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第百話


 しばらくの間、廃墟を散策していた一行だったが、ヤマトが別の島へと転移するための魔法陣を発見したので、一度集まることとなった。


「――ユイナ、もう十分見て回ったよね? そろそろ次の島に行かないといつまでもここにいることになっちゃうよ?」

「むー……わかった」

 まだ物足りないというように唇を尖らせながらも、目的を忘れているわけでないため、大人しくユイナは頷く。


「それで、この魔法陣は起動できるのでしょうか?」

 この建物自体も最初に見つけた町同様、かなり劣化しているため、不安そうに魔法陣を見つめながらルクスは疑問を口にする。


「……うん、大丈夫そうだ。魔力を流せば反応するはずさ」

 しゃがみこんで床に描かれている魔法陣に手を触れたヤマトが軽く魔力を流すと、それがふわりと淡く光ったのを確認していた。


「それでは、次の島にいけるのですね!」

「あぁ、次は人がいるといいんだけど」

 ヤマトは魔法陣が完全に発動するように、風魔法を使いながら周囲を綺麗にしていく。土埃がぶわりと吹き飛び、魔法陣が少しづつ姿を現す。


 その間もユイナは建物の近くで写真を撮っている。見逃しがないようにあらゆる角度からいろんなものをシャッターに収めていた。

 ルクスはヤマトの作業を手伝うように風の精霊を呼び出していた。





「――ふう、これでだいぶ片付いたかな?」

 あらかた綺麗になった魔法陣を見て、一仕事終えたように息を吐いたヤマトが顔を上げると、ちょうどユイナが戻ってきた。


「ヤマト、いけそう?」

「うん、これなら大丈夫だよ。ほら、二人とも入って」

 ヤマトに手招きされ、全員が魔法陣に入る。


 その確認を終えると、ヤマトは手をかざし、魔力を流して魔法陣を起動させる。

 彼らを暖かく包み込むように魔法陣が白にも黄色にも似た光を放つ。


「……行き先指定――島央都市バウンディア」

 目を閉じたヤマトは記憶にあるヴォラーレ諸島の最も大きな都市、バウンディアを指定する。

 彼の言葉に反応した魔法陣はバウンディアを転移先にして発動し始める。


 光量を増していく魔法陣が一層強い光を放ち、ヤマトたちをすっぽりと飲み込んでいく。

 あっという間に彼らは光に包み込まれ、しゅるんと吸い込まれるようにひとつの光の玉になると、そのまま転送される。


 光の玉は魔法陣から飛び出すと一瞬で、バウンディアの魔法陣へと飛んでいった。




 バウンディアの魔法陣に辿りついた光の玉がシャボン玉が割れるように弾けると、ヤマトたちが姿を現す。


「……う、ううん……着いた、かな?」

 転移の魔法の光に目を細めつつ、ヤマトが最初に目を開いた。

 どうやらこちらは最初の祠とは異なり、きちんと整備されているようで、周囲に人の気配を感じる。


「……ヤマト、ルクス、大丈夫ー?」

「わ、私は大丈夫です」

 気遣うようなユイナの言葉に、猫が顔を洗うように目をこしこしと擦りながらルクスが答える。


「二人も目覚めたか。……大丈夫みたいだね。こっちは本来の役割を果たしているみたいだよ」

 魔法陣を中心に祠が綺麗に整備されていることから、今もこの場所は現役で使われていることがわかる。


「――おぉ、珍しいのう。この転移装置が使われることがあるとは」

 ほっほと穏やかに笑いながらそう声をかけてきたのは、背中に翼が生えている老人だった。

 腰かけていた椅子から立ち上がり、両手で杖を持つ彼はここに長らくいたように見える。


「ウィンディア……」

 老人をじっと見つめたヤマトはぼそりと呟く。

 それは彼ら翼ある種族の名称で、正式名称は有翼種族ウィンディアフリューゲル。


「ふむ、我々の種族名は知っておるのだな。……お前さんたちは一体何者じゃ?」

 老人は片目を少し大きく開いてヤマトたちへ尋ねる。

 ヤマトたちは一回、互いに顔を見合わせ、同じ気持ちに至って頷きあった。


「えっと、どう説明したものか……――とりあえず自己紹介を。俺の名前はヤマト、彼女はユイナ、そしてそっちの猫がルクス。冒険者ということになるんでしょうか? ちょっと用事があってここに来ました」

