第九話
ヤマトは魔術士ギルドを出ると、街を出て魔物がいる森へと入る。
「武器はフレイムソードに変えてっと、魔物はあいつらでいいな」
彼の視線の先にいるモンスターはレベル8のワンダージグという名前の鳥タイプのモンスターだった。一般的な人間よりも大きなサイズで、身体の色は緑色をベースにしており、尖った爪と鋭い牙が特徴だった。
「さて、このレベルのモンスターなら……せい!」
軽く走り出したヤマトがフレイムソードを振り下ろすとワンダージグは一撃で倒される。
《魔術士のレベルが上がりました》
《魔術士のレベルが上がりました》
ワンダージグが消えると同時に魔術士のレベルが2上がったメッセージが流れ、ステータス画面を確認すると確かに魔術士のレベルが2つ上がって3になっていた。
「――やっぱりそうか」
複数の職業が表示され、更にはその複数のジョブに経験値が入っている。
「つまり……」
考えを巡らせたヤマトは思いついたことを試すため、剣を左手に持ち替え、右手を前に出して近場の木に向ける。ギルドで杖をもらったが、ヤマトはゲーム時代に魔法職も扱っていたため、杖を使用せずとも魔法を使うことができる。
「“ウォーターボール”!」
すると、手からボコボコと水の玉が発生し、真っすぐ飛んでいった。勢いよく飛び出した水の玉は近場の木に当たると水風船が爆発するようにばしゃんと弾けて消えた。
「お、できた。これは……すごいね!」
剣を装備しながら、同時に魔法を使うことができる。これもゲームの時にはできないことで、彼は新しいおもちゃを見つけた子どものようなぱぁっと明るい満面の笑顔になった。
「よっし、これなら次もいけそうだね」
嬉しそうにヤマトが口にした次――それは次のダンジョンのことを指していた。
そもそもがこの森での戦闘を選んだ理由は、ここの森の奥に二つ目のダンジョンがあるためだった。
レベル20から挑めるそのダンジョンの名前は『陽樹の迷宮』――壁が木でできており、全ての層においてまるで昼間のような明るさが保たれている。
その理由がダンジョンの名称にもなっている【陽樹】だった。木そのものが淡い光を放つのが特徴である。
ダンジョンの壁は陽樹の枝でできており、ほんのり光を放っている。そして天井は陽樹の幹が広く連なっているものであり、淡い光が集まって照明のような光を発していた。
「通称ルクス迷宮か」
目を細めながらダンジョンが放つ光を見つめるヤマトが言う明るさの強度を表す単位のルクス。あまりに明るいため、あるプレイヤーが口にしたものが通称として広まっていた。
「すいません、ダンジョンに挑戦したいんですが」
こちらでも、兵士が管理のために入り口前に待機していたため、笑顔でヤマトは声をかける。
「ふむ、武器も防具もそれなりのようだな……いいだろう。存分にダンジョンに挑戦するといい」
見下すようにじろじろと不躾にヤマトを見たあと、少し偉そうな兵士の言葉に、もう一人の兵士が申し訳なさそうに頭を下げていた。
「ありがとうございます。それでは行ってきます!」
だがヤマトはそれを気にしておらず、笑顔で意気揚々と陽樹の迷宮へと入って行った。
こちらのダンジョンではアシッドスライムの時のような特別な方法は使わずに、剣術と魔法を駆使して進んでいく。
装備が揃い、レベルも上がったヤマトは苦戦することなく、次々に階層を進んでいき、あっという間に最終四層に辿りついていた。
自分の力を試してみたい、そしてこのダンジョンをクリアできるレベルになっていればユイナとの再会も近づく。その二つの思いを胸にボス部屋の扉をヤマトは開いた。
このダンジョンのボスは、毒々しい色合いの巨大な花のモンスターであり、毒による攻撃や種をまくとそこから小さい花が生み出されるのが厄介な相手だった。その小さい花もまた毒を吐き続けるからだ。
「――ここでもそうなのか」
もしかしたらと予想はしていたが、このダンジョンでも本来のボスは倒されていた。無残にも巨大な花は踏みつぶされてぐしゃぐしゃになっている。
その犯人はハンマーを片手に持ったそのモンスターで強固な鎧に身を包んだアーマリーオーガ。レベルは34。
フルフェイスマスクをし、三メートルほどの身長をもつ筋肉質で無骨な盗賊を思わせるその存在はボス部屋をゆっくりと闊歩している。
「ふう、なかなか強敵が相手だな」
目を細めてアーマリーオーガを見たあと、ヤマトは自分のステータスを確認する。ここに来るまでもかなりの数のモンスターと戦っていたため、レベルは上がっていた。剣士レベル22、魔術師レベル10。
花の魔物であれば、油断さえしなければ十分戦えるレベルだったが、アーマリーオーガ相手となればそうもいかない。
アーマリーオーガの力は強く、攻撃も速いのが特徴だ。どちらの点でみてもミノタウロスを圧倒的に上回っていた。
「どこまでやれるか、まずは小手調べだ」
気合を入れたヤマトは右手にフレイムソード、左手にブロンズソードを構え、アーマリーオーガへと向かっていく。
「うおおおお!」
ヤマトは気合をいれて、声をあげながら向かっていくが、彼の存在に気づいてこちらを見ているアーマリーオーガは声を発することがない。その様子に不気味さを感じながらも、ヤマトが足を止めることはなかった。
「――せい!」
ヤマトが右手のフレイムソードを気合一閃振り下ろすが、それはハンマーによって弾かれる。
「……ぐっ、重い!」
顔を歪ませてそう言いながらも、まだあきらめるつもりなど到底なく、左手のブロンズソードでアーマリーオーガに斬りかかっていく。
カキーンという音とともに、ブロンズソードも弾かれていた。こちらはハンマーにではなく、鎧に当たった音だった。
「ぐぁっ……これは硬すぎる!」
皮膚のような当てれば少しでもダメージを与えられるようなものではなく、完全に攻撃をシャットアウトされる硬さ。これは通常の攻撃ではダメージは通らないと考えなければならない。ヤマトは悔しさにぐっと眉を寄せた。
何を考えているか分からない雰囲気で軽々と攻撃を受け止めたアーマリーオーガはヤマトの攻撃が恐れるに足らないものであるとわかり、防御を考えずに次々にハンマーを振り下ろしてくる。
「くそっ!」
振り下ろされるハンマーは速さと重さを兼ね備えた強力な攻撃。ヤマトは二つの剣を使ってなんとか防御していくが、圧倒的に不利な状況だった。
防御をしながらも攻撃を考えなければならないヤマト、対してアーマリーオーガは攻撃にだけ集中できるからだ。
攻撃を受けながらも合間合間にアーマリーオーガの弱点を冷静に探るヤマト。
相手の装備する鎧の継ぎ目は少なく、狙えるほどの隙も見つからない。
であるならば、とヤマトは渾身の一撃を放ち、アーマリーオーガのハンマーを弾く。不意に撃ち込んだ強力な一撃は相手の隙を突き、ヤマトは後方に飛んで距離をとった。
「――剣が駄目なら魔法しかないよね」
ふっと笑って見せたヤマトはあっさりと剣をしまい、戦闘方法を切り替える。
ヤマト:剣士LV22、魔術士LV10
ユイナ:弓士LV8
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