
花火を打ち出す魔法“ファイアーワークス”。
それを強化して、規模の大きくなったファイアーワークスを複数同時に発動する魔法がフレイムワークスだ。
新年イベントなどの際に使うお祭り魔法。
それをヤマトはこの場所で発動する。花火を打ち上げることで、この場所の注目度をあげていく。
大きな爆発音とともにぱっと上空に咲き誇る光の花。黄色や赤、緑に青などカラフルな光の花が大きくいくつも放たれた。
「わわわっ! こ、これはなんですか!?」
ルクスは突如放ったヤマトの魔法に驚いている。
この主人についていくと、驚かされることばかりだと、心臓をバクバクさせながら、それを喜びにも感じていた。空に広がる光の花を目を輝かせて見ている。
エクリプスも大きな音に驚いているようだが、ヤマトが放った魔法だと分かるとその綺麗さをじっと見ていた。
「さて、これにつられてくるといいんだけど……」
目的を果たす方を優先したヤマトはルクスへの説明はせず、花火が消えた空をただひたすらに注視していた。
その間に花火に関する説明をユイナがする。このヤマトの魔法はゲーム時代に何度も彼女を喜ばせていたため、それらのエピソードもこっそり交えた。
しばらくすると、空気が変わったのを一同が感じる。
「――来た」
ぼそりと呟くヤマトだったが、その表情は固く、いつでも攻撃できるように両手の武器を握りしめていた。
「ルクスとエクリプスも戦える準備をしておいてね」
ふわりとほほ笑んでそう言うユイナもしっかりと弓を構えていた。
『山を騒がしているのは貴様らか……一体なにゆえ、かようなことをするのだ』
突如空から花畑の中心の地面に降りてきたのは美しい黄色い鱗を持つ竜だった。
大きさはヤマトの数倍の大きさであり、見上げることでやっと顔を確認することができる。
竜は花を散らさないようにゆっくりと着地した。
「俺たちは冒険者です。この山には召喚獣契約をするためにやってきました」
ヤマトの真剣な言葉に、じっと彼らを見つめた竜はすうっと目を細める。
『召喚獣……お主ではないな、そちらの猫か。そやつが契約を求めてやってきた、と』
メンバーを一瞥した竜は鋭い視線でルクスのことを射貫く。そのとき覇気のような威圧がぶわりとルクスに叩きつけられる。
「ぐっ……そ、その通りです。私が新たに力を得るため、あなたとの契約のため、この山にやってきました!」
気圧されながらも、自分のことであるため、ルクスは気合を漲らせて踏ん張ると、はっきりとその事実を自らの口で伝える。
出していた精霊――ウルは黄竜の威圧に負けて帰還してしまっている。
『ふーむ、弱いようだが芯に強さはあるようだな』
何か納得したように唸る竜はルクスのことを侮ることなく、内に宿る強さを感じ取っていた。
「なら!」
認めてくれたのかとルクスは表情を明るくして喜ぶが、ヤマトとユイナの表情は厳しいままだった。
『そなたの力を見せてみよ、それができれば契約の道も開けようぞ!――GAAAAAAAAAAAAAAA!」
ルクスたちに発破をかけるように竜は大きく口を開けると大きく咆哮し、その声はドラゴンズランス中に響き渡った。
間近でそれを受けたヤマトたちは強風が吹き抜けたような勢いとビリビリと空気が震えるのを感じていた。
竜はヤマトたちが襲い来るのをその場から動かず、今か今かと待っている。
「さあ、ユイナ、ルクス、エクリプス――ここからが本番だ!」
だがこの程度で怯むヤマトたちではない。
ヤマトは三人に声をかけると、先行して竜へと向かって走り出した。
「二人とも準備はいいよね? 私も動くから、二人もうまく立ち回ってね!」
ぱちんとウインクしたユイナも二人に声をかけ、弓による攻撃を行いやすそうな場所へと走っていく。
広場の端のほうに大きな岩があるため、その上を第一の攻撃開始場所にする。
「エクリプス殿、我々も参りましょう」
「ヒヒーン!」
そして、残った二人もヤマトたちに続いていく。
「でかいな、でもやれる!」
先行したヤマトは剣を手に、正面から突っ込んでいき、竜との戦闘を開始していた。
いくらレベル上げをしていても、竜種との戦いは激戦になることが予想される。だがその緊張感がヤマトの高揚感をさらに高めていく。
『矮小な人間が、そのような小さき剣を持って我と正面切って戦うと言うのか』
それは、竜のプライドを傷つけ、怒りを買うことになる。
通常、サイズの大きな竜種と戦う際にはそれぞれがバラバラに散って、足元など攻撃しづらい場所に潜り込んで戦闘開始する。
しかし、ヤマトは黄竜の正面にたっており、一切隠れる様子はみられない。
更に、ユイナも離れてはいたが、堂々と攻撃姿勢をとっている。
「あぁ、その通りだよ。――人間の力をあまり舐めない方がいい!」
好戦的に薄く笑ったヤマトは先制攻撃をする。サイズ差が大きいため、剣を手に大きく飛び上がって竜の顔に向かっていく。
『ふん、そんなもの。撃ち落としてくれる』
つまらなさそうに鼻を鳴らした竜は飛び上がったヤマトに向かって大きな腕を振りかぶり、そのまま撃ち落とそうとした。
『――なに!?』
しかし、竜は驚くこととなる。手ごたえが全くないのだ。
完全に撃ち落としたタイミングであったにも関わらず、ヤマトの姿はどこにもなかった。
「悪いけど、それは当たらないよ」
はっきりと聞こえる範囲でヤマトの声がするが、どこにいるのかわからない。
「いま!」
そして、混乱している竜に向かって狙いすましたようにユイナが矢を放つ。
聖強化士としての力も付与された矢は相当強化されている。そしてその効果を存分に発揮できるように目や口など粘膜分部である強度の低い場所を狙っていた。
『ちょこざいな!』
飛んでくる矢を今度も手で振り払おうとする。手に当たった矢はそのままはじけ飛んだ。
折れるのは分かるが、最初から何もなかったように消えてしまったことで、竜は自分の身体がおかしくなったのかとも思っていたが、矢を落とせた結果を見る限り、その線はないと判断する。
「――こっちだぞ」
その時、再度ヤマトの声がし、そちらに視線を向けるとヤマトは右の足の前に立っていた。
「剣戟、からの爆発!」
そのまま勢いよく足に切り付け、そして皮膚に切れ目が入ったところで爆発がおきた。
『GAAAAAAAA!』
さすがの竜といえどその攻撃は痛手だった。今度は咆哮ではなく、痛みによる声をあげてしまう。
先ほどと違い、ヤマトが攻撃に使った武器は銃剣、そして攻撃を当てると同時に魔力を爆発させて足にダメージを与えていた。
竜種は基本的に鱗に覆われた皮膚はとても固く、通常であればダメージを負うことはほとんどない。
しかし、ヤマトの一撃はことさら強力であり、ダメージを受けてしまう。
慣れていない痛みは例えかすり傷程度であっても、まるで骨まで砕かれたかのような痛みがあるようで、竜は苦しげに唸って身を固くしている。
「――やっぱり、普段ダメージを喰らわないから、こういうのは痛いだろう!」
ここに勝機があると、痛みに苦しむ竜を見ながらヤマトはにやりとわらった。
ヤマト:剣聖LV226、大魔導士LV222、聖銃剣士LV110
ユイナ:弓聖LV222、聖女LV215、聖強化士LV151、銃士LV98、森の巫女LV127
エクリプス:聖馬LV173
ルクス:聖槍士LV151、サモナーLV183
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