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第百一話


 まちはずれにあるエルエルの家は転送装置のある建物から近くにあり、数分程度で到着した。

 小さいながら温かみのある木造の家は長年住んでいるが、きちんと整備されているのがわかる建物だった。


「大したものはないが、お茶くらい飲んでいってくれ」

 中に入ったヤマトたちは応接間に案内され、温かい茶が用意されていた。


「ありがとうございます。……それで、早速話を聞きたいんですが」

 早く知りたいという気持ちを抑えきれず、遠慮がちながらしっかりと催促するヤマトにエルエルは笑いながら頷く。


「元々はの、先ほどの転移装置を使って、ヴォラーレ諸島の各島での行き来が盛んだったんじゃ。そして、装置を使っていたのはそのほとんどが冒険者じゃった――」

 ゆっくりと語るエルエルの話をそこまで聞いたヤマトとユイナは、どうして転移装置が使われなくなり、さびれていったのかが予想できていた。


「しかし、冒険者たちはいつの日かパタリとヴォラーレ諸島へやってくることがなくなった。……それからは転移装置の使用頻度がどんどん下がっていってのぉ……ついには誰も使うものがいなくなったというわけじゃ。本来、転移装置を使うと身体に負担がかかるからのう。身体を鍛えておる冒険者でなければ、おいそれと使うことはできないんじゃよ」

 悲しげに話すエルエルはそこで一度茶を口に含む。

 確かそんな設定だったなあとヤマトとユイナは思い出していた。


「それでは元々の島の住人はどうやって、島と島の間を移動しているのでしょうか?」

 そっと手をあげたルクスの質問に、穏やかに微笑んだエルエルが頷く。


「そこじゃな。直接見える範囲の島であれば、我々はこの翼を使って空を飛んでの移動も可能なんじゃ。しかし、飛ぶということは落ちる危険性がある。当然、この上空にもモンスターはおるからのう」

 落ちてしまえば終わり――そうあっては、島から島への移動の頻度も減っていく。

 ウィンディア族はとても温厚な性格で争いを好まない。平和を愛する彼らは手の届く範囲で暮らすようになっていったようだ。


「ということは、今はほとんど島々の移動はないということですか……。――だったら、あの島にあった町が廃墟になっているの頷ける、か」

 顎に手をやって考え込むヤマトは最初に移動した島のことを思い出していた。


「そういうことじゃな。そういうことで、転移装置は使われなくなり、小さな島にある町はそのほとんどが放棄され……やがて廃墟になっていった」

 昔を知るエルエルだからこそ、少し悲しそうな表情になり、俯き気味になる。


「なるほど、ではウィンディア族の人たちは……今はバウンディアにそのほとんどがいるということですか?」

 ヤマトの質問に顔を上げたエルエルがゆっくりと頷く。


「そういうことじゃな。転移装置の機能を十全に知っておるのも、もうわしくらいのものじゃろう。わしの一族は代々あの施設のメンテナンスを請け負っていてな、使う者がいなくてもいつか使用の機会があるかもしれないと今も続けていたんじゃが……そのかいもあったというものじゃな」

 ヤマトたちを温かいまなざしで見るエルエルのその言葉、表情からは喜びが見てとれる。自分のやってきたことが無駄ではなかったことを彼らが証明してくれたからだろう。


「では……俺たちが使うまで、誰も使う人はいなかったということですか……。――それは恐らくプレイヤーがいなくなったからかもしれない」

 考え込むようにつぶやいたヤマトの言葉に、ユイナもルクスも頷いている。


「ほう? 何か知っておるのじゃな……。しかしまあ、聞いても仕方のないことじゃ。今はもう使う者はほとんどおらんからな。わしの代でお主たちが使ってくれただけで十分じゃよ」

 うんうんと何度も頷きながら満足そうな表情をしているエルエル。

 これまで彼が費やしてきた年月を思い出し、それが報われたことを心から誇りに思っていた。


「そうですか……転移装置についてはわかりましたが、それ以外――つまりこのバウンディアの街について聞かせてもらえますか? 今はどんな状況なのか、俺たちみたいに外部の人間がやってきても大丈夫なんですか?」

 翼がないヤマトたちでは、悪目立ちしてしまうのではないかという懸念ゆえの質問だった。森林の民のときもかなり浮いた存在であっただろうことは彼らもわかっていたからだ。


「うーむ……そうじゃの、恐らくは大丈夫じゃろうて。実際、ウインディア族のものだけが住んでおるわけではないからのう。複数の種族がこの街には住んでおる。各島の者たちが、ここに一挙に集まってきたおかげで、この街はかなり栄えておるんじゃ。じゃから、新顔が増えてもそうそう目立つこともないじゃろう」

 穏やかに笑うエルエルの言葉のとおり、一つの大陸に集中したことで人口も増えていた。

 いくつも点在していた小さな町が寄せ集まったおかげで、ひとつの大きな街へと発展したようだ。


「この大陸にはバウンディアの他に町はあるんですか?」

「うむ、よくわかったのう。お主は昔、ここに来たことがあるんじゃったな。この大陸は他に比べてかなりの面積があるでの、それ故に分散していくつか新しく町ができたんじゃ。土地だけはいくらでもあるからのう、ほっほ」

 機嫌よく身体を揺らしながらエルエルは笑う。


 一つの大きな街――バウンディアはやがて小さな町をいくつか生み出し、各拠点とのやりとりで栄えているようだった。


 ヴォラーレ諸島の中で最大の面積を誇るこの大陸は、日本が丸々入って余裕がある程度の面積を誇っている。

 そして、この大陸は島々の中でも高い位置にあるため、下からは確認できないようになっている。


「なるほど――それなら色々と問題はクリアできそうです」

 ヤマトたちの本来の目的であるソレ。この大陸の配置ならば、それを手に入れるためにやらなければならないことは問題なく行える。

「そうだねえ、でも早めに動いたほうがいいかもね」

 ユイナも同意するが、今島がそんな状況であることで、決して簡単にいくと思わせないものであった。


「あぁ、ゆっくり街を散策したいところだけどすぐに動こうか」

 お茶を飲み干したヤマトは、そう言って立ち上がる。

「お前さんたちは一体何をしに来たんじゃ?」

 何気なく聞いてきたエルエルの質問に、にっこりと笑顔でヤマトは答えることにする。

 初見のそれを楽しもうとこれまでルクスに黙っていたが、ここにきてそれをする意味はないと考えていた。


「――黄竜との契約、です」

 その一言だけ告げると、お茶の礼に頭を下げたヤマトはユイナとルクスを連れてエルエルの家を出ていく。



ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25

ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35

エクリプス:聖馬LV133

ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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