 代表して口を開いたヤマトは困ったような表情ながらも、はっきりと名前を告げ、老人に頭を下げる。紹介されたユイナもルクスもそれに合わせて頭を下げた。

 

「……冒険者、じゃと?」

 冒険者に何か思うところがあるのか、その言葉を聞いた途端、老人はギロリとヤマトを睨み付ける。

 ヤマトはその視線を受け、自然な流れでユイナとルクスを庇うように少し立ち位置を変えた。


「何か、問題がありますか?」

 異様な気配に内心警戒しながらも、いざとなれば暴れてでもこの場所から抜け出す心づもりでヤマトは聞き返す。


「……いやあ! 冒険者が来るとは心躍るのう! 長いこと冒険者が訪れることはなかったからのう。この年になって冒険者と合うことになるとは思わんかったぞ!」

 張り詰めた空気を弾き飛ばすようにテンションが上がった老人は、一気に饒舌になっていた。


「おぉ、すまんすまん。名乗っていなかったな、わしの名前はエルエルという。エルじいとでも呼んでくれ。……しかし、お前さんらはどうやって来たんじゃ? この転送装置はわしが手入れをしておったが、まさか発動する日がくるとは思わんかったぞ」

 興奮していたことに気づいたエルエルが申し訳なさそうに笑いながらヤマトに問いかけた。

 どうやらエルエルの話からは、この装置が使われたのがかなりの昔のことであることがわかる。


「そんなに使われていないんですか……まさかそんなことになってるとは思わなかったなあ」

 困ったようにヤマトは頭を掻く。

 見つかったのがエルエルだけだったからよかったものの、場合によっては見つかったら面倒なことになるかもしれないと考えていた。


「ほっほっほ、安心せい。わし以外の人間がここにやってくることはそうそうないからのう。メンテナンスはしておったが、わしもまさか誰かがこれを使って飛んでくるとはついぞ思っておらんかったからのう」

 茶目っ気たっぷりに笑いながらエルエルはヤマトたちを安心させるような言葉を選んだ。

 老人の言葉通り、ヤマトたちがここにやってきてからある程度時間が経過していたが、それでも他の誰かが訪れる様子はない。


「なるほど、それならそこまで警戒しなくてもいいですね。それで……この一帯はどうしてこんなことになっているんですか? 俺が覚えている限りだと、ここはもっと栄えていて、色々な場所と行き来してたと思うんですが」

 安堵したように息を吐いたヤマトは自身の記憶と異なる転送装置の様子について、エルエルに質問する。 


「ふーむ、お主が言っているのは一体どれほど昔の話のことなのか……少なくともここ数十年はこの転移魔法陣が使われた記憶はないのう。メンテナンスができるのも、今ではわし一人しかおらんじゃろ」

 まるでおとぎ話かと思うほど昔のことを聞いていたようで、エルエルは首をかしげて唸る。

 それほどに、この場所は放置されている場所だった。


「なるほど……やはりそれだけの時間が経過しているのか――そもそもなんでこれは使われなくなったんですか?」

 エルエルの回答に一瞬思案したヤマトの次の疑問に、彼は腕を組んで考える。


「そうさなあ……その説明をするにはここでは無粋じゃな。このまま誰も来ないとは限らんからのう。うちに来るといい、そこで話をしよう」

「……お願いします」

 ヤマトから見てエルエルは嘘をついていたり、騙そうとしている様子が見られなかったため、ゆっくりと歩き出したエルエルの後ろをヤマトたちはついていく。


ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25

ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35

エクリプス:聖馬LV133

ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36


プロローグを含め、100話突破しました。これからもよろしくお願いします。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブクマ・評価ありがとうございます。

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