アタシは中立派
はぁい。学院に入学して半年過ぎたジャスティンよ。
入学してしばらくは、他の攻略キャラの観察して過ごしていたわ。
推しがジャスティン様とはいえ、他の攻略対象もイケメンなうえに、ゲームキャラクターを完全再現した実写版だから、眺めてると楽しかったわ。
あと、本来ゲームの展開なら生徒会に入るはずだったジャスティン様なんだけど、メインキャラと関りが無さ過ぎたせいか、生徒会に選ばれてないわ。
そもそも、入学したばかりなのに、生徒会入りしているメインキャラクター達が変なのよ。
まぁ、外側から眺めるなら、生徒会入りしない方が丁度良いんだけど。
攻略キャラを観察していて知ったんだけど、チャラ男担当の攻略対象が、黒い眼帯付けてるのよねぇ。
昔、誘拐されて、救出される際の戦闘に巻き込まれて、負傷したらしいわ。
そんな展開や設定が、あったかしら? と、薄ぼんやりした記憶を掘り返したんだけど、確かにチャラ男が誘拐された設定はあったわ。それもジャスティン様と一緒に。
その時は、ジャスティン様が一緒に居て、助け合ったから、チャラ男と硬派のジャスティン様が幼少期は仲が良かった設定だったわね。
チャラ男がチャラ男化して、ジャスティン様との距離が離れていった設定だったわね。
あら? もしかしてアタシが一緒に誘拐されていないから、チャラ男は戦闘に巻き込まれて負傷した感じ?
でも、王子の側近候補から外れたアタシは、チャラ男との交流なんてほぼ無かったから、一緒に居る状況なんて無かったのよねぇ。だから一緒に誘拐されるなんて事にはならないわけで。
まぁ、眼帯も伊達男みたいで良いんじゃないかしら。
ただの軟派そうな垂れ目のチャラ男に、ワイルドさと影がプラスされて、ひと味違うチャラ男になってるわ。
アタシ、今、何回『チャラ男』って言ったかしら? チャラ男がゲシュタルト崩壊しそうね。
で。乙女ゲーム転生したら、一番気になるのが、ヒロインの動向と悪役令嬢? ライバル令嬢? の関係性よね。
ヒロインは転生ヒロインじゃ無さそうね。天然物の天真爛漫って感じ? ちょっとウザいけど憎めないわ。
悪役令嬢は、ただのツンデレね。アタシ、ツンデレキャラ苦手なのよねぇ。でも分かりやすいツンデレで憎めないわ。
悪役令嬢の取り巻き連中が、ホント嫌な女達。アタシ、ドラマとかでやたら陥れる女、ほんと駄目なのよ。絶対無理、嫌いなタイプ。
でも、放っておきましょ。アタシ関係ないし。
「って、思ってたのに、何故か巻き込まれてるのよ!! なんで逐一アタシに報告しに来るのよ!! なんでアタシに相談してくるのよ!! アタシ男なんだから、女同士のイザコザに巻き込まないでって感じだわ!!」
「お前の言動が原因じゃないか? 女言葉で喋っているから、男だと認識されてないんだろう」
アタシが必死に訴えているのに、お父様は書類の整理をしながら、あっさりと流す。冷たいわね。
「こんなにアタシは男前なのに?!」
「うん。まぁ、男前だよ。うちの息子は男前だ・・・。ただ、それをひっくり返す要素が多すぎてなぁ。とりあえず、今履いているピンヒールと『もんろーうぉーく』とか言う、奇怪な歩き方を辞めたらどうだ?」
「嫌よ。なんだか似合うんだもの!!」
「なら、もう諦めなさい。にしても、お前はただでさえ身長高いのに、ヒールを履くと更に高くなって、威圧感あるな。そうだ、そこに立ってるなら、この書類を綴じてそっちの棚の上にある箱に入れてくれ」
そう言いながらお父様は、アタシに騎士団の書類を手渡す。
大人しく受け取って、同じ部屋にいるお父様の補佐官から道具を受け取って、書類を綴じる。何度も手伝っているから慣れたものよ。
「ふふん。今履いてるヒールだと、身長205㎝は超えるのよ。っていうか、この書類って部外者のアタシが見ても良いの? アタシまだ学生なのよ?」
「その部外者が、なんで騎士団本部の騎士団長室に我が物顔で入り込んでいるんだ。どうせ居るなら手伝ってくれ。今、王子とその側近や公爵令嬢が、色々やらかしていて忙しいんだ。余計な仕事が増えて手が回らんのだ」
あらま。学院ではそう大きなゲーム展開が起きている感じはしないんだけど、なにか問題でも起きているのかしら?
まだ半年しか経ってないから、ヒロイン虐めが起きる段階でも無いのよねぇ。
ようやく顔見知りか、知人レベルじゃないかしら?
気になるわね。首を突っ込むつもりはないけど、好奇心に駆られるわ。
「色々なやらかしって何よ?」
「第二王子がなぁ・・・」
そう言ってため息を付くとお父様は遠い目をする。同じ部屋にいる補佐官達も、お揃いの表情を浮かべているけど、一体何なのよ。
「ちょっとぉ。中途半端に情報出すの止めなさいよ。言うか全く言わないかのどちらかにして!!」
「第二王子が馬鹿なんだ」
「はい。不敬罪。有罪」
「いや、顔は良いんだぞ? 頭が空っぽなだけで」
「フォローになってないわよ。やるなら、もっと気合い入れてフォローしなさいよ。追撃しちゃってるじゃない」
アタシの反応に、しばらく俯いて考え込んだお父様は、思いついたように顔を上げた。
「側近候補達よりマシな頭だ」
そう言って補佐官達と一緒になって満足げに頷く。
いや、それ不味いんじゃないかしら?
ちょっとお父様。ナイスファインプレーみたいな表情で、補佐官達とハイタッチしてる場合じゃないわよ。
だけどこれ以上、ココでは有用な情報を得られそうに無いから、アタシは仕方なく学院と、お母さま経由で情報を集める事にしたわ。
こういう時にオネェって思われてると便利ね。女子達に混ざって情報を聞き取りやすいわ。
男子の陰キャや陽キャとも、ある程度繋がりを持ってるし、アタシ強いから『姉御』って言って慕ってくれる脳筋系もいるしで、情報がサクサク集められたわ。って姉御ってなによ?
お母様経由でも、沢山情報が入ったから、アタシって実は情報通に成れるんじゃないかしら?
ただお母様経由で情報貰うと、情報提供者から新しいドレスのデザインを要求されるから、この情報経路はあまり使いたくないわね。
まぁ、集めた情報をまとめるとぉ
学院内で派閥が3つに分かれて、それが学院の外まで影響してきているのねぇ。
・・・公爵令嬢と、ヒロインがおんなじ派閥っていうのは予想外だったわ。
なにがどうなって、そうなったのよ。
どうやら第二王子を含む、お父様曰く頭の弱い男子派閥と、公爵令嬢率いる女子派閥。
そして中立派ねぇ。ビックリな事に、中立派を率いているのはアタシらしいわよ。
強さを求める脳筋だけど真面目な騎士志望の男子達と、問題に巻き込まれたくなくて、アタシに報告・相談して来ていた女子達。あと様子見してるモブモブした生徒達で中立派が出来たみたいね。
中心で情報収集していたアタシがトップに担ぎ上げられてたって事ね。ヤダ、ちょっと止めてよ。
なんで原作と違って、第二王子と側近の頭が空っぽになっちゃったのかしら?
って数日考えて、ようやく原因に思い立ったわ。
堅物ストイックのジャスティン様が、第二王子の側近に居なかったせいで、諌め役の幼馴染が不在のまま、攻略対象達が成長しちゃったんだわ!!
ちょっとぉ。ふし穴アイズの重役達何やってんのよ。
アタシを側近候補から外すのは良いけど、それなら他の側近候補の情操教育や代わりの諌め役の側近候補を用意しなさいよ。
結果的に権力と才能をひけらかして、好き勝手やるボンボンが出来上がっちゃてるじゃない。
ぶっちゃけ顔の良い、三流当て馬集団が結成されてるって事ね。
あえて例えるなら物語の序盤に出て来る、権力に物を言わせて、気に入った女の子を無理やり引っ張って行って、成敗される小悪党キャラよ。小悪党にしては強権過ぎるけど。
これじゃあ、いくらヒロインが天真爛漫といえど、この攻略対象達を相手にロマンスは生まれないわね。
むしろ公爵令嬢のツンデレがヒロインに対して発動して、攻略対象達の前に立ちはだかるという別のドラマが生まれてるわ。
アタシ好きよ。この展開。
面倒見の良いツンデレ令嬢が、天然少女の世話をあれこれ焼きながら、ボンボン達の魔の手から守ってあげるのね。
天然少女はツンデレに振り回されながらも、彼女の優しさに気づき始めて、乙女の友情が生まれるのね。
良いじゃなーい。
では、中立派はしばらく黙って様子を見る事にするわよ。
両陣営の動向の監視、情報収集を続けて頂戴。では解散